第18話 最後の質問

「さてもう夜も遅いですし、次で最後の質問にしましょうか」


 時刻は既に0時を回っていた。明日も学校がある僕としては、そろそろ就寝しなければ明日に響きかねない時刻である。


 それに僕らは今の今までずっと互いの事について質問をしあっていて、僕の方のネタ切れもそろそろ近い。


 ただ質問合戦の甲斐もあって彼女の事を少しは理解することができた。


 例えば彼女は実は野菜作りに興味があってかねてからやってみたいと感じているだとか、部屋には大量のぬいぐるみがあるとかなどなどである。


「わかりました。ええと、次の番は確か私ですね」

「ええ」


 さて最後の質問はどんなものが来るのやら。ただそれにしても眠いなぁ……


 先程まではトントン拍子で僕に質問してきていた雛菊さんであったのだが、今は何かを必死に考え込んでいるような仕草をた彼女は中々口を開かない。


 それから時間にして約3分くらいだろうか。考えがまとまった彼女は、その重い口をようやく開いてこういった。


「深夜君は……その……玲様の事好きですか?」

「玲が好きかどうか……ですか?」

「はい」


 そういう雛菊さんの表情は、凄く真剣な物で、ただジッとこちらを見ている。


 そうあまり真摯に見つめられると照れてしまうではないか。


 第一、僕が玲を好きかどうかなんて決まっているではないか。


「そんなの決まっているじゃないですか。僕は玲の事が好……」

「嘘ですよね?」

「……え?」


 突然浴びせられた予想外のその言葉に、僕は表情を硬直させた。


「深夜君が玲様の事を好きなのは、嘘ですよね?」

「いやいや。嘘じゃないよ。僕は玲の事が好きだよ」


 一体何を根拠に彼女はそういうのかわからないが、僕は嘘などついてはいない。


 僕は玲の事が間違いなく好きだ。これは偽らざる僕の本音。そこに嘘はない。


「……そうですか。深夜君はやっぱりそう答えるんですね」

「やっぱり? それは一体どういう意味で……」

「さて質問はこれで終わりにして、寝ましょうか」


 強引に僕の言葉にかぶせるように彼女はそう言い放った。


 ただ僕としてはその展開はあまり面白い物ではない。


 だって一人で勝手に僕のことを決めつけて、納得して、一方的に話を終わらせたのだ。


 それが面白くないわけがない。


 そんな僕の態度が表情に現れていたのだろう。


「もう。そんな不満そうな顔しないでください。欲求不満なんですか?」


 そう言ってこちらを茶化すようにして、また話を逸らそうとしてきた。


 そんな彼女の態度に、これ以上の追及は労力の無駄だと判断した。


 それに……


「雛菊さん本気で泊っていく気なんですね……」


 僕としてはこちらの件を何とかしないといけない。


「何か問題でも?」

「いや、問題しかないでしょ……」


 付き合ってもいない年頃の男女が同じ家で夜を明かす。これを問題といわずしてなんというのか。


「私は別に問題ないので、問題ないです」

「いや……」

「ないです」

「だから」

「な・い・で・す」

「……」


 あまりの強引なその物言いに、僕は思いだすことになる。この人が誰よりも強情な人であったことを。


「ちなみに夜這いはいつでもウェルカムですよ?」

「しませんよ。そんなこと」


 するわけがない。したら玲に殺されてしまう。


「じゃあ私がします!!」

「絶対止めてね!?」

「あは」


 そう笑って見せる彼女は、いつものあの無邪気な笑顔だった。


 そんないつもの調子の彼女に、僕はなんだか嬉しいような、悲しいような、呆れたような複雑な感情を抱いていた。


「はぁ……わかりました。宿泊を認めますよ」


 僕は呆れた口調でそう言い、満面の笑みと優雅な一礼をもって彼女はそれに応える。


 本当は嫌だけど、どうせダメだと言っても無理やり泊っていきそうだし、何より下手に拒んだあと、この人が何をするかわからないのが何より怖い。


「雛菊さんは僕のベット使ってください」

「最初からそのつもりですよ?」

「ははは……」


 本当、図太いなぁこの人。


「僕はリビングのソファで寝ていますので何かあったら……」

「え? 深夜君は一緒に寝ないんですか?」

「寝ないよ!?」


 心底疑問と思わん彼女の表情に戦慄。


 第一、ここで仮に彼女と同衾でもしてみろ。まず間違いなく明日の朝、僕を起こしに来た玲によっては死より恐ろしい目に合う事になるに違いない。


 昼、女性と会話しただけであの暴走のしようだ。同衾なんてしようものなら何をされるかわかったものではない。


「えぇ~私、深夜君と一緒に寝たい~」


 子供が駄々をこねるようにそういう雛菊さんだが、これに関しては絶対に認められない。


 主に僕の生命の為に。


「ダメです」

「ぶ~ぶ~深夜君のケチ~」

「ケチで結構。それじゃあ、僕はもう寝ますからね」

「あ、待っ……」


 雛菊さんは最後何か言いかけるが、僕はそれを気にせず、部屋を後にする。


 それに僕の頭は眠気でそろそろ限界だった。

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