第49話 踊る、謎サボテン戦

「ありがとうございますっス! まさかお二人もついてきてくれるなんて、嬉しいっス!」


「あー、まあなりゆきで……」


「だにゃー。あのまま作業場にいるのは、ちょっとにゃー」


 私とケート、そしてナインは、三人並んで荒野を彷徨っていた。

 時折襲ってくるコンドルみたいな鳥をナインとケートが撃ち落とし、突っ込んでくるサイみたいな動物を私が斬り伏せる。

 順調すぎて、まったく緊張感の欠片もない狩りだった。


「そういえば、ナインさんはなんでナイトメアを狩ろうって思ったの? 倒すの面倒な相手だったと思うんだけど」


「あ、自分っスか? 自分、難しい相手ほど燃えるんスよ! リアルも、絶対無理ってことをやりたくなるんで、よく止められてるんスけど、こっちなら死んでも生き返るじゃないっスか! だから、今じゃ無理って言われてたナイトメアをやりたかったんスよ!」


「あー、分かるにゃー。私も無理って言われると、挑戦したくなるタイプだからにゃー」


「分かってもらえるっスか! 嬉しいっス!」


 うわっ、めんどくさい二人が結託した。

 でも、気持ちは分からなくはないんだよねー。

 リアルじゃやれないようなことも、こっちなら気兼ねなくやれるっていうか。

 死んでも死なないからねー。


「でも、セツナとあれだけ戦えるなら、イベントに出る気はなかったのかにゃー?」


「最初は出ようかと思ってたんスよ。でも、ナイトメアアイツに会ってからは、アイツを倒すのが一番優先になったっス。イベントのおかげで、夜に他のプレイヤーが森に入ってこなかったのも、タイミングとしては良かったっスから」


「なるほどね。確かに、松明を最初に狙うって分かってても、他のプレイヤーが近くにいたら、どれくらいのタイミングで襲ってくるか、見当がつかなくなる、か」


「そうっス! だから、誰も森に興味を示してない、イベント期間に倒そうってしてたっス! 死にまくって、倒せたのは最終日っスけど」


 へへっ、と照れたような顔で頭を掻くナインに、私とケートも微笑ましくなってしまう。

 なんだかなー、毒気が抜かれる感じだよね。


「しかし、ナイン君よう。チミは良いのかい? リンに装備を作ってもらうと……私達の仲間みたいに扱われるようになるぜ?」


「へ? そうなんっスか!?」


「ボスモンスターの素材だからねー。カリンさん、絶対に気合い入れて作るだろうし……普通の装備とは、見ただけで違うって感じるものが出来ると思うよー」


「にゃはは、私達みたいな装備になっちゃうぜ」


 言ってその場で回ってみせるケートにちょっと引きつつ、私は「そうだねー」とだけ返しておく。

 しかしナインは「うおぉぉ!」と謎の盛り上がりを見せた。

 

「お二人の装備、最初からカッコいいって思ってたっス! ケートさんの綺麗な感じとか、セツナさんの大人っぽい感じとか、すごい良いっス!」


「あ、ありがと……」


「にひひ、さんきゅーだぜ」


「だから、装備ができるのは滅茶苦茶楽しみっス! なので、素材集め、よろしくお願いしますっス!」


 そう言って元気よく歩き出すナインに、私はそっと溜息つきつつ、後ろを追った。

 ちなみに、私達が探している素材は、とあるモンスターが落とす素材らしい。

 ケートが言うには、サボテンらしいんだけど……荒野にサボテンってあるの?


「砂漠にあるイメージが強いけど、リアルでも荒野のサボテンは結構有名だぜー」


「そうなの?」


「うむー。サボテンばっかり生えてるような場所もあるくらいだからにゃー」


「ケートさん物知りっスね! すごいっス!」


 「すごいっス! カッコいいっス!」とはしゃぐナインに、ケートはドヤ顔して「崇めたまえー」とか言う。

 何様なのよ、ケート。

 まあ、物知りなのは認めるけど……その頭をもう少し勉強に使ってたら、もっと良い点数取れそうなのになー。


「そんなこと言ってたらモンスターっス! たぶん、アレが目的のヤツっスよ!」


「あー、そうだねー。アレが落とすぜー」


「……サボテンって歩いたっけ? あれ、そもそもサボテンがモンスターって……?」


「セツナは真面目に考えすぎにゃー。モンスター、いこーる歩くって感じにゃ」


 にひひと笑いながら、ケートは両手を前にかざし、「ぶっとべ、『ロックショット』!」と、使いなれた【土魔法】を放った。

 その魔法は拳大サイズの石を発射する、すごく分かりやすい魔法で……それだけに、速度も威力もなかなかのもの。

 だったはずなんだけど。


「よ、避けたにゃ……」


「あのサボテン、結構カラダ、柔らかいっスね……」


「というかあの動かし方は、法則を無視してる気がするんだけど」


 ぐにょん、ぷるんっと、まるで軟体動物のようにその身を曲げて回避したサボテンに、私達は全員揃って唖然としてしまう。

 いや、だってサボテンが動くだけじゃなくて、めちゃくちゃ柔らかく、そして滑らかな回避したんだよ!?

 そりゃ、驚いちゃうって!


「と、とりあえず攻撃するっス! セツナさんは、接近お願いしますっス!」


「あ、うん」


「私はとりあえずナイン君のサポートでもしようかにゃー。攻撃しすぎてセツナの邪魔してもアレだしねー」


「お願いしますっス! んじゃいくっスよ! 【弓術】『パワーシュート』っス!」


 駆ける後方から飛んできた矢を、サボテンはまたしてもぐにょんとした動きで避ける。

 う、ううーん……見てるだけで、なんか常識が壊れていく気がする……。

 いや、ゲームだし、常識には当てはまらないんだろうけど……。


「高速連弾、『ウィンドブロー』オォォォォォォォ! にゃ」


「す、すごいっス! ケートさん、さすがっス!」


「にゃはは、もっともっと褒めたまえー」


「ははー、ケート様ぁっス」


 戦闘中に何やってるんだろう……。

 しかも、サボテンは全部避けてるっぽいし。

 まあ、おかげで楽に接近できたけどさー。


「あとはセツナやっちゃえー」


「お願いしますっス! セツナさん!」


「はいはい。【蝶舞一刀】水の型『水月』!」


「……サボ、テーン……」


 サボテンはサボテンって鳴かないよ!?

 むしろ、サボテンは鳴かないよ!?


「あの人、一撃ですって、ナインさん」


「まあ、すごいでスわ。ケートさん」


「断末魔すらあげさせない、一刀両断でしたわ。かわいそうに……」


「……」


 そもそも、サボテンは断末魔あげるものじゃないと思うんだけど。

 とか思いつつ、一応ケートの頭に手刀を落とし、訳のわからない小芝居を止めさせた。

 相変わらず良い音するなー。


「せ、セツナさん……いきなりっスね……」


「バカなことしてたからでしょ?」


「そ、そうっスね! ケートさんったら戦闘中に、気を抜きすぎっスよ!」


「ちょ、ナイン君!? 人のこといえなぐぇっ。ぐぬぬぬ……」


 ずびしっとケートにもう一発入れて、その口を閉じさせる。

 悶えるケートにため息を吐きつつ、私はアイテムボックスの中身を確認した。

 あ、あのサボテン『サボテンダンサー』って言うんだ……ダンサーて。


-----


 名前:セツナ

 所持金:211,590リブラ


 武器:居合刀『紫煙』

 防具:戦装束『無鎧』


 所持スキル:【見切りLv.4】【抜刀術Lv.14】【幻燈蝶Lv.4】【蹴撃Lv.6】【カウンターLv.9】【蝶舞一刀Lv.9】【秘刃Lv.2】

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