第48話 弓使いは影と踊る
「改めまして、ナインっス! よろしくお願いしますっス! あと、先ほどは失礼しましたっス! チャンスを逃したくなくて、周りが見えてなかったっス」
共有作業場に移動した私達は、まず話をと、部屋の真ん中に置かれていた机をかこむ椅子に腰かける。
すると、赤髪ショートカットの女の子……もといナインが、ビシッと直角に頭を下げた。
ナインの身長は、私やケートより低く、カリン達よりも少し高いくらい。
赤髪にちょっとつり目っぽい赤目で、快活さが全身から滲み出ていた。
「だ、大丈夫です。えっと、それでどうしてカリンさんに?」
「ありがとうございますっス! 第一回イベント装備品部門の優勝作品を見て、依頼するならこの人しかいないって思ったっス!」
「ん。感謝」
「あ、ありがとうっていってます」
「なるほどっス! さすがお仲間っスね! 自分じゃ全く分からなかったっス!」
ペカーと後光が差しているほどに眩しい笑顔で言い切るナインに、ミトが「ふえ!?」と照れたように顔を真っ赤にして驚く。
うんうん、さすがミト。
私はいまだにカリンがなに言ってるのか分からないしねー。
「依頼」
「依頼の内容を教えてほしいそうです。たぶん、戦い方は先程の決闘を見てるので、大丈夫……ですよね?」
「ん。弓と軽装」
「すごいっス! さすがっスね! そうっス、弓メインの高速戦闘タイプっス!」
スムーズに進んでいく話し合いを、いちいち感動して大きな動作で驚いたり喜んだり。
あ、たぶん私……ナインみたいなタイプ苦手かも。
「にゃはは、セツナはグイグイ押してくる、押し
「うん。ケートがギリギリイラッとするくらい」
「な、なぬ!?」
「嘘よ。ケートなら大丈夫」
マジで悲しいって感じの顔をしたケートに、私が少し笑いながら訂正すれば、ケートは「よ、よかったにゃぁ……」と机に突っ伏す。
そんな私達を見て、ミトがいつも通りクスクス笑っていた。
「お二人、仲良いんっスね! さっきも相棒って感じに信頼しあってる感じがしてて、カッコいいって思ってたっス!」
「そ、そう?」
「照れるにゃー」
「アレなんスか? お二人って、お付き合いとかされてるんスか?」
「ぶっ!?」
突然すぎる爆弾に、私とケートは固まり、カリンは我関せずを貫き……ミトは飲もうとしていたジュースを吹き出した。
ちょっとミト……汚い。
「私とケートが? ないない、同性だしね。親友みたいなものよ。ねえ、ケート」
「私はセツナなら良いぜ? 愛してるよ、セツナ」
「……どうやって死にたい?」
「嘘ですすいません。大好きなのは大好きですけど、お付き合いとかはまだそんな考えたこともないですすみません」
私がケートに笑顔で訊いてあげると、ケートは頭を机に叩きつける勢いで下げる、
だから私は、そんな頭に軽く手刀を落とし、「ぷぎゃ」という、ケートの鳴き声を聞いて許すことにした。
いや……だって、そういうこと言うならもっとムードを。
って、そうじゃない。
「あれ、違うんスかー!? そっスかー……お似合いだと思ったんスけど」
「お、お似合いとか、別にそんな」
「おっと、セツナが照れてるにゃー。にひひ、可愛いところもあるのう、うひひ、ひぃっ!?」
カラカラ笑うケートの目の前で拳が止まる。
間にある机のおかげで……そこで止まっただけだが。
「チッ、外したか」
「せ、セツナ。その、落ち着いて?」
「うっさい!」
「ひぎゃー!?」
椅子を蹴り飛ばしケートへと手刀を落とす。
しかしそれはギリギリで回避され……私は刀へと手を伸ばした。
「【蝶舞一刀】水の型」
「ひぃ!?」
「『水げ」
「うるさい」
刀を抜こうとした瞬間、私の頭にペスッと手刀が落ちてくる。
その手と声に後ろを振り向くと、そこには……相も変わらず無表情のカリンがいた。
あ、いや、無表情だけど……ちょっと怖い、気がします?
「あ、えと、カリンさん。その」
「うるさい」
「リン、そのごめんなさ」
「うるさい」
有無を言わせぬ迫力に、私もケートも「……はい」と、その場で正座してしまう。
しかしカリンはなにも言わず背を向け、ナインの前へ座り「依頼」と話を進めた。
こ、こわ、こわい!
「あ、えと、その……依頼は、武器と装備一式っス!」
「素材。効果」
「素材はどの素材で、また、武器や防具でこういった方向性が……とかあれば言ってほしいみたいです」
「はいっス! 素材はコイツを……東アルテラ森林のボスモンスター『ナイトメアバット』の素材を使ってくださいっス!」
そう言って取り出した素材に、私達全員が驚きつつ顔を近づける。
うっわ、ホントにナイトメアの素材だ……。
ってことは、やっぱりこの子が。
「ナイトメアをソロで討伐したっていうプレイヤーは、やっぱり君だったんだにゃー」
「はいっス! 10回くらい挑みましたっスけど、最後は気合いで押しきったっス!」
「よく倒せたね。ナイトメアって暗闇の中、急に襲ってくるって聞いてたけど」
「そうっス! でも、最初は絶対に
ニカッと笑いながら話をしてくれるナイン。
いや、最初に狙ってくる場所が分かってても、タイミングとかわからないんじゃ……。
「タイミングはこっちで調整したっス! ある程度戦えそうな場所を探して、日が落ちる前に松明だけを地面に立ててセットしておいたっス」
「そっか、それなら相手が襲ってくるのを別の場所から確認できるね」
「そうっス。あとは最初に、臭いの強い果物を矢につけてぶつけたっス」
「なるほどにゃー。見えなくても臭いで分かるようにしたのかにゃー」
どれもこれも、何回も死んで考えた案らしい。
タイミングがわからないから、タイミングがわかるようにしたり。
見えないから、見えなくても感知できるようにしたり。
結構考えてる子かもしれない……。
「まあ、最後は攻撃を受けたところを掴んで、無理矢理動きを止めたあと、矢で突き刺しまくったんスけどねー」
「あ、ただのバーサーカーだったわ」
「だにゃ」
「ん」
見た目に反して、知性的な戦い方だったから驚いてたのに、最後の最後である意味見た目通りの行動してた。
きっとケートもカリンも同じ気持ちだったんだろう。
ミトはー……乾いた笑い声が聞こえるし、同じ気持ちっぽいね。
「それで、どうっスか!? この素材で装備って、作れそうっスか!?」
「ほぼ可能」
「えっと、大体は作れるけど、少しだけ足りないから、取りに行ってきてほしいってことだと思います」
カリンの言葉を代弁したミト。
その言葉を聞いて、ナインはすごく嬉しそうに笑顔をみせた。
「分かったっス! 任せてくださいっス!」
そして、またビシッと直角に頭を下げたのだった。
暑苦しい……やっぱり苦手かも。
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名前:セツナ
所持金:211,590リブラ
武器:居合刀『紫煙』
防具:戦装束『無鎧』
所持スキル:【見切りLv.4】【抜刀術Lv.14】【幻燈蝶Lv.4】【蹴撃Lv.6】【カウンターLv.9】【蝶舞一刀Lv.8】【秘刃Lv.2】
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