第三章『君には届かない』

第46話 スライディング土下座

 イベントが終わってリアルで数日が経過した頃、私はケートと二人で、イーリアスの街の外で狩りをしていた。

 そして、今はケートのMP回復も兼ねて、のんびりと休憩中だったりする。

 見渡す限りの荒野っぷりに、自分がすごく小さな存在に思えてしまいそうだった。


「そういえば、セツナはもう見たー?」


「ん? 何が?」


「公式にアップされたプロモーションビデオだよー。ほら、イベントの」


「あー、なんかそんな話あったね」


 たしか、イベントの様子を編集してPVにするんだっけ?

 そういえば、そのお金が云々とかあったような気がするんだけど……。


「その辺は今度、リアルの方で連絡するよー。こっちにログインしてたら操作できないしさー」


「はーい」


 まあ、それ以外にも色々あったしね。

 準優勝賞金で20万リブラも貰えたし、称号で『第一回戦闘イベント準優勝者』っていうのももらったし……。


「そういえば、なんだっけ……本選出場ってことで、なんかスキルを取れるアイテムくれたよね? あれって、なんなの?」


「なんなのって言われても、スキルを取れるアイテムだにゃー。色んなスキルから選べるし、中には取るのが難しいスキルも入ってるんだぜー。まあ、ひとつにつきひとつだから、今回は一個だけだけどにゃー」


「なるほど……。ケートはもうとったの?」


「いや、まだ取ってないぜー。ちょっと方向性を決めかねてるからねー」


 そう言ってケートは、スキルウィンドウを操作して私に見せてくれる。

 えーっと、【土魔法】【水魔法】【火魔法】【風魔法】の各属性魔法がLv.12、あとは【魔力操作Lv.14】と【魔法連結Lv.11】かー。

 どのスキルも結構育っててすごいなぁ……。


「武器の効果もあって、魔法の発動数が多いからにゃー。レベルは上がるんだよねー」


「ふむふむ」


「ただ、ほら、私って【魔法連結】をメインに戦ってるからにゃー。普通の魔法使いとは考え方が変わりそうなんだよねー」


「あー、なるほど。普通の魔法使いは土の拳で殴ったりしないし、自分ごと槍で貫いたりしないもんね」


「そうそう……それはなんかあれだけど、まぁそう」


 苦笑しつつも頷くケートを横目に、私は決勝戦の最後を思い出す。

 あれはなんていうか……ゲームの中で死ぬことに対して、慣れてるか慣れてないかの差が如実に出たって感じなんだよね。

 終わった後にケートに“どうしてあんな攻撃ができたの?”って訊いたら、『ゲームの中だし、あのダメージならギリギリ1か2程度のHPは残る計算だったから』って。


 そう聞いて……私は、今のままだと本気の勝負では絶対に勝てないな、って思ったんだよね。


「ま、考えるのは後だにゃー。とりあえずPVみようぜ、PV!」


「……うん。そうしよっか」


 それからの私達は、ある連絡が入るまで、延々とPVを見ては笑ったり悔しがったりして、二人でいることを楽しんだのだった。



 side.ミト


 どうすればいいんでしょう……。


「お願いしますっス! 取り次いでくださいっス!」


 この、土下座してる人……さっきから、全然話を聞いてくれない。


「あ、あの、とりあえず顔を上げて」


「取り次いでいただけるまで、このまま頭を下げさせていただくっス! だからどうか、カリンさんに取り次いでくださいっス!」


「そ、そのためにまずお話を聞かせていただきたいんですー!」


 土下座したままの赤髪ショートカットの女の子? と、生産イベント飲料部門優勝者が、アルテラの噴水広場でなんかやっている。

 そんな状況を、周りの人が気にしない訳もなく……どんどんと人が集まり、気づけば周囲を囲むように人垣ができていた。

 どうすれば、どうすればいいんですかー!? 



 事の始まりは、ちょっと素材を取りに一人でアルテラの街へ来て、やりたいことを終わらせて帰ろうと、噴水広場に戻ってきたことだった。

 よーし、帰ってポーション作るぞーとやる気に道溢れていた私の目の前に、スライディングするようにこの人が滑り込んできたのだ。

 ……今と同じ、土下座の姿勢で。


「生産イベントの優勝者ミトさんと見込んで、お願いがあるっス! 装備部門優勝のカリンさんに、依頼したいっス!」


「え、ええ。お話は聞かせていただきますけど……」


「ありがとうございますっス。ぜひカリンさんに、お願いしたいっス! 取り次いでいただきたいっス!」


「え、だからお話を……」


 以降、話がループし、この現状だったりする。

 どういうこと!?


「あ、あの! 顔をあげてください! その、お話聞かないと、取り次ぎもできないです!」


「そ、そんな! 取り次ぎしてくださいっスー!」


「ああ、もう! 話が進まないですー!」


 土下座のまま動こうとしない女の子に、私ももうほんとにどうすればいいのかわからない!

 だから私は仕方なく、助力を願うことにした。

 だって、どうしようもないんだもん!


「えっと、『たすけてください』……と」


 端的すぎたかもしれないけど、土下座してる人の前でウィンドウいじってると、周囲の目が痛いんですー!

 はやく、早く来てくださいー!


 そんなこんなで、10分ほど土下座の人と攻防を繰り広げていたところに、待望の助っ人が現れた!

 あ、用心棒さんも一緒ですね。


「へい、呼ばれてきたぜー! 天才魔法少女ケートちゃんにゃー!」


「ケートさんー! たすけてくださいー!」


「その声は、ケートさんっスね! あなたもたしか壇上に上がってた人っス! ぜひ、カリンさんに取り次ぎをお願いしますっスー!」


「……なにこの状況」


 混沌としている噴水広場の現状に、セツナが困惑したような顔でそう呟く。

 ええ、私も同じ気持ちです。


「よし分かった! じゃあ、君に試練を与える!」


「えっ。ケートさん!?」


「試練っスね! 良いっス、受けて立つっス!」


「ふっふっふ、良い度胸だ。……君の度胸を見せてもらおう! ここのセツナ相手に、公開PvPで戦ってみるがいい!」


 ノリノリでそう言ったケートに、私はもちろん、周囲の人たちも「えっ」と固まってしまう。

 え、PvP?


「ねえケート。なんで、私?」


 当の本人は……あっ……怒ってる?

 

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 名前:セツナ

 所持金:211,590リブラ(+200,000)


 武器:居合刀『紫煙』

 防具:戦装束『無鎧』


 所持スキル:【見切りLv.4】【抜刀術Lv.14】【幻燈蝶Lv.4】【蹴撃Lv.6】【カウンターLv.9】【蝶舞一刀Lv.8】【秘刃Lv.2】

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