第19話 玲の悩み
SIDE:朝比奈玲
「流石にこれは際どいかしら……」
私は自室の鏡の前で一人そう呟く。
どうしてそのようなことを呟いたかといえば、私の今の格好にある。
私は現在黒をベースに白のラインが入った競泳水着を着用しているのだが、そのサイズ感が明らかにあっていないのである。
胸元は大胆にも強調され、今にもこぼれてしまいそうだし、お尻への食い込みもきつく、はっきり言ってしまえばかなり痛い。
一応ネットでは私のサイズにぴったりのモノを選んだはずなのだが、やはり試着してみないとこういう物はダメらしい。
ただサイズが小さい分、競泳水着としての実用性はないだろうが、深夜を誘惑する分にはより私の身体のラインや胸部とかが強調されているので、その分ではむしろベストであったと言えるのだが、いかんせん今の私の格好はエッチなゲームの女の子しかしない格好をしているわけで、あまりにも下品ではないかとも思ってしまうのである。
ただまあそれはそれとしてひとまずはこれは脱ごう。そろそろ色々限界だ。
「はぁ……本当にどうしましょうか」
私は水着を脱ぎ、一糸まとわぬ姿で、自身のベットに広がった衣装の数々に目を通す。
実のところ、私が購入したのは競泳水着だけではなく、巫女装束やメイド服等々の深夜が好きと語っていた物を全て購入していた。
その中でもまずは深夜が一番好きといっていた競泳水着に試着してみたのだが、私の中ではあまりしっくり来ていなかった。
「我ながらよくここまでそろえたものね」
今後一生ハロウィンのコスプレには困らなさそうなその光景に、私は俯瞰する。
金銭面の部分で言えばそれなりに出費したし、痛くないかといえば多少は痛いが、深夜が喜んでくれるのならそんなの些細なことだ。
「そう言えば、今深夜は何をしているのかしら……」
帰りのあの時間は、私の中でもどんな時間にも代えがたい至福の時間であった。
もし叶うのならあの時間をずっと過ごしていたい、そう思わせるほどに。
でも現実は残酷で、あの時間は本当にあっという間で、名残惜しくてたまらなかった。
深夜の家に行っていればもっとあの時間を味わえたのかもしれないが、それをしてしまったら今度は私の理性が限界を迎えてしまう。
ーーきっと、私は欲望の赴くままに深夜を襲ってしまう……
実際、手を繋いでいたあの時だって、私は自身の理性を抑えるので必死で、一言も話せなかった。
その事を深夜は不振に思っていただろうが、そこはわかってもらうしかない。私だって色々一杯、一杯だったのだから。
それに私が深夜を襲ってしまったら、きっと深夜は深く傷つくことになる。
深夜はかなり繊細な少年で、かなり自己肯定感の低い少年である。
そんな彼のことだ。例え彼を無理やり私が犯したとしても、全て自分が悪いと考えるに違いない。
私に気を遣っているのだって、何かしらの理由はあるにしろ、その根底にあるものは彼の自己肯定感の低さに原因があるはずだ。
こうしてみると深夜は中々に面倒な男だと思うが、そんな彼を好きになってしまったのだから仕方がない。
それに私は深夜にはいつも笑っていて欲しいのだ。決して彼を傷つけたいわけじゃない。
故に私から彼を襲ったりするのは絶対的にしない。第一、乙女的にも自分からがっつくようなはしたない真似をあまりしたくはない。
それに今日だって私は彼を傷つけてしまった。その事に後悔がないかといえば嘘になる。
だから私は彼に今回の事を何かしらの形で、お詫びをしたい。
だがお詫びといっても私から彼にあげられるものなんて、私ぐらいしかない。
だから私はこうして家に帰って、必死にどの格好をすれば深夜が喜んでくれるか考えているわけなのだが、どれが正解なのかまるで分らない。
これが国語の問題だったら、私は絶対に正解する自身があるのに、こと深夜の事となると点でわからなくなってしまう。
恋がそうさせるのか、はたまた私がただ単にポンコツなのか、一体どっちなのかは私にはわからないのだけれどね。
「ひとまず、一通り全部試着してから決めようかしら」
そう決めたら善は急げだ。幸い今日はあのはた迷惑なメイドも現れない。やるなら今しかない。
「待っててね。深夜。とびきり可愛いのきて、貴方を喜ばせるから」
脳裏に彼の笑顔が浮かぶ。そんな彼の笑顔を思いだすだけで、私は言葉には表せないほどの充足感をえることができた。
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