第38話 弓使いは地味に強い

 結果:斬って勝った。


「ひっどい戦いだったにゃ……。思い出すのも可愛そうだったにゃ……」


「ん、鬼」


「セツナさん、あれはちょっと……」


「なんかひどい言われよう!? なんで!? 勝ったのに、なんで責められてるの!?」


 ケートなら分かるけど、普段は擁護に回ってくれるミト達までそんな!

 ひどい、ひどい!


「だって対戦相手マッカートさん、全然いいところ無かったし……。勝てるのは九割分かりきってたけど、それならそれで花を持たせてあげるとかさー」


「正しい」


「ケートさん……カリンさんまで……」


「いや、でも一息に殺してあげないと、余裕で避けるのに攻撃しないとか、それはそれで自身喪失しちゃわない?」


 なんて、もっともなことを言い返せば、ケートは「うわぁ……」ってドン引きしたような顔を見せてくる。

 どうすればいいのよ!?


「はっはっは、セツナさんは相変わらず凄いな。マッカート君とはお互いの練習もかねて何度か戦わせてもらったんだが、あの攻撃速度や、天性のカンによる間合いの取り方は、かなり苦戦させられたぞ?」


「あ、グレンさん。二回戦進出おめでとうございます。そんなに速く感じなかったんですよねー、緊張してたのかも?」


「ああ、ありがとう。セツナさんもおめでとう。……緊張するような人ではないと思うんだが、まあそう思ったのならそうかもしれないな」


「練習ですごくても、本番で実力が出せないって人は結構いますから」


 練習試合に助っ人で出たときとか、結構そういう人と会ったなー。

 普段の練習ではミスもしない人が、試合になるとミスを出しちゃうんだよね。

 勝負は時の運とは言うけど、そういう緊張で負けちゃった時とかは、運もなにもあったものじゃないよねー。


「ともかく、勝ち残った我々は、負けていった者達の分まで勝たねばな」


「そうですね。グレンさんは次、忍者さんですよね。頑張ってください」


「ああ、全力でぶつかってくるさ。セツナさんはもちろん、ケートさんも頑張って」


「はい」


「にひひ、やれるだけやりますよー」


 私達の返事に納得したのか、グレンは「では」と短く挨拶をして、部屋から出ていく。

 そんなグレンの後ろをぞろぞろと出ていったのを見ると……誰かの試合の激励をかねて、控え室まで一緒に行くって感じなのかな?


「次がミシェルさんの試合だからにゃー。ミシェルさんはあんまりイケイケな感じじゃないらしいし、勇気づける感じじゃないかにゃー?」


「へー、あのパーティーってみんなオラオラな感じかと思ってたけど、そうじゃないんだね」


「攻略勢もいろいろってことですたい。まあ、イチカさんは卑怯上等みたいなタイプだったけどにゃー……」


 ため息をつくケートの頭を撫でつつ試合を見ていれば、棒を持ったプレイヤーが繰り出される双剣を無視して特攻を仕掛けていた。

 おー、一気に勝負をつけにいったなー。

 

「今やってる二人は同じくらいの実力っぽいにゃー」


「だね。どっちが勝ってきても、そこまで苦戦はしなさそうかな」


「というか、あれくらいだったらミシェルさんが普通に勝てる相手だろうし、上がっては来ないと思うけどねー」


「あの人、地味なのに強いよね。すごい地味だけど」


 本人がいないのをいいことに、地味地味言ってしまってるけど良いんだろうか?

 なんか回りの出場者達も「確かに地味だな」とか頷いてるし、良いんだろうけど……。


「って言ってたらミシェルさんの番だにゃー」


「おー、ってミシェルさんの装備が変わってる。武器も違うよね?」


「長弓、威力重視」


「予選動画では皮鎧でしたけど、今回は動きやすさを重視した胸当てと小手や膝当てのようなサポーターだけですね」


 きっと、予選では接近されることも想定しての防御、手数重視だったのかも。

 実際、予選の動画では連射していることも何度かあったし、動き回って避けるよりも立ち止まって仕留めるを重視してる感じだった気がする。


「でも、長弓ってことは、引くのが大変そうだけど……」


「たぶん、あの弓がミシェルさんの本領発揮じゃないかにゃー。あの人、針に糸を通すような精密射撃が得意だし」


「へー、それは要チェックだねー」


 そうこう言っている間に試合が開始される。

 ミシェルの相手は大剣使いの男性で、接近武器よろしく一気に距離を詰めていった。


「あの人、大剣持ってる割りに足速いねー。ぐんぐん距離が縮んでる」


「まあ、接近しないと意味がないからにゃー。前へ走ることに慣れてて、速い人多いと思うよ」


「で、でもミシェルさん、まだ弓に矢をつがえてすらないですよ!? 大丈夫なんですか!?」


 あわあわと慌てるミトに笑いつつ、「大丈夫じゃない?」と返した時、ミシェルも動き出した。

 あまりにもゆっくりで、緩慢に見える動き……だからこそ、相手も余裕を悟ったのか「喰らえェ!」と大声を張り上げて大剣を振りかぶる。

 だが、振り下ろされた大剣はミシェルに届かず、代わりに、ミシェルの放った一発の矢が、相手の頭を吹き飛ばした。


「……セツナ、今の見えた?」


「うん。大剣が振り下ろされる直前に少し体を後ろに逃がしながら、矢を放ってたよ」


「マジ?」


「まじまじ。あの体勢じゃ防げないから、完全にミシェルさんの作戦勝ちだねー」


 ミシェルさんがあの装備で出てきたのは、元々攻撃を受ける気がなかったからなんだろうなー。

 あと、長弓で軽装なら、攻撃力の高い武器を持っている相手が油断するのも計算にいれてたのかも?

 うーん、やってることは地味だし、派手さはないんだけど……えげつないよねぇ。


「なんにしても、次はグレンさんのところの刀使い、ゴンザブローさんだし、この人も要注意だよね!」


「ケートが当たるかも知れない人だもんねー。私も私以外の刀使いさんは気になるし、見ておかないとー」


「……なんだか、ケートさんが勝つのは、ほぼ確定みたいに言っちゃってますね」


「ん」


 苦笑しながらそう言うミトに、カリンも同意して頷く。

 んー、だってケートだし?

 たぶん勝っちゃうと思うんだよねー。


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 名前:セツナ

 所持金:11,590リブラ


 武器:居合刀『紫煙』

 防具:戦装束『無鎧』


 所持スキル:【見切りLv.4】【抜刀術Lv.14】【幻燈蝶Lv.4】【蹴撃Lv.6】【カウンターLv.9】【蝶舞一刀Lv.8】【秘刃Lv.2】

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