第32話 祝勝会と戦場の風
「改めましてーリンとミトちゃんのカテゴリー優勝を祝ってー、かんぱーい!」
「かんぱーい!」
チンッと音をたてながら、グラスとグラスがぶつかり合う。
そう、今は二人の祝勝会。
アルテラ噴水広場で行われた発表の後、私達はいつもの共有作業場へと戻り、四人だけのパーティーを始めた。
飲み物はミトの作った『天の川グレープジュース』、食べ物はカリンのお祝いにと屋台の皆さんから頂いた商品の数々だ。
「初イベントでちょっとドキドキしてたけど、好調な滑り出しだねぇ。さっすがリンとミトちゃん」
「ん」
「えへへ、ありがとうございます」
「こう来ると、私達もやらにゃならんですね、セツナの姉御」
誰が姉御よ。
でも、そうだねー。
やるだけやってみないとねー。
「にひひ、やる気がありそうで何よりですじゃー。ゲーム内で明日の昼前から昼過ぎくらいで予選があるし……少し早めに落ちて準備しておかないとね」
「お二人とも頑張ってください!」
「ん」
「うん、頑張る。ケートには負けてられないし」
そう言った私の言葉が予想外だったのか、ケートは「え? 私?」と、きょとんとした顔を見せる。
……その反応はなんなの。
「あ、うん。負けないぜ!」
「……ケート、どうかした?」
「え、いや、その……たぶん、ちょっと緊張してるだけだと思う。や、やだなぁもう、恥ずかしいからあんまり見ないでよー」
キャーと言わんばかりに顔を覆って恥ずかしがるケートに、私だけじゃなくカリンもミトも変なものを見るような目をしてしまう。
けれど、ケートは特に何も言わず……そんなケートに、私達もとりあえず気にしない振りをすることにした。
「そ、そういえばさー、リンの楽器って結局なんだったのかにゃー?」
「ん」
「あ、それは私も気になります。カリンさん、完成品は見せてくれなかったので」
強引なケートの話題転換に、カリンもミトも合わせるように話を広げていく。
やっぱりどこか変なんだけど……うーん?
「ミト、お祝い」
「え? これって……」
「未提出」
「うぇっ!? リン、楽器部門に出さなかったのかにゃ!?」
「ん」
アイテムボックスから取り出したリュートをミトに渡しながら、驚くような声で訊いたケートに、カリンはさも当たり前のように頷いた。
え、でも楽器部門も参加するって言ってなかったっけ……?
「あ、もしかしてリン……ミトちゃんが勝つって確信してたのかにゃー。だから、ミトちゃんのために完成した楽器を提出せずに、お祝いに取っておいた……とか?」
「ん」
「……この目は嘘をついていない、本心を話しているときの目!」
「どんな目よ。……まあでも、カリンさんは試飲もたくさんしてたみたいだし、そう思うのも納得かな」
だからこそ、楽器部門には出さなかった。
それで十分だって思えるのは……装備品部門で、確実に勝てるっていう自信があったからなんだろうなー。
普段なら自信過剰過ぎ! って言えるんだけど、実際に優勝をゲットしてるわけで。
やっぱりカリンはおかしい。
「じゃあそんなわけで、ミトちゃんとリンの勝利を祝って、ミトちゃんの独奏会でーす!」
「ええ!?」
「まってケート、なんで祝われる人が出し物してるの」
「え、私とセツナが弾くの……? 私はまだ下手って笑えるけど、セツナのは……死人が出るよ?」
「なんでよ!?」
ぎゃーぎゃーと騒ぐ私達に、ミトは少し笑い「じゃあ、弾きます!」と、リュートを構えるのだった。
□
そんなこんなで、時間は過ぎ去り……私とケートは共有作業場の外で気合いを入れていた。
つまり、もうすぐイベントの予選が始まるのだ。
「セツナ、頑張ってね」
「ケートこそ」
「あはは……ねえ、セツナ。私、大丈夫かな……勝てるかな」
そう言って、珍しくケートは顔を伏せる。
いつも自信満々で、フットワークも軽くて、ちょっと頭のネジがぶっ飛んでるケートが。
ははー、最近様子がおかしかったのは、珍しく自信喪失してたからだなー?
「大丈夫だよ。ケートは残る。だって、私は信じてるし、ケートが残って本戦に来るって」
「セツナ……」
「だから、いつもみたいに無駄に自信満々な姿を見せて。じゃないと私が緊張しちゃう」
「……もう。はいはい、その通りだね。ケートちゃんは天才、うん天才。だから大丈夫!」
自分で自分を天才って言うのはちょっとどうかと思うけど、その方がケートっぽいかな?
まあ、言ってて私が落ちたら恥ずかしいし、落ちないようにしないとねー。
あと、ケートと同じブロックに分けられないことを祈っておこう。
『イベント開始時間になりました。参加登録をされている方は、順次特設フィールドに転送されます』
「リン、ミトちゃん、行ってくるねー!」
「カリンさん、ミトさん、行ってきます」
「ん」
「行ってらっしゃいませ!」
二人の声が聞こえた直後、私の身体は浮遊感に包まれ……気付いたときには、闘技場のど真ん中に転送されていた。
見える限りにケートの姿はなしっと。
よかった、別のブロックに振り分けられた感じだね。
「でも、周囲がみんな私を見てるのはちょっと怖いなー」
人によっては、すでに私を協力して攻めようみたいな話をしてるし。
むー。
『参加様全員の転送が終了しました。それでは、皆様準備はよろしいでしょうか……。ブロックF、予選開始です!』
「ウオォォォォ!」
「あいつをまずはやるぞ!」
「数で攻めろー!」
開始と同時にツッコんでくる人、人、人……そして魔法に矢。
ちょ、ちょっと予想以上に狙われてる!?
「これは卑怯!」
「うるせぇ! 勝負に卑怯もクソもあるか! 死ねェ!」
最も近くにいたプレイヤーが、身の丈ほどありそうな斧を振り下ろしてくる。
これを避けても横からは剣がなぎ払われてるし、斧の人の向こうには槍を構えてる人もいるなぁ。
きっついなー。
……でも、まあそれはそれで面白そうだね。
「じゃ、やるよー!」
斬る。
躱して薙ぐ。
飛んで斬り下ろす。
弾いて斬り抜ける。
蹴り飛ばして巻き込む。
斬って蹴って弾いて潰して、かれこれかれこれ所用時間10分弱。
そうして最後は、ただ一人で……闘技場のど真ん中に立ち、鞘へと刀を納めた。
『ブロックF、勝者セツナ!』
「……さて、ケートはどうなったかな?」
-----
名前:セツナ
所持金:11,590リブラ
武器:居合刀『紫煙』
防具:戦装束『無鎧』
所持スキル:【見切りLv.4】【抜刀術Lv.14】【幻燈蝶Lv.4】【蹴撃Lv.6】【カウンターLv.9】【蝶舞一刀Lv.8】【秘刃Lv.2】
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます