第6話
スマホをテーブルに置いてみてわかったことだが、ここからキッチンを見ることが出来る。キッチンで料理をする沙和ちゃんの背中が見える。
絶景かな、絶景かなぁ!
おっと。興奮しすぎて平安貴族みたいになっていた。家庭的のお嫁さんっぽくて最高だ。まぁ、お嫁さんどころか、俺の事を男として見ているのかどうかも分からないけど。
「そんなに見られると、緊張するから違う方、向いてて!」
そう言って、こちらをちらっと見て睨みを効かすご主人様。俺はしゅんとして待てを守る、なんてことはなく、反抗心を見せる。
「いや、可愛い沙和ちゃんの姿を目に焼き付けとこうと思って」
俺がそんなことを言っていると、肉を焼く食欲が掻き立てられるような音を出している沙和ちゃんが呆れたように言うのだった。
「そんなのいいから。どうせお嫁さんになったら毎日、見れるでしょ」
当たり前かのように、そんなことを言った。少しの静寂のなか、俺は疑問の声をふと、漏らしてしまう。
「·····え?」
俺の声に焦った沙和ちゃんは手をブンブンと振って、違うということを伝えようとする。
「ち、違うからね?間違えとかじゃなくて、小さい頃の翔が言ってたから·····うん」
そう言って誤魔化すように、強火で肉を焼いて音をかき消した。
若干、丸くなってしまった背中を見ると恥ずかしがっているということが分かる。
これ以上かまうと、そっぽを向かれそうなのでスマホに再び視線を落とした。イチャイチャ同棲ラブコメディの漫画に。
「·····時代はやっぱり幼なじみだよなぁ」
そんなことを思う。幼なじみが負けヒロイン属性なんて未だに信じることが出来ない。俺の中では圧倒的、勝ちヒロインなのだ。
だって·····
「おまたせ·····ハンバーグです」
そう言って、ことんと音を立てて皿を机に置く。緊張しているのか、少し恥ずかしそうに、目を俺から背ける姿はなんとも愛おしい。
もし俺が彼氏だったら抱きしめてやりたい衝動に襲われる。
「愛情ハンバーグじゃないの?俺への愛を注ぎ込んだやつ。それにケチャップでハートは?」
俺は至って真面目な顔で聞く。
「は、はぁ?愛情は入ってるけど、不純なものはないし。それに……ケチャップでハートなんて、いつの時代の彼女よ·····まず彼女じゃないしね!?」
半分呆れ気味の沙和ちゃんと、ハンバーグの見た目を必要以上に観察する俺。さすがに·····大丈夫だよな?
沙和ちゃんの料理というものに、トラウマを抱える俺は若干の不安がある。それを見てか、沙和ちゃんが口を開く。
「·····塩と砂糖、間違ってないから」
恥ずかしそうに、沙和ちゃんは呟いた。俺は小さい頃の思い出を覚えてくれていたことに驚きが隠せず、そのまま声に出して聞いてしまう。
「·····え?覚えてるの?」
「まぁ、うん。初めて、他人に振舞った料理だしさ」
そんなことを言いながら、シンプルなデザインのエプロンを脱いで、自分も食べる準備に入る沙和ちゃん。
それと沙和ちゃんの初めてを貰えていた嬉しさに心が弾む俺。そのままの勢いで、食事の合図をする。
「いただきます!」
「どうぞ?」
気にしていない素振りを見せる沙和ちゃんだが、ちらちらとこっちを見ているあたり、やはり気になるのだろう。
手を合わせてから、メインのハンバーグから食べ始める。箸で割ると同時に肉汁が溢れんばかりである。俺はハンバーグを口に運ぶ。
「·····マジで美味い」
俺がそう言うと、沙和ちゃんはグッと距離を縮め、俺を目を見て質問する。
「本当に?うそついてない?」
「美味いよ、無限に食える。控えめにいって最高」
「そ、そう」
安心したのか、座り直して沙和ちゃんもハンバーグを食べ始める。うん、と確かめるように頷くと、クスリと笑った。
「良かった。ちゃんと美味しい。あの時みたいに嘘つかせなくて良い」
あの時というのは、小さい頃に初めて沙和ちゃんが俺に料理を、作ってくれた時のことである。
「やっぱり、バレてた?」
「いいや、翔が帰った後に気づいたし。嘘つかれた、って」
そんなふうに話す沙和ちゃんはどうか、可愛い娘の話をするお父さんのようで。久しぶりの再会で昔話と言うのも悪くない。
「俺が嘘ついてたの気づいた時、怒った?」
「全然逆。·····優しいなって思った。あの時、いえなかったけど、全部食べてくれてありがと」
クシャッと笑う沙和ちゃんはとても可愛くて、有名な歌詞にあるけど、100万枚撮りのフィルムでも撮りきれない程だった。
「沙和ちゃんが作ってくれた料理ならどんな料理でもあの時も、今も星三つだよ」
「はいはい。くさい言葉、どうも」
沙和ちゃんはそう言って、笑いながら白ご飯に手をつけた。こんな幸せな時間があっていいのか、そう思った翔だった。
♣♣
料理みたいに小説も評価してくれると嬉しいです。星を僕に下さい☆
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