第34話 考えるより自分らしく

 side.ケート


「……だから、最初から本気で行くわね……『フレアバーン』」


 イチカの宣言と共に、私の足元から火柱が上がった。

 しかし私は、その発動直前に足元へ『ウィンドブロー』を叩き込み、その場を離れていた。


「あら? どうして避けられたのかしら?」


「……もし、前回の戦闘を見せること自体が策なのだとしたら、装備以外にも何か偽情報を掴まされているだろうと思いまして。それで思い出したんですよ。わざわざ、魔法発動に2秒かかるって思わせるような言葉を」


 そう、あの日……イチカは盾役のグレンに「2秒抑えてて」と、的確すぎる時間を伝えていた。

 もちろん魔法使いなら、自分の魔法発動に、どれだけの時間がかかるのかは把握しておくもの。

 だから、私もあのときは全く気にも留めなかった。


「でも、その発動時間自体がブラフなら……ノータイム発動もありえるな、と。その上で、私を確実に仕留められそうなのは、足元に出る『フレアバーン』の確率が高かったんですよ」


「すごいなぁ。よく分かったわね」


「ケートちゃんは天才ですから。テストの点数は平均的ですけど」


「あはは。テスト勉強はしっかりやっといた方が、お姉さんとしてはオススメだよ」


 笑いながらも、ポンポンポンッと小刻みに『プチフレイム』を放ってくるイチカに、私は休憩もできず右往左往。

 MPはゆっくり休憩している時が最も回復が早く、次に立ち止まってる時、そして動いている時と回復が遅くなっていく。

 だからこそ、イチカは立ち止まったまま攻撃を繰り返し、私を休ませないつもりなのだ。


 ……ただ、今攻撃するのはあんまりいい気がしないんだよねー。


「ほらほら、どうしたの? 逃げてるだけじゃ勝てないよー?」


「分かってますよう! って、イチカさん、結構いじめっ子気質ですかー?」


「えへへ、分かるー? 魔法使いしてるのも、遠くから一方的に攻撃できるからなんだよー」


「底意地が悪い! この鬼、悪魔!」


「うーん、良い声で鳴くなぁ……」


 ひぃ……!

 この人、ガチでヤバい人だぁー!


「うーん、でも、こうやって撃ってるだけじゃ難しいかなー? ケートちゃん、逃げ足だけは速いみたいだし」


「へへん、伊達にセツナの相方はやってないんですよ! あの子に追いかけられて、鍛えられましたから!」


「それって威張ることじゃないと、お姉さん思うなー? まあでも、それならちょっと逃げれなくしちゃおうかな。……『アースウォール』」


 ……来た、ここが勝負所だ。

 この魔法が飛んでこなくなる一瞬が、勝ちを拾えるただ一つの道!

 もちろん本来、一方向のみを防ぐ土の壁を、私の左右、そして後ろを、円で囲むように出してきたのは流石。


 でも、残念、それも可能性として読んでたから!


「【魔法連結】『クリエイトゴーレム』、モードチェンジ、【魔法連結】」


「遅い遅い、『フレアバ」


「『スピニングランス』、シュート!」


「ーン』うぇ!? ちょっ『アースウォール』!」


 さすがに、ぶっ飛んできた槍に対しては無視できなかったみたいで、イチカはすぐさま発動魔法を変更し、土壁を作り出す。

 その判断速度は、トップクラスの魔法使いだけあって、素晴らしいと素直に思う。


「でも、残念。それも読んでた!」


「――上ッ!?」


「魔法使いが、肉弾戦しちゃいけないって決まりは……ないからね!」


「っ、『プチフレイム』!」


 『スピニングランス』の直後に、足下へ『アースウォール』を発動し、まるで射出されたみたいにイチカの頭上へと、私は姿を見せる。

 けれど、またしても素晴らしすぎる判断速度で、イチカは私に対して魔法を唱えた。

 そう、


「『フレアバーン』!」


「えっ!? 嘘ぉ!?」


 だからこそ、足下がお留守ぅうぐへっ!

 放たれた『プチフレイム』に吹っ飛ばされながらも、私の目にはしっかりと見えた。

 立ち上がる火柱に飲まれ、光になったイチカの姿が。


『ブロックB、勝者ケート!』


 背中から地面に叩きつけられ、「ぐえっ」と汚声を上げながらも、そのアナウンスはしっかりと聞こえ、ようやく終わった戦いに、大きく息を吐いた。

 ふ、ふえー……きつかったぁ……。

 

「でも、これで本戦に出れるよ。セツナと一緒に」



「ケートさん、それにセツナさんも改めて、予選突破おめでとうございます!」


「ん」


「ありがとーう!」


「改めて、ありがと。でも私はそんなに大変じゃなかったから、改められてもちょっと困っちゃうけどねー」


「あはは……。セツナさんは、全会場で一番早くに決まりましたからね……」


 共有作業場に戻ってきた私を、ミトがそういって出迎えてくれる。

 先に戻ってきていたセツナの試合は、10分掛かってなかったとか……。

 やはりセツナはおかしい。

 分かってたけど。


「でも、ケートさんの試合はすごかったですね! 特に最後の一騎打ちは、本戦じゃないのがもったいないくらいでした!」


「ん、頑張った」


「にひひ、ありがとー」


 褒めてくれる二人にピースしていると、不意にセツナが頭を撫でてくる。

 な、なにごと!?


「おつかれ、ケート。私も途中から見てたけど、すごかったよー。イチカさんの攻撃を全部読み切ってる感じで」


「へへん、ケートちゃんは天才だからね!」


「はいはい」


 むきー!

 呆れたような反応しおってー!


「残ってくるって信じてたけど、本当にそうなっちゃったから……私も本気を出さないとね」


「えーなになにー? セツナちゃんったら、私をそんなに警戒してるのかにゃー? あいたっ」


「……はあ、まあ当たるまでは負けないでね」


「その言葉、そっくりそのまま返すぜ!」


 いい音で鳴った頭をさすりつつ、私はセツナに言葉のジャブを放つ。

 その反応が面白かったのか、セツナは「ふふ」とだけ笑って、また私の頭を叩いた。

 叩くでない!

 ケートちゃんの天才頭脳がなくなったら、世界の損失だぞっ!

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