第47話 過去との決別

「さあ、勝負っスよ、セツナさん!」


 噴水広場で、私と赤髪ショートカットの女の子が向かい合う。

 どうしてこうなったのかは本当にわからないけど、公開PvPを申請されたからには、戦う他にはないよね。

 

 ちなみに、公開PvPっていうのは、普段の決闘とは少し違い、決闘システムを利用こそするものの、決闘場へはワープせず、その場で行われる戦いのことらしい。

 もちろん、観客には攻撃が届かないように、見えないバリアが張られてるとかなんとか。


「あ、セツナは武器と防具を初期装備にしてねー」


「え? なんで?」


「だって、相手の子の装備って、店売りレベルだからにゃー。不公平はノンノンだよー」


「……なるほど。ハンデみたいなものって考えればいいかな」


 それならまあ、そうしようかな。

 というわけで、初期装備である『初心者の刀』と『布の服』に装備を変えた私と、赤髪ショートカットの女の子の戦いが始まった。


「初期装備だからって、手加減できないっスよ! 【弓術】『パワーシュート』っス!」


「狙いはなかなかいい感じかなー? でも、まあ、その程度の矢なら……ほいっ」


「あの速度を叩き折るっスかぁ!?」


 開始直後からスキル技で攻撃をしかけてきた女の子に、私は軽く刀を振って矢を叩き折る。

 んー、やっぱり武器が違うと、ちょっと感覚がズレるなー。


「じゃ、じゃあ次っス! 一発じゃなくて、複数なら大丈夫っスよね! 【弓術】『ラピットアロー』っス!」


「【蝶舞一刀】風の型『旋花』」


「ひょえー!?」


 かなりの速度で連射された矢を、両方ともほぼ同時に下から斬り上げる。

 この子……弱そうに見えて、結構強い?


「ねえ、ケート」


「ん? なにかにゃー?」


「少し本気を出しても良いかなー?」


「……ほほう。良いぜよ。存分にやるがよい!」


 すぐ外で見ていたケートに許可を取り、私はスッと腰を落とす。

 たぶんだけど……この子、今かなり手を抜いてるっぽい気がする。


「少しだけ本気で斬る。負けたくなければ、避けるなり防ぐなり頑張って」


「ひ、ひぃ!? ちょ、ちょっと待ってくださいっスぅ!」


「【蝶舞一刀】水の型」


 右手を刀の柄に添わせ、先程放たれた矢よりも早く、一足跳びに懐まで潜り込む。


「『水月』ッ!」


「え、【影走術】『舜影しゅんえい』」


 斬った、そう思った瞬間……ヌルりと手応えが霧散した。

 直後、真後ろからヒリ付くような感覚がはしり、私は即座にその場から転がるように横へと跳んだ。


「ありゃ、避けられたっス? マジっスかー」


「やっぱり。さっきまでのは本気じゃなかったんだ」


「そそそ、そんなことないっスよー! ちゃんと狙ったりしてましたし、折られたときはビックリしたっスよ!」


 あわあわと両手を振って弁解する女の子。

 しかし、その後すぐに「まあ、アレで決まってくれれば楽できていいなーとは思ってましたけども……」と苦笑を見せた。


「でも、これを見せちゃったからには、勝たせてもらうっスよ! 【影走術】『極影陣きょくえいじん』!」


 スキル技の宣言と共に、溶けるように地面へと消えていった女の子。

 しかし、気配は感じる……気がする。

 それも四方八方から。


「まあ、なんにしても負けられないのは同じかな。……もう負けないって決めたから」


「ならこれを防いでみるっス! 【弓術】『アローレイン』!」


 四方八方に感じる気配から、大量の矢が、ほぼ同時に飛んでくる。

 【幻燈蝶】で避けるのは簡単……けれどそれは、ケートと戦ったときにも同じことをして負けたのだ。

 だからこそ、もう同じ手には乗らない。


「【蝶舞一刀】火の型『発破』ァ!」


 打ち砕くは真下の地面。

 そして、舞う瓦礫を……私は今まで使ったこともなかった【蹴撃】のスキル技『乱脚らんきゃく』で、全て蹴り飛ばした。


「ハアァァァァァッ!」


 イベントでケートと戦ったとき、私がこのスキルを……いや、持っている全てのスキルを、しっかりと把握していたならば、ケートの攻撃に対し、もっと取れるべき手段はあったんだろう。

 せっかくケートがイベント前に『考えないよりも考える。考えすぎるよりも自分らしく』って教えてくれたのに……私は、自分の力を過信するだけで、自分の手札さえもしっかりと考えていなかった。

 だから負けたんだ。


「め、めちゃくちゃっスよぉ!?」


「見えたッ! 【蝶舞一刀】水の型……『水月』!」


 蹴り飛ばした瓦礫で矢を防ぎ、隙を見せた見えない敵の気配を捉え……私は一刀の元に斬り伏せる。

 ……また、つまらぬものを斬ってしまった。

 だから私の過去も、ここでさようなら、だよ。


『勝負あり! セツナの勝利!』



「負けた……私が負けたっス、か?」


 地面へと四つん這いになりながら、信じられないといった声でそう呟く女の子。

 その目の前に、ひとつの影が差し……「依頼」と短く声をかけた。


「へっ?」


「依頼、詳細」


「え、あの、自分負けたっスよね?」


「誰もセツナに勝てとは言ってないにゃー。戦ってみろって言ったんだぜ? で、リンも興味出たみたいだし、詳しい話は作業場でやろうぜ」


 カリンの後ろから女の子へと声をかけたケートが、そう言って笑う。

 すると、それに合わせてカリンもまた「ん、同意」と頷いた。


「あ、ありがとうございますっス! ぜひ、お願いしたいっス!」


「うんうん。元気だにゃー。じゃ、私らの後についてきてくれるかな? ……ナインさん」


「はいっス! ついていきます…っス? あれ、自分名乗ったっスか?」


 立ち上がり、ケートの後をついていこうとした女の子……もとい、ナインが首を傾げる。

 そんなナインにまた笑い、ケートは「決闘システムのアナウンス」と、ネタばらしをするのだった。


-----


 名前:セツナ

 所持金:211,590リブラ


 武器:居合刀『紫煙』

 防具:戦装束『無鎧』


 所持スキル:【見切りLv.4】【抜刀術Lv.14】【幻燈蝶Lv.4】【蹴撃Lv.6】【カウンターLv.9】【蝶舞一刀Lv.8】【秘刃Lv.2】

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