第4話 今どき超能力とか流行んねーから!!

 未来から来たアンドロイドのファイローによってサイボーグになってしまった次の日、俺は学校をさぼった。例によってリアナからはメッセがガンガン来るし、ファイローからもナノマシンを介した量子通信なるもので何度もメッセージを送られた。俺は疲れていた。あいつ等凄く俺に執着してる。だから八王子郊外にある森の中で俺はタヌキモードになって野生の動物たち相手に愚痴を吐いていた。


「わかる?俺別に口説いてるわけじゃないのよ。なのにあいつらと来たら、なんか運命(笑)みたいに言い出して俺のことを自分のものだと思ってるわけ!勘弁してほしいよね!」


『もきゅもきゅきゅきゅ!きゅきゅきゅ!(まあ雌っていうのは一度愛するって決めた推す相手には健気ですからねぇ。兄貴も覚悟決めちゃったほうがいいんじゃないっすか?)』


 森一番の聞き役と噂のお猿さんは俺にまっとうなアドバイスをしてきた。というか畜生相手に愚痴ってる俺はいったい何?


「いやぁあれは健気とかじゃなくてなんかこう禍々しさを感じるんだけどねぇ!はぁ…自由になりたい…」


 だけどこうやって境遇を放すと少しは心が楽になる。よくよく考えれば俺がいなくてもあいつらはくそ強い。だから別に俺が戦闘に立つ必要はとくにないだろう。そう考えるとなんか未来に希望が出てくる。


『ぎゃーぎゃーぎゃぎゃぎゃ!(ていへんでぃ!なんか迷彩服着た人間どもがうちの山にカチコミかけてきやがった!)』


 喧嘩っ早いことで有名なカラスさんが森の動物たち相手にふれ回っている。


「もきゅもきゅきゅきゅ!(早とちりすんじゃねぇよ!どうせいつものサバゲー連中だろう?最近じゃ生分解BB弾を使ってるし、ほっとけほっとけ!)」


「ぎゃーぎゃかぁーかぁー!(それがいつもと様子が違うんだよ!!ほら最近森の奥にある廃工場こうばに変な奴らが住み着いて、くせぇ排気ガスだしてるじゃないっすか!あいつらの方に向かってるみたいなんすよ!あの迷彩服の連中ただもんじゃねぇ!動きがそこらのオタどもみたいに鈍くねぇんだよ!めちゃくちゃはえぇんだ!)」


「もきゅもきゅもきゅきゅきゅ(そいつはきなくせぇな…)」


「俺調査しましょうか?」


 困ってる森の動物さんたちに俺はそう提案した。これでも使い魔だしサイボーグだ。森の動物たちよりも圧倒的に強い。


「あんたたちには愚痴聞いてもらっちゃったし。少しは恩返しさせてくれ」


 動物たちは少しの間悩んでいた。


『きゅきゅきゅもきゅ(わかった。あんたに頼むよ)』


 そして俺は森に起きている異変を調査することになったのである。





 タヌキモードのまま木々の間を走り抜けて、俺は噂の廃工場にやってきた。なにやらおかしな匂いが漂っている。もしかしてこれ。


「まさかヤクザが覚醒剤でもつくってんのか?」


 俺はスマホを召喚して窓を覗き込み、動画撮影をはじめる。画面には外国人たちが中で何かの薬品を混ぜ混ぜしている風景が見えた。


「え?まじ?!まじでヤクの工場?!じゃあこっちに向かってる迷彩服の連中ってまさか警察かなにかか?!…いますぐに離れよう!」


 俺はすぐにその場から離れようと思った。だが突然頭の中に声が響いた。

 

『だれだそこで見ているのは?!』


 そしてその声と同時に何かの力の波動を感じた。すると俺のタヌキモードが強制的に解除されて、人間の姿に戻ってしまった。


「うわっ…どういうことだ?!何で元に戻った?!」


「それが私の能力だ。しかし珍しいな…動物への変身能力か!」


 工場の外に銃を構えた男たちと、オリーブ色の何かの制服を着た金髪に緑色の瞳の女が出てきた。制服にはU.S.ARMYと書かれてたワッペンが張られている。


「おやおや日本の学生に扮しているが、どうやらCIA当たりの工作員だな?我々の製造工場はそろそろ突き止められるとは思っていたがね」


 男たちは俺に銃を突き付け、金髪の女は俺の顎をくいッと持ち上げて実に愉しげに俺のことを見ている。


「だがすでに手遅れだよ。異能覚醒剤はすでに輸出済みだ。くくく。今やっているのはただのおかたずけなんだよ。一足遅かったな。ふふふ…」


 金髪の女は俺の耳もとにそう囁く。というかそろそろ話してほしいんだけどなぁ。


「しかし君は美しい顔をしているね…。実に好ましい。そして超能力も保有している。君、私たちの仲間にならないか?」


「え?いやぁ。すみません。そもそも話が見えないんですが…。俺はここが怪しいって聞いたから調べに来ただけで」


 俺がそういうと金髪の女は悲し気に顔を歪める。


「そうかやはり何も聞かされずに鉄砲玉のように使われているのか!なんと憐れな!私たち超能力者はいつもそうだ!健気に国家に尽くしても待っているのは哀れなる末路ばかり!!やはり君は私と来るべきだ!同じ超能力者同士!この世界に我らの自由なる国を興そうじゃないか!!」


 なんか俺のことを超能力者だと勘違いしているだけじゃなく、よくわからん野望についても語りだしてる。


「私たちは選ばれし新人類だ!野蛮で醜い旧人類共に顎で使われるような存在ではない!!さあ共に独立運動に身を投じよう!君と私が出会ったのはきっと運命…」


「下らん御託はそこまでにしろ、反逆者!ハーパー・ヘイスティング!」


 なんか聞いたようなことがある声が響き、同時に森の中からパッシュパッシュと音が響いた。すると俺の周りにいた男たちは胸や頭から血を流して、バタバタと倒れた。どうやら銃で撃たれたようだ。そして迷彩服を着た兵士たちが森の中から現れた。兵士たちは肩や胸にアメリカの国旗をつけている。そして三俣の矛のワッペンもつけていた。俺はそのどさくさに1人の兵士に抱えられて救出された。


「ほう!流石はネイビーシールズだな!!ここまで接近してきても気づかせないとは恐れ入るよ!!」


 金髪の女は余裕な表情で嗤っている。この状況でもなんとかなるという自信が彼女にはあるようだった。


「ハーパー・ヘイスティング!すぐに投降しろ!!頼む。同じ超能力者として。同胞として最後の名誉を守ってくれ…」


 俺を抱えていたシールズの兵士がヘルメットとマスクを脱いだ。その人はみたことがある。この間白い詰襟を着ていた外国人の女、名前はたしかリシェルディス・ハワードさん。彼女は俺のことを地面に降ろしてくれた。


「同胞?同胞だと!最強の超能力者であるくせに旧人類のゴミ共に仕えるお前が同胞だと!!笑わせるな!!」


「ハーパー!ジブンたち超能力者は決して選ばれた新人類でも何でもない!たまたま力をもって生まれただけの人間に過ぎないんだ!」


「うるさい!リシェルディス!!わたしたち超能力者が裏の世界でどう扱われているのか忘れたのか!!さりとて表の世界では生きられない!!わたしはこの世全ての超能力者がまっとうな人生を送れるように戦うと決めたのだ!!」


「そのためにここであんな薬をつくっていたというの?!あの薬がどのような危険なモノかはよくわかっているでしょう!」


「わかっているとも!だがすべてはお前のような旧人類を守ろうとする高位能力者を排除するためだ!!見せてやる!我らが力を!ネオ・ヒューマン新人類共和国・コモンウェルスが開発したこのブースターの力を!!」


ヘイスティングは懐から銃型の注射器を取りだして、自分の首に打った。すると彼女の瞳が爛々と怪しげに輝きだし、周囲にぱちぱちと電気のような光が出始める。


「まずい!撃て!!撃てぇええ!!」


 ハワードさんの支持でシールズの兵士たちが一斉にヘイスティングに向かってライフルを撃った。だが。


「クハハハ無駄だよ!!」


 弾丸はすべてヘイスティングの周囲で停止していた。それどころか彼女が指を弾くと、その弾丸は逆に兵士たちの方へと飛んで行ったのだ。そして弾丸はすべてライフルに当たり、シールズの兵士たちは皆武器を失った。


「念動力…?いやスカラー変換か!!」


「その通り私の力はクスリのおかげで進化した。わたしは周囲一帯のスカラーすべてを操作できる。つまりこういうことだ!!」


 ヘイスティングの瞳が怪し気に光る。するといきなり体が重くなるのを感じた。俺だけじゃない。シールズの兵士たちとハワードさんたちも同じらしい。彼らはみな膝をついて、重さに耐えている。


「さて。いつまで潰れずにすむかな?」


「ちっ!能力反転!ミラーフィールド!!」


 ハワードさんを中心に銀色に煌めく光が広がる。それはまるで鏡のように見えた。そしてそれと同時に俺たちの体が軽くなったのだ。


「くはは!さすがだな!リシェルディス!!能力を即座に解析し、反作用を産み出す貴様の力はやはり侮れない。合衆国建国以来、共和国を裏から守り続けてきたコロンビア女神様は伊達ではないな!!」


「コロンビアなどとジブンを呼ぶな!!ジブンは与えられた任務に忠実に応え、国を守っただけだ!!」


「なんだ?今までの自分を誇りに思っていないのか?まあ当然だろうな。長き年月を戦い続けた。たった一人ぼっちで!友も恋人も家族もおらず孤独に使命に生き続けて!それで何を得た!?何もお前は持ってない!力が強すぎるから友情も恋も知らず、大義なんてものに身を捧げる他なかった!国を愛したのに、誰からも愛されなかった憐れな乙女ヴァージンめ!さて!同じようなことは私にもできる!!キャンセル!!」


 さっき俺がタヌキを解除された時と同じ力を感じた。すると再びつよい重力が体に感じた。


「バカな!?キャンセル能力とスカラー変換を同時に仕えるわけがない?!それがブースターの力?!くぅうううう」


「くははは!さあつぶれろつぶれろ!劣等種共の犬っころは苦しめばいい!ふはは!あははは!」

 

 ヘイスティングは笑いながら、ハンドガンをハワードさんに向けた。きぃいいいいっと音を響かせながらハンドガンの銃口が黒く輝く。


「ありったけのグラビトンを込めてやる。当たれば局所的なブラックホールの発生に体が飲み込まれて死ぬだろう!さあ死ね!リシェルディス・ハワード!!」


 そして真っ黒い閃光が放たれた。これを喰らえばハワードさんは確実に死ぬだろう。そうするとシールズの兵士たちと俺も彼女のフィールドが消えて、超重力で死ぬ。ならば犠牲は少ない方がいい。だから俺はハワードさんの前に立って、その銃弾を受けた。腹にヒットして、そこにブラックホールができた。


「そ、そんな!君のような子がジブンを庇うなんてだめだ!駄目だぁ!やめてぇえええええええええええええええええええ!!」


 ブラックホールは俺の体を飲み込んで、首から上だけがこの世界に残された。そして俺の首は地面に落ちて、転がる。そしてそのうちだんだんと視界が狭くなっていき。俺は死んだ。


















「絶対に死なせない!たとえこの身を汚しても!国家を裏切ることになっても!この子だけは守る!!」
















 熱を感じて目を開けると、ハワードさんの綺麗な顔が目の前にあった。彼女の唇が俺の唇に優しく触れていた。そしてそのキスはどんどんと深く激しくなっていく。


「これが…キスの感触…。ああっ…っちゅ…ん…あっ…」


 彼女の舌が俺の口の中に入って。口の中をまさぐられていく。そしてだんだんと体が再生していく。


「バカな!?再生能力の付与?!違う?!これは!?時間のスカラーさえ巻き戻しているのか?!ありえない…!?」


 ヘイスティングは俺の体の再生を見て恐れ戦いている。


「そんな単純な言葉にしないで欲しい。これは愛の力!ジブンが捧げたのは愛だ!!」


「愛!?愛だと?!バカな?!そんなものがブースターさえも上回る出力を与えるというのか?!」


「ええ、今日初めてジブンも知った!愛には無限の可能性があるのだということを!!拓け!我らが夢見た自由なる世界!!全てを一つに!!!コロンビア・フロンティア!!IN GOD WE TRUST!!」


 そして彼女を中心に銀色の星々が空を覆っていく。ヘイスティングはそれを見て焦る。


「くそ!グラビトン!10倍!!」


「むだよ。素粒子の超統一を算出!グラビトンよ!遥か始原の姿へと帰すれ!!」


 銀色の星々が放った光が周囲一帯を照らす。すると超重力は一瞬にして消滅した。


「そ、そんなグラビトンが消えた?!ありえない!!」


「消えたわけじゃない。あなたの能力で産み出した存在を意味を現代では意味のなさない形に戻しただけ。あなたの力では観測させ出来ない未知の素粒子に変換したのよ。これがジブンの新たなる力。愛が生み出す統一の力よ」


「くそ!くそ!やはり計画最大の障害はお前なのか!…ちぃ!ここはひかせてもらう!!」


 ヘイスティングが指を弾くと廃工場が爆発し、そこから大きなドローンヘリが現れた。そしてそれはヘイスティングの上を飛び、彼女はドローンに捕まって空を飛んでいく。


「まだ覚醒したばかりなら、お前の力もそう効力範囲は広くはあるまい!!また会おうリシェルディス!次こそはお前を葬ってみせる!!」


 そしてヘイスティングはドローンと共に飛び去って行った。戦闘はこうして終わった。





 応援の米軍がやってきて、現場の調査と戦闘員や従業員の逮捕が行われた。慌ただしい現場の端っこで俺とハワードさんは治療を受けていた。


「結果としてジブンたちはヘイスティングを逃がしてしまい、薬の流出を止めることはできなかった。これから世界は大きな戦いの渦に飲み込まれるだろう」


 それ他にもあるんすよ…。世界の存亡(笑)をかけた戦いがこうして同時に三個も発生している。おかしいこの世界は色んな意味で間違ってる。


「そうですか…でもハワードさんがいれば大丈夫ですよね!」


「ジブンのことはリシェルディスでいい!そう呼んでくれ!それに君とジブンがいるから大丈夫なんだ!これからはともに世界を守ろう!この愛しい世界を!」


「そっすねー!超がんばらなきゃね!あはは!ははははははははは!!」


 俺の自棄になった笑い声が森の中に響き渡る。こうして俺は死んで、ミュータントに生まれ変わったのである!

 二度あることは三度あるのだ!

 そして本当の悲劇はここから始まるのである!




 シーズン1 完!

 シーズン2へ続く!









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