第5話 玲の気持ち

SIDE:朝比奈玲


ーー私は間違った選択をしてしまったのだろうか?


 頭の中で先程から思い浮かぶのは、昼間屋上で行われた深夜とのやり取り。


ーー玲の事が好きだ


 そういう彼の言葉に私は、普段のポーカーフェイスも忘れて嬉しさのかなりみっともない姿を見せてしまった。


 それほどまでに彼の言葉の与えた影響力というのは大きく、私はあの瞬間、間違いなく今まで生きてきた中で一番の幸せを感じていただろう。


 あの言葉を聞くまでは。


ーー玲とセフレになるつもりはない。


 この発言は浮かれていた私を一気に現実に引き戻し、それどころか地獄へ突き落す様なそんな一言で、私は自身の考えていたプランの瓦解と今まで生きてきた中で一番の不幸を共に感じた。


 一日の内に幸せの絶頂とこの世の終わりを感じさせるとは、深夜は本当に罪作りな男である。


 それと同時に、自身がそこまで一人の男に惚れこんでいることに、わずかばかりの自嘲を感じていた。


ーー本当昔の私だったらこんな事考えられなかったなぁ……


 そんな私の思いを露も知らないであろう、私の思い人様といえば、今は授業に集中していて、先程私に自身の思いを打ち明けてきたその人とはとてもじゃないが思えない。


 私はこんなにもあなたの事を考えて、頭を悩ませているというのに、ずるいよ。


ーーそれにしても深夜はどうして私とセフレになりたくないのだろうか?


 私はこう見えて自身の見た目には、並々ならぬ自身がある。テレビに映っている人気のアイドルにだって負けていないし、芸能界へのスカウトだって何回もされてきた。


 胸だってかなり大きい方だし、クラスメイトの男子はそんな私の胸をよく見ている。まあ肝心の思い人様は、全く興味がないのか見てくれないのだが。


 深夜にだったら見るだけじゃなくて触らせてもいいのに。しかも布越しなんかじゃなくて、生で触らせてあげる。


 なんて思うけど、本当はただ私が深夜に触ってもらいたいだけか。


「じゃあ次の問題は、朝比奈さん。答えを黒板にお願いします」

「はい」


 折角深夜の事を考えて幸せな気分だったのに、興ざめもいいところだ。


ーーいっそのこと殺してしまうか?


 なんて物騒なことを考えてしまうが、そんな事はしない。だってそうしてしまったら、二度と深夜に会えなくなってしまう。


 私は教師からあてられた問題の答えを黒板にすらすらと書く。この程度の問題、授業を聞かずともその場でわかる。


「はい。正解です。流石学年一位ですね」

「ありがとうございます」


 クラスメイトが皆私の事を羨望の眼差しで見る。意中の彼は私の事なんて無視して、問題の答えに夢中だ。


「ちょっとは私の事見てよ。馬鹿」


 周りに聞こえないくらいの声で、私はそう呟く。


「朝比奈さん。本当にすごいね」


 席に戻ると隣の席のいつも私にに話しかけてくる男子に話しかけられる。


 その事が堪らなく不快だ。ここで彼に対して冷たい扱いをするのは簡単だ。でもそんな事をしたら、私のイメージが崩れてしまうし、何より深夜にいらぬ心配をかけてしまう。それは私の望むところではない。


「ふふふ、ありがとう」


 私はできる限りの作り笑いでそう言った。


「へ!? えへへへへ」


 単純な男だ。この程度でそんな喜ぶなんて。下心が透けて見えて、本当気持ち悪い。


 もし隣の席が深夜だったら、今の問題を解いたら褒めてくれただろうか?


 いや、ない。あの堅物は素直に私を褒めてくれない。大体深夜はもっと私を褒めてくれてもいいのに、彼は素直に私を褒めたことは数えるほどしかない。


 まあそんな堅物で、素直じゃないとこも所も愛おしいのだが。


 大体私程の美少女を自分の好きなようにしていいって言って断るか普通。深夜の顔なんて量産型ザ〇と変わらないスペックの癖に。


 でもそんな低スペックの深夜に惚れてしまっているのだから、恋とは本当に恐ろしい。


 それに私はまだ深夜のセフレになることを諦めてはいない。むしろ諦めるという文字は、私には存在していない。だからこそ、私は彼に思いを打ち明けたのだし、それに私の事を満たしてくれるは深夜しかいない。


 まずはあの強固な理性を崩さない限り、深夜のセフレになることはできない。


 セフレになれなければ、私の思い描いているプランが実行できない。それは何としてでも阻止せねば。


 そうなると何か策を考えないと、ね。


「ふふふ、待っててね。深夜」


 全ては私達の幸せの未来の為に。

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