誰も見たことない道

燦來

誰も見たことない道なんてないでしょ

 小学生のころ町探検で近所の山へ行った。85歳のおじいちゃん先生を先頭に舗装された道を歩いていた。しかし、しばらくすると舗装された道は途絶えてしまった。おじいちゃん先生がみんなに聞いた。「ここから先は道がない。誰か先頭に行くか?」と。私は後ろで気配を消した。結局おじいちゃん先生が先頭で歩いてくれた。私は後ろから何人もが踏むことで完成された簡易的な道を歩いた。私の人生はずっとその繰り返しだ。


 高校生になった。私は地元のみんなが一番進学する高校を受験した。校内トップだった男子が県外の名門高校に地元の中学から始めて合格したと聞いたのは制服を作りに行った日のことだった。私が高校の3年間を特に変わったことをするわけでもなく過ごしているうちに、地元の同級生は何人もテレビや新聞に載っていた。高校生になるとそれまでの義務教育のような縛りがなくなり才能のあるものは一気に開花するのだろうか。ということは私には才能がないのだ。なんて考えながらテーブルにある新聞を見ると、また同級生が載っていた。見覚えのある顔でよく記事を読むと一緒に町探検をしていた真くんだった。真くんは今でも町探検をしているらしく先導をしている最中に化石を見つけたらしかった。小学生のころから先頭で歩くことすらないものの必ず前のほうを位置どっていた真くん。私はなぜかショックを受けた。そのままソファーで天井を見つめていると母が起こったように話しかけてきた。

「あんた、ボーとしとらんと机でも拭いてや、今日はお姉ちゃんが帰ってくる日なんよ」

私には3つ上に姉がいる。某ショート動画投稿アプリで人気になりインフルエンサー化した姉がいる。姉はいつもしたり顔でインフルエンサーとしての苦労を語るけれど、姉が進んだ道は真くんのように初めて人が踏み込んだ道ではないと私は思っている。だって姉も町探検で後ろを歩いていた人間だから。


 「美鈴は進路とか決めたの?」

姉が帰ってきたため豪華な夕食を頬張っていた時に向かいに座った姉が言った。お母さんがよく聞いてくれましたと言わんばかりに口を開く。

「ほんとよね、美来は今の美鈴くらいの時には事務所さんから声かかっていて進路決まっていたもんね。美鈴は何にも言わないのよ。ほんと困っちゃう」

お母さんがジト目でこっちを見てきたので慌てて目をそらした。

「美鈴の同級生のまみか?ちゃんだっけ、この前仕事で会ったよ!あの子フィギアスケートの国際大会出るんだってね!同級生はそれだけ活躍しているのにあんたどうなのよ」

そこからお母さんは私の同級生の活躍を姉に話し始めた。私は最後の唐揚げを食べて席を立った。お母さんは気付いていなかった。


 自分の部屋でイヤホンをして推しの芸人さんのライブを見る。コメントを送ればすごい速さで流れて行ってしまう。私のコメントなんて流れていくコメントと何ら変わりないために推しに読まれることもない。少しでも変わったコメントだといじるために拾ってくれたりする。でも、私は変わったコメントをする勇気も変わったコメントが思いつく才能もない。ただ思いついたことを書いて送るだけ。「誰も見たことのない道を進むにはどうすればいいですか。」今日思いついたコメントはそれだった。少しだけ変わったことを書いたと思ったがいじりがいがなかったためかスルーされた。


 私は、私にしかできない私しかたどり着けない、私が切り開いた道へ行ってみたかった。でも、山道や崖を歩くとかそんな怖いことはしたくないし、道のない何がいるかもわからないところへ行くこともしたくなかった。だから一生叶わない夢なのだ。私にしか見えない景色なんて道なんてこの世には存在しないのだ。考えれば考えるほど悲しくなった。枕に顔をうずめた時にスマホがなった。誰からだろうと思い手に取るとさっきライブをしていた推しからだった。驚いて思わず正座になる。そして通知を押すとDMにとんだ。推しからメッセージが届いていた。


 「美鈴ちゃん。今日のライブも来てくれてありがとう。あの場でコメントに触れると長くなりそうだったからDMにするね(笑)美鈴ちゃんにとって俺らは誰も見たことのない道を歩いていると思いますか?先輩が作った道を歩いてるって思っているかな?それもある意味間違いではないんだけどね、俺は自分は誰も見たことのない道を進んでると思ってるよ。だってさ、どんな人でもさ生まれた環境も育ててくれた親も違うじゃん。たどり着くところは同じかもしれないけれどそれまでの道って全然違うと思うんだよね。自分では誰もが歩いたことのある道を歩いているって思うかもだけどさ、そんなことないと思うよ。あと少し変わるかもだけど誰も見たことのないを作るってなると芸能業界どう?誰も見たことのないものを作る≒誰も見たことのない道じゃないかな?美鈴ちゃんさえ良かったら俺ら再来月単独するんだけど誰も見たことないもの一緒に作らない?変な意味じゃないから週刊誌とかにさらさないでな(笑)」

自分の人生の道は私しか見ていない道。誰も見たことのないものを作る。先頭に立つのが苦手な私でも誰かを立たせて見たことのないものを作ることが出来るかもしれない。推しはすごい。そう思いながら返信をした。

「DMありがとうございます。私で良ければ協力させてください。」

そう返事をすると3日後に都内で会うことになった。


 「美鈴ちゃん。緊張してる?」

推しがニコニコしながら私を見る。ライブで見るよりもかっこいい気がする。推しの隣には相方さんがいてこれまでの単独資料をマネージャーさんからもらっている。

「美鈴ちゃんは、誰も見たことないものが作りたいんよね。」

資料を見ていた相方さんが私のほうを向いた。

「は、はい。そうです。」

「高校生よね。」

「はい。」

「高校生は、どんな単独が見てみたい?」

「えっ」

推しのコンビの単独をサポートできることで何がしたいか考えたこともなかったし、単独でどんなことをするかもわかっていなかった。言葉に詰まっていると推しが口を開いた。

「深く考えなくていいよ、したいこと考えて」

その言葉に私はクラスで学校ではやっていることを考えた。タピオカ?チーズドック?韓国?どれもピンとこなかった。そんな時に町探検をなぜか思い出した。

「や、山道を歩くみたいに客席に何かを置いてそれを捜し歩くみたいな客席も参加できるようなものとかどうでしょうか」

私のその案に推しと相方さんが顔を見合わせた。的外れなものを言ってしまったかもしれない。そう思い机の下で祈るように手を握った。

「めっちゃいいやん!!」

「客席参加型は初じゃない?」

「すげーな、若い力!!」

推しと相方さんのはしゃぐ声が聞こえて顔を上げた。二人は、すごい楽しそうな顔をして単独でするネタの話をし始めた。それを見たマネージャーさんが私に声をかけてくれた。

「こんな楽しそうに単独考えているの久々だよ。ありがとね。」

私は自然と口角が上がった。推しの役に立てた。そのことが嬉しかった。


 「照明さん、カウントダウンと共にライトのランダムをお願いします」

「了解です」

私は、2か月単独の企画をした。高校生で単独を任されたのは私が初めてらしく新聞の取材も受けた。単独後に記事になるらしい。また、単独を企画している最中に他のライブの企画を考えさせていただくこともあり面白いと評価され高校卒業後そのまま働くことになった。はじめての採用方法だと推しから聞いた。


 私は今、構成作家として働いている。自分で切り開いたやり方で手に入れた職業だ。先陣を切ることが苦手な私が裏方としての先陣を切ることが出来た。才能はいつ、どんな時に開花するか分からない。道は思ってもいないところから広がっていると私は今思った。

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誰も見たことない道 燦來 @sango0108

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