第4話 深夜の告白
「ええとつまるところ玲は僕と結婚するつもりという認識でOK?」
「そうよ。何を当たり前のこと言っているの?」
いや全く持って当たり前ではないのだけれどね。
むしろそれを当たり前のことと認識している君が僕はちょっぴり怖いよ。
「まあ玲の認識問題は置いておいて、結婚するという行為にあたって少し尋ねたいことがある」
「何?」
「結婚するにはさ。まずお互いの事を知らなくちゃいけないわけじゃん」
「そうね」
「それでその知る過程が恋人関係というわけで、そこでこの人と気が合うなって思って初めて人は結婚するわけ。ここまで理解OK?」
「何を当たり前の事を言っているの? そんなの理解しているに決まっているじゃない。もしかして深夜って馬鹿なの?」
端から見れば僕の質問は確かに馬鹿かもしれないが、いきなりセフレになってと言ってきた玲にだけは常識云々を問われたたくはない。
「僕が馬鹿なのかは一旦置いておいて、そこまでわかっているならなんで玲は僕とその、恋人になるのは嫌なの?」
「だって私達既に互いの事理解しているじゃない」
玲は今更どうしてそのようなことを聞いてくるんだと言わんばかりの疑問顔でそう言った。
「……それはまあ、確かに」
玲の言わんとしていることはわからないでもない。実際僕と玲がともに過ごした年月は、親を除けば一番長く、互いの趣味嗜好や考え方や人間性などは既に知り尽くしている。
そんな僕たちにとって恋人同士になってやるべきことは当の昔にすませてしまっているのだ。
「でしょう? だから私達が付き合うのって意味がないと私は思うの」
玲の話は確かに筋は通っているし、、納得もできる言い分だ。納得したかは別としてたが。
それに僕はまだ一つだけ納得できていないことがあった。
「じゃあ昨日のセフレ発言は一体どういうつもりだったんだ?」
結局はそこなのだ。いくら彼女が僕と恋人になりたくないことに筋が通っていたとしても、いくら何でもセフレは飛躍しすぎだ。
「それは昨日も言ったけど、私は深夜とエッチな事がしたいの。それだけよ」
「それは僕の事がその、好きだから?」
「そうよ。誰だって好きな人とそういう事はしたいものでしょう?」
「それは……そうだけど……」
好きだからエッチをしたい。それは人間の本能的な物としては極々普通の事であるだろうし、そこに異論をはさむ余地はない。だけど、そうだけども僕の胸は今だもやもやしていて、彼女とそう言った関係にどうしてもなりたいとは思えない。
「ねぇ、深夜はどうしてそこまで嫌がるの? もしかして私ってそんなに魅力ない?」
少し不安げな様子で玲がそう尋ねる。
「そんな事は無い‼」
僕は力強くそう断言した。玲は間違いなくとても魅力的な女性だ。それは何も見た目が綺麗だからというわけじゃなくて、彼女の生き方やその姿勢がとても綺麗だから。
玲は確かに天才だ。でも努力をしていないわけではない。勉強僕と遊んでいる裏でかなりの量の勉強をしているのを知っている。
見た目に関しても体型維持のためのランニングを普段から行い、食事も油っぽいものや糖分は控えているといった徹底した自己管理を行い、あのスタイルを維持している。
そんな頑張る彼女に僕はいつしか惹かれ、恋焦がれたのだ。
「そ、そう……」
いつも冷静な彼女にしては、珍しいテレ顔に僕は自身の鼓動が早くなるのを感じる。
僕だって本当は可能ならば今すぐにでも彼女とエッチをしたいし、滅茶苦茶にしてしまいたい欲望もある。それは偏に彼女の事が大好きだから。
だけど、いや、そんなに玲が好きだからこそ僕は玲のセフレという発言に納得ができないでいた。
そうなると僕のやるべきことは一つだ。
「玲。僕も君の事が大好きだよ」
僕は自身の気持ちを正直に吐露する……
それが玲のあの告白に対する僕の答えだ。
「へ!? し、深夜。ほ、本当なの?」
珍しく慌てふためく姿の彼女に、僕の告白は彼女にとっては予想外の出来事であったのだろうと推測ができる。
でも僕の言葉はまだ終わらない。
「嘘なんてつかないよ。僕も玲のこと大好き。それこそ玲が僕を好きだという気持ちに負けないくらいに」
「あぅぅ……」
耳まで真っ赤にして、とても恥ずかしそうにしている彼女を見るとこっちまで恥ずかしくなるが、僕は言葉を、この思いを止めるわけにはいかない。
「だからこそ僕は玲とセフレになるつもりは一生ない‼」
「え……」
先程まではあんなに恥ずかしそうに、それでいて嬉しそうにしていた彼女の顔は、今や氷の様に冷たい顔をしていて、それでいて僕には今にも泣きそうな顔に見えた。
彼女にそんな顔をさせたのは、間違いなく僕だ。だけど僕は後悔はしていなかった。
大体セフレなんて自身の性欲を解消する為だけの都合のいい関係だ。
そんな関係に僕はなるつもりはないし、何より玲にはもっと自身の身体を大事にして欲しい。
「それじゃあ」
「あ、待って。深夜‼」
僕は彼女の静止を振り切って、屋上を後にした。
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