第17話 質問合戦
僕たちの決めたルールは単純、互いに一つずつ質問していき、それに応えられたら相手に質問権が移るという物だ。
ただし質問の答えには絶対に嘘をつかない事。それが例えどんなに答えに辛いことであったとしても、嘘をついてはいけない。
この条件を持ち出してきたのは僕ではなく、意外にも雛菊さんの方であった。
僕としてはどうせ質問しても嘘で逃げられると思っていたのだが、その心配は僕の無駄だったようで、僕は喜んでこの条件を呑んだ。
「それじゃあ、初めは深夜君から質問どうぞ」
「僕からでいいんですか?」
彼女はそれに首を縦に振り、首肯する。
「わかりました。それじゃあ質問しますけど、雛菊さんって休みの日何してるんですか?」
僕の質問が予想外だったのか、雛菊さんはハトが豆鉄砲を喰らったような驚いた顔をしていた。
「あの、そんなことでいいんですか? もっと、こう、聞きにくい質問とかでもいいんですよ?」
僕の目的はあくまで親睦を深める事だ。ここで何か彼女にとってやましいことを聞いては、その目的もとん挫してしまう。
第一僕が知りたいのは今、目の前にいる雛菊さんという一人の人間について知りたいのだ。
「いえ、別にいいんですよ。この質問で」
僕がそういうと雛菊さんは、わずかばかり困った表情をしてみせた。
「その、深夜君の期待を裏切るようで悪いんですけど、私休日って特に何もしてないんですよねぇ……」
「何もしてない……? え、外にでかけるとか、本を読むとか、友達と遊ぶとか一切しないんですか?」
「それは別の質問になるので、今は答えられません」
「グッ……!!」
ぐうの音も出ない正論だった。
「それじゃあ、次は私の質問ですね」
果たしてどんな質問が来るのか、僕はわずかばかりに身構え、彼女が口を開くのを待つ。
そしてでた質問内容は……
「深夜君は私の事、好きですか?」
「……ん?」
これまたシンプルな質問だ。てっきりもっとえげつないのが来ると思っていたのだが、案外拍子抜けする物だった。
「嫌いではないですよ」
まあ苦手ではあるのだけれど。
「……そ、そうですか」
そう言って雛菊さんは、ほっと胸をなでおろしたような素振りを見せた。
その姿が本当にらしくなかった。僕のイメージする雛菊さんは、誰からの評価も気にしない傍若無人なわがまま人間だと思っていたから。
「じゃあ次の質問。先程言った休日何もしていないってどういう事なんですか?」
「そのままの意味です。ただイスに座って、部屋の中でただボーっとしてるだけ。それが私の休日の過ごし方です」
「……」
想像を絶する回答だった。そんな事をして、何が楽しいのだろうか。寂しくはないのだろうか。
「雛菊さん……」
「なんですか?」
「……今度の休日、どっか遊びにいきましょうか」
ーー一人なんてあまりにも寂しすぎる。
彼女を誘ったのは、打算でもなんでもなく、ただただ可哀そうだと感じたから。
そこに下心はなく、あるのは真心か、はたまた同情か。そのどちらかは自分でもよくわからない。
ただ気が付いたら僕はそう口にしていたのである。
「それは二人きりで……ですか?」
「それは質問になるので、質問権を使わないと答えません」
「それもそうですね。では私の質問権を使うので、教えてください」
あっさりと僕への質問権を手放してみせる彼女。どうやら彼女にとって二人きりという条件は、それほどにまで興味がそそられるものであったらしい。
「僕としては玲も一緒にと思ったのですが、雛菊さんが二人きりがいいのなら僕は別に構いませんよ」
きっと僕が女の子と二人きりで遊びなんて聞いたら玲は凄く怒りそうだが、相手は玲の専属メイドだ。
彼女だって信用してそばに置いているわけだし、きっとちゃんと話し合えば大丈夫だろう。
「そう……ですか。わかりました。では、今週の日曜日が空いていますので、その際に一緒にお出かけしましょうか」
そういう彼女の表情は心なしかいつもより柔らかく、年ごろの女性らしいそんな表情をしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます