第37話 本選開始は忍者から

 プアーンパパパプアーンと鳴る、不思議な楽器の音を聴きつつ、私とケートは『イーリアス公開決闘場』のステージの上に立っていた。

 左右には、同じように予選を勝ち抜いてきたらしい、出場者の面々がいて、その中にグレンさんの顔を見つけて、軽く頭を下げる。

 ……もうすぐ本選が始まるのだ。


『おはようございます、皆さん。これより第一回イベント、君の力を見せてみろ! 第一回最強決定戦! の本選を始めます』


 決闘場中央の空中に、四方に画面を向けた巨大スクリーンが現れ、生産イベントでも出てきた司会の女の子が現れた。

 どうやら、今回も彼女が担当らしい。


『本選は、今ステージの上に立っている十六名で行われるトーナメント方式です。出場者の皆様にクジを引いていただき、そのクジに書かれている番号で、トーナメントの枠が決まります』


 なるほど。

 それなら不正とかもできないだろうし、見てる方もドキドキしていいよね!


『では、クジを引いていただきましょう。クジを引く順番は、予選突破にかかった時間が、早かった順です……ではまずは、セツナさんから』


「あ、はい」


 目の前に現れた四角いボックスに手を突っ込んで、中に入っていた玉をひとつ取り出す。

 そこには大きくD2と表記されていた。


『セツナさんはD2なので、表の真ん中左側になります! では次は、イサリさん』


 次々に進むクジ引きを眺めながら、どんどん埋まっていくトーナメント表に「ほえー」と、なんとも言えない声をあげる。

 だって、この表……ほんとに裏でなんか操作してたりしないよね?


『では、最後だったミシェルさんが残りの場所に入りますので……最初の試合はスバルさんとイサリさんの試合になります! 10分後に開始となりますので、スバルさんとイサリさんは、それぞれに所定の控え室でお待ちください』



 私達はステージからおりた後、出場者専用ブースでカリンとミトに合流し、四人でのんびりと試合が始まるのを待っていた。

 しっかりとしたソファーで、結構ホールド感もあって気持ちいい。

 これ、自室にほしいなぁ……。


「見事に離れちゃったねぇ」


「ん? だねー。これ、ケートと戦おうと思ったら決勝戦まで行かないとだねー」


「いや、それは無理。絶対無理」


「そう?」


 ケートの方のブロックで大変そうなのはー……ゴンザブローさんとミシェルさん?

 他にもいるのかもだけど、昨日予選の動画を見たなかでは、この二人がずば抜けてた印象かなー。

 特にミシェルさんはすごい。

 地味だったけど、地味なだけに目立たないけどすごかった。


「セツナも、決勝に来るまでにグレンさんと戦わないといけないんだからね? わかってる?」


「わかってるよー」


「でもまあ、先のことよりも、とりあえずは次の試合だね。セツナは拳闘士のマッカートさん。私は大槌のバンドルさんかー」


 マッカートさんは、軽いフットワークで戦うボクサーのような人だ。

 予選の試合でも、その華麗なステップで攻撃を躱し、鋭いパンチで顔面KOを連発してたはず。

 まあ、そこまで速すぎるわけでもないし、攻撃の距離が長いわけでもないから……たぶん、大丈夫かな?


 ケートの相手のバンドルさんは、大槌使いのマッチョさん。

 まるでボディービルダーのような筋肉ムキムキの男性で、バンドルさんが持ってる大槌は、大きいはずなのに、どこか小さく見えるっていう不思議な感じの人だった。

 でも見た目に違わぬパワーファイターで、剣も盾も鎧も、全く関係なく吹っ飛ばしちゃうから、まるでダンプカーみたいだったかな?


「そういえば、最初の試合のイサリさんって、たしか予選で目立ってた人だよね?」


「うむ。忍者だ」


「目立ってる忍者って……」


「でも、あのスタイルは完全に忍者。ほら、今も空蝉うつせみの術を使ってるし」


 そう言われて試合を見れば、ステージの上に丸太が現れていた。

 丸太……わざわざ用意したのかな?


「回復アイテム以外は使えるから、攻撃アイテムとかは使用可能なんだよね。投石用の石とか」


「つまり忍者なら……手裏剣!?」


「まきびしもつかえるはず……」


 その言葉に、私は試合へと集中する。

 忍者が戦ってるところを見られる機会なんて滅多にないからね!


「食らうでござる! 忍法、影縫いの術!」


「な、なにィ!? 動けない、だと!?」


「ふっふっふ、拙者の技はリアルでも培いし、正当派忍法。力業では動かせぬよ」


「く、くそっ!」


 リアルで培いしって、リアルでも忍者してるの……?

 リアル忍者がVR機器で電子世界の忍者、とは?


「ではこれにて、終演でござる! 忍法、五月雨の術!」


「ぐ、ぐあぁぁぁぁぁ!」


 空中からの超高速クナイ連射。

 決して対応できないほどではないものの、影縫いによって動けない相手はメッタ刺しになる他なかった。

 これはえぐい。


「うっわ忍者汚いにゃー……」


「動けない相手にあれはひどい」


「でも、あの忍者強いね」


「うん。身代わり系の技もあるって考えると、相手しにくそうかも」


 身代わりを使って接近されると、判断が難しくなるし、そもそも戦闘中に相手を見失うのはマズすぎる。

 私が使ってる【幻燈蝶】も同じようなスキルなこともあって、その効果は見に染みて分かっているのだ。

 んー、あの忍者と戦う可能性はありそうだなー。


「なんにしても、予選突破の半分以上が、このイベントまでほとんど無名だったからにゃー……。情報源が予選の動画しかない以上、目の前で戦いを見られるのはありがたい限りだぜー」


「だねー。といっても、私もケートも、初戦は動画の知識だけで戦わないといけないから、気を引き締めないとだけど」


「うむうむー。最初は様子見……って言いたいけど、それは難しいだろうにゃー。私達は一度、グレンさんのところで戦う姿を見せちゃってるし、動画も合わせて全部は見せてないにしても、攻撃力だとか動きだとかは露出あるしねー」


 そう言えばそうだっけ?

 ってことは、相手は私達の戦い方について多少は対策をとってくるってことかー。

 んー、これは厳しそう、かも?


「ま、言っててもやってみなきゃ分からないからにゃー。今は楽しみつついようぜー」


「……それもそうね」


 などなど、そんな会話を楽しみつつ私達は目の前で繰り広げられる試合を見ていく。

 そうこうしていれば、私の順番が来たこともあり、私は一人控え室へと向かったのだった。

 なお、激励でもあるかと思ってたけど、三人とも「あー、いってらっしゃーい」って感じだった。

 カリンなんて「ん」で終わりだし、わかってたけど!


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 名前:セツナ

 所持金:11,590リブラ


 武器:居合刀『紫煙』

 防具:戦装束『無鎧』


 所持スキル:【見切りLv.4】【抜刀術Lv.14】【幻燈蝶Lv.4】【蹴撃Lv.6】【カウンターLv.9】【蝶舞一刀Lv.8】【秘刃Lv.2】

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