第36話 くせ者揃いの本選
イベントの本戦はゲーム内で明日のお昼から行われる。
『イーリアス公開決闘場』でやることもあって、イベント告知後から、観客用チケットが販売されていたらしい。
もちろん私はそんなこと、まーったく知らなかったんだけど。
「えっと、じゃあ私は見れないってこと?」
「だーいじょーぶー。本戦出場者は顔パスにゃ。ただ、出場者用ブース? なんかそんなのが割り当てられるみたいだにゃー」
「え、じゃあカリンさんとかミトさんと一緒には見れないの?」
「チッチッチッ、甘いぜー。練乳丸呑みくらい甘いぜー?」
普通やらないくらい甘いらしい。
でも、その流し目はちょっとイラッとするからやめよーねー?
「ひいっ。ちょっ、ちょっとした茶目っ気ですよっ。あ、刀に手を置かないで! やめて、殺される!」
「人聞きが悪い!」
「いたぁっ!?」
ミトやカリンの手前もあるし、さすがに斬ったりはしないよ!
でも、ぺしっと手刀は落としておく。
うむ……やはりケートの頭は良い音がするね。
「で?」
「あ、はい。えっと、出場者には二人まで同伴が可能なんだよー。だから、二人とも一緒に見れるってわけ」
「なるほど。なら安心だね」
「うむー。まあ、一枚だけ買ってたから、それはちょっと高値で売ろうかなって感じですたい」
そう言ってケートはチケットを取りだし、ぴらぴらと揺らして見せる。
あれ、買ってたんだ?
「まあ、セツナは行けると思ってたけど、私は分かんなかったからねー。ダメだったときは、三人でセツナの左右を争奪戦する予定だったよー」
「へ? そうだったんですか!?」
「初耳」
「……まあ、これはいいんだよ! てなわけで、やったね、みんな一緒に見れるね!」
チケットをしまい、わーいと両手を上げて喜んでみせるケート。
まあ、別にいいけど。
「で、この後はどうするの? リアルではもう夜だし、早めに寝ちゃう?」
「んー、それでもいいんだけど、一応他の出場者のデータ見とこうかなーって。セツナ以外はほとんど分かんないしさ」
「それもそっか。じゃあ、私も見ようかな」
「ほいほい。とりあえず、私はセツナのを見るね……ちょっと怖いけど」
む、怖いとはなんだ。
ちゃんと戦って勝ってるんだぞっ。
「そういえば、セツナさんの攻撃を何度か防いでいた人がいましたよね」
「あー、うん。槍を持ってた人だっけ? 普通に斬っても防がれちゃったから、ちょっとだけスキルを使ったんだよねー」
「そうなんですか?」
「うん。うまくいってよかったよー」
もっとも、上手くいかなくても全然大丈夫だったけど。
あんまり手の内を見せるのもダメだって思ってたから、セーブするのはちょっと大変だったかなー?
「って、セツナ。この人……トーマスさんじゃん」
「トーマスさん? って、誰だっけ?」
「……セツナだもんね。うん、そうだよね」
「え、えっと、グレンさんのパーティーメンバーさんですよ。以前、グレートウルフ討伐の際に、アナウンスされてました」
ケートの反応にぐぬぬってると、ミトが横から教えてくれる。
でも、ミトも名前しか知らなかったみたいで、「この人がトーマスさんだったんですね」と、興味深そうにケートの動画を覗き見ていた。
「でもほぼ瞬殺かー。トーマスさん、ほとんど手が出せてない感じだったにゃー」
「
「みたいな感じだにゃー。もっとも、さすがに重量は軽くしてありそうだけども」
「ん」
蜻蛉切って名前は、前にケートから聞いたことがある気がする。
槍だったのは覚えてなかったけど。
「さてと、それじゃセツナ以外の動画を見るかにゃー。とりあえず、掲示板で優勝候補って言われてる人から見るぞい!」
「優勝候補? 誰?」
「二人いるんだけど、まあ片方は置いといて……もう一人がグレンさんだー! やはりあの大盾による堅牢なプレイスタイルが、人気みたいですにゃー」
「あー、グレンさんならわかるかも。強いよね、あの人」
あの巨大ダンゴムシの突進を受け止め、弾き返したパワー。
すごい力強くて、頼れる前衛って感じだったよね。
「とりあえず一番要注意なのは、グレンさんだろうしねー。というわけで、スタート!」
軽すぎる宣言と共に再生開始されたその戦いは、やはり序盤からクライマックスだった。
やっぱり、有名プレイヤーだけあって、みんな狙ってくるんだねー。
「ここで、私とかセツナは一気に叩き潰したんだけど、グレンさんは大盾だし、やっぱりガードだにゃー」
「でも、守るだけだと倒せないからピンチにならない?」
「普通はそうなんだけどねー……」
画面の中では、まさに不思議な出来事が起きていた。
そう、攻撃を仕掛けた相手が、ことごとく吹き飛ばされているのだ!
つまり、グレンも普通ではない……。
「あ、これ、シールドバッシュ的な感じで攻撃してるんだ」
「シールドバッシュ?」
「んー、簡単に言えば『盾で殴る』って感じかな? グレンさんは、盾でガードして、直後にタックルするみたいに盾で吹き飛ばしてる。で、反対を攻撃されたら、剣で弾いて肘をいれてる感じだー」
「なるほどー。守ってるっていうか、暴れてる感じだね」
ケートほどド派手でもなく、私みたいに動き回る訳でもなく……ただそこに立ったまま、迫り来る攻撃にすべて対応し、反撃を加えていくスタイル。
こ、これは厄介だぞー?
「んー、これはかなり大変そうな気がするねー。魔法とか矢とかも避けてたりガードしてたりするし、かなり的確に動いてるしにゃー」
「……上手く誘導してる気がするかも。魔法とか矢はわかんないけど、周囲の攻撃は上手く
「え、マジ?」
「たぶんマジ」
「そんなまさかー」と笑いつつ、何合かのやり取りを凝視したケートが、驚きすぎて表情をなくしつつも「ま、マジだ……」と呟いた。
ほらー、そうじゃんかー!
「え、えー? これって技術でどうにかなるレベルなの?」
「数回くらいならできそうだけど、こんなに連続してっていうのは、ちょっと難しいかなー? たぶん、相当練習してる気がするよー」
「うーん……まあ、誘われないように気を付けようってくらいしか思い付かないね。あのパーティーは、ほんとにくせ者揃いだなぁ……」
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名前:セツナ
所持金:11,590リブラ
武器:居合刀『紫煙』
防具:戦装束『無鎧』
所持スキル:【見切りLv.4】【抜刀術Lv.14】【幻燈蝶Lv.4】【蹴撃Lv.6】【カウンターLv.9】【蝶舞一刀Lv.8】【秘刃Lv.2】
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