第33話 負けず嫌いは負けたくない

 side.ケート


 闘技場のような狭い範囲での多人数バトルロワイヤル。

 つまりそれは、魔法使いにとって最悪の状況で、何も出来ずに死んでしまう可能性すらありえるような……そんな戦いだ。

 しかも私は色んな意味で目立ってしまってるプレイヤーで、討ち取れれば名を上げるには十分すぎるようなボーナスキャラだ。


 だから私も、残れるなんて……そんな希望は……。

 でも、セツナは残るんだろう。

 そして本戦に出て、ごく当たり前に勝って、もっと有名になっていくんだ。

 まるで、学校でのセツナのように。



 私と雪奈の出会いは、小学校の低学年にまで遡る。

 元々、家自体は二軒先の超近所で、家同士での付き合いはあったのかもしれない。

 ただ、私は幼稚園で、雪奈は保育園へ通っていた。

 だから、私が雪奈の存在をしっかりと認識したのは、小学校に入ってからだったのだ。


 私には兄がいる。

 年の離れた兄で、私が小学校に上がる頃には、すでに大学受験を終えているような、そんな年の離れ方だった。

 小学校に上がるまでは、ずっと兄に遊んで貰っていた。

 まあ、もっぱらゲームばかりだったんだけど……その影響で、私もゲームを好きになったので、そこにはある意味感謝していたりする。


 けれど、兄とゲームばかりしていた私は……当たり前だけど友達がいなかった。

 なんてったって、二軒先の雪奈すら知らなかったくらいなんだから、友達がいるわけがない。

 しかし、私の小学校入学と同時に、兄は一人暮らしをするため、家を出て行ってしまい……私は遊んでくれる人が、一人もいなくなってしまったのだ。


 ……そんなこんなで、雪奈は、私にとって……初めて出来た友達だった。


 しかし、中学生になると、私と雪奈との間に大きな差が立ち上がっていた。

 それは……雪奈の運動神経が良すぎたことによる、校内ヒエラルキーの差だった。


 バレーもバスケも陸上も、テニスも野球もサッカーも……全ての運動で、全国級の実力を発揮できた雪奈は、あらゆる部活動にひっぱりだこで、中学一年生の時点で、校内で知らない人はいないほどに有名人になっていたからだ。

 それでも、雪奈は……私と友達でいてくれた。

 そして、頼られ期待されると、本気でやろうと頑張ってしまう雪奈が、私の前では昔のままのちょっと天然な女の子でいてくれた。


 ――だから私は、雪奈と友達でいることで、ちょっとした優越感があったんだ。


 みんなに頼られ期待されてる女の子が、ただゲームが好きで、ちょっとゲーム上手な女の子の前でだけ安心しているんだぞって。

 こんな私を、誰よりも信じてくれているんだぞって。




「だから、私は今回も有名になった雪奈のサポートをすれば……雪奈は私を頼ってくれる」


 そう、それだけで、私はいつもと同じようにちょっとした優越感に浸れて。

 でも……どうしてかな?

 どうして、私は……今日のために何日も魔法の練習や、立ち回りの練習をしたんだろう?


「分からない。……なんて言って、本当は分かってる。負けたくないんだ。雪奈に……せめて、ゲームの中くらいは」


 勝ってみたいんだ。

 練習じゃない、本気の雪奈に勝って……「どうだ、見たかー!」って笑ってみたいんだ。

 現実じゃ無理かも知れないけれど、ゲームの中でくらいは隣に立っていたいんだ。


 だって言った。

 雪奈は「だって、私は信じてるし、ケートが残って本戦に来るって」って。


 だから、私はやってやる。

 この不利を、全て覆して。



『参加様全員の転送が終了しました。それでは、皆様準備はよろしいでしょうか……。ブロックB、予選開始です!』


「行くぞ!」


「魔法使い一人程度、瞬殺だぜ!」


「俺がやる! どけ!」


 開始の宣言と共に、周囲のほぼ全てのプレイヤーが私へと殺到する。

 けれど、不思議と……私の思考はクリアだった。


「【魔法連結】、『クリエイトゴーレム』。モードチェンジ、【魔法連結】……『サウザンドニードル』」


 接近されるよりも先に、土のゴーレムを作りだし、即座にその形態を変化させる。

 モード『サウザンドニードル』……鉛筆程度の細い針状に変化させ、周囲に展開させるモードだ。

 そしてこれは……私のほぼ半分のMPを喰う大技だ!


「全方位、吹っ飛べ!」


 宣言を受けて、周囲に浮いていた土の針が四方八方へ発射される。

 それは周囲を囲んでいたプレイヤーの半分以上を再起不能にし、そして残るプレイヤーに恐怖を植え付けることに成功していた。


「来るなら来て。全力で相手してあげる」


「な、舐めるなよ!」


「さっきの攻撃で相当MPを消費してるはずだ! 攻めれば勝てるぞ!」


「お前を倒して、俺が本戦にィ!」


 腰が引けつつも、数の暴力で戦おうとするプレイヤー達。

 その後ろから飛んでくる矢に魔法……。

 けれど、ここで負けるわけに行かないから!


「『アースニードル』! あんど『スパイラルシュート』!」


 足止めと攻撃を行い、さらに続けるように『ロックショット』や『ウォーターボール』で攻撃を加えていく。

 そうこうしている内にプレイヤーの数は減っていき……気付けば闘技場には私を除いて、たった一人だけになっていた。


 しかしそれは……お互いのMPを考えると、あまりにも最悪な状況だった。


「派手に戦ったわね、ケートちゃん」


「……イチカさん。同じブロックだったんですね」


 そう、残っていたのは、グレンのパーティーメンバーで、同じ魔法使いのイチカだった。

 視察したときと装備が違うのは、見つからないようにするためなんだろう。

 ……もしかすると、掲示板に場所を載せてたのは、普段の装備を身に纏ったイチカのイメージを強くするための策だったのかもしれない。

 今となっては関係ないけど。


「それじゃ、戦いましょうか」


「あ、やっぱりMPの回復は待ってくれないんですね」


「ええ、強敵の復活を待つほど愚かじゃないもの。だから、最初から本気で行くわね……『フレアバーン』」


 宣言直後、私の足下から火柱が上がった。

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