第2話 魔法少女の使い魔になっちゃった!テンプレテンプレ乙!

 変な女の子たちと出会った次の日のことだ。昼休みの校庭でマロニエの緑化委員の仕事を手伝っていた。せっせと花壇に水やりしていたのだが、朝からずっと視線を感じていた。


「ねぇねぇぱいせんぱいせん!何で頭地雷系の五百旗頭先輩にずっとストーカーされてんですか?ヤリ捨てしたの?」


「はは!んなわけねぇだろ。なんか勘違いされてるみたいだね。ほっとけ」


「でもメッチャやべぇ目でパイセンの事見てますよ。絶対あれ男を刺す女の目ですよ!撮っちゃおうっと」


 マロニエのアホは木の影からこちらのことをじっと睨んでいる五百旗頭の事をスマホで撮影していた。この女はこの女でアホだから嫌になる。すると俺のスマホが鳴った。昨日の五百旗頭から貰ったステ垢からのメッセージが入っていた。


『あなたの記憶消したいから、傍にいる女の子を追っ払いなさい。あと記憶を消す前にもっているアヤノブさまの画像と動画を全部よこしなさい』


 こわ!記憶を消したいっていうのが、そもそもわからないんだけど、昨日謎の槍を一瞬で手元に呼び出して見せたのを見るとただモノではないのは間違いない。どうしたものんかと考えあぐねていた時だ。


「おい!今日もちゃんと金を持ってきたか!」


「も、もう無理だよぅ」


「あん?!いいからてめぇのシングルマザーの母ちゃんが必死に貯めた金を持って来いって言ってんだよ!!学費分の蓄えくらいあるだろ!!おりゃ!」


 なんともテンプレないじめっ子といじめられっ子なやり取りがすぐ近くで行われていた。いじめっ子はいじめられっ子の腹に蹴りを入れている。


「学費分の金を持ってこないともっと痛い目に遭わせてやるぞ!」


「でもそのお金を渡したら、学校に行けなくなっちゃう…!」


「あん?お前みたいないじめられっ子はどうせいい大学出ていい企業に勤めたってまたそこでパワハラ喰らってやめてニートになるんだよ!だからそうならないように先にその分のお金を俺が使ってやるって言ってんだよ!!おあららあ!!」


「ぐはぁ!」


 いじめっ子はいじめられっ子のこめかみにエルボーを叩きこんだ。そろそろ止めないといけないな。俺は頭の中でいじめっ子を苛めるやり方を100通りくらいイメージしながら彼らに近づく。その時だ。彼らの近くに怪しげな影がうごめいているのが見えた。それはすぐに人の形となり、不気味な仮面を被り、裁判官のような法衣を纏った謎の存在になった。


「はあ?!ええ?変態?!怪人?!」


 俺は近づくのをやめて様子を伺う。明らかにヤバい雰囲気がプンプン臭う。


『罪ダ。汝ラニハ罪ノ重サヲ感ジル。罪ヲ天秤ニ載セヨ。傾イタ方ニ罰ヲ与エン!』


 すると怪人の後ろに大きな天秤が現れる。そして同時に現れた全身タイツな戦闘員?っぽい奴らが、いじめっ子といじめられっ子を担ぎ上げて、天秤の上に載せた。


「うわ!お前らなんなんだよ!やめろ!」


「こ、こわいようぅままー!」


『罪ヨ量ラレヨ!ソシテ罪人ニ相応シイ罰ヲ!』


『『『『相応シイ罰ヲ!!』』』』


 そして天秤は勢いよく傾いた。なんといじめられっ子の方に!ちなみにいじめっ子の方は勢いよく天秤が傾いたので、それがカタパルト代わりになって、空のかなたに飛んで行ってしまい見えなくなってしまった。なにこれ?なんなん?


『汝ハ母ノ金ヲ盗ミ、ソレヲ自身ヲ痛メツケル犯罪者ニ渡シタ。ソノ弱サハ極刑ニ相応シイ!刑二処セ!』


『『『『極刑執行!!』』』』


「うぅうわあああああああああああああああああああああ!や、やめてぇええええええええええええええええ!!」


 いじめられっ子は突然現れたギロチンにかけられる。そしてそのまま刃が落ちて、首を刎ねられてしまった。


『罪ハ贖ワレタ!!サア!更生シタ正シキ姿ヲ見セヨ!!』


 首を刎ねられたはずの体がぴくぴくと動き出して、その姿を変えていく。そして全身がメタリックなムキムキボディっとなり立ち上がる。そして落ちていた首を拾って、胴体の上に乗せる。


『汝ハ罪ヲ償ッタ!故ニ他者ノ罪ヲ裁ク資格ヲ有スルノダ!汝ハコレヨリ『ムンドゥス・コンコルディア』ノ『ユーデクス』ガ一人デアル!!』


 仮面をかぶっている怪人がメタルムキムキないじめっ子に仮面を差し出す。


「怪人になったのか…?あはは…日曜の朝にやれよ…今日はまだ平日の昼間だぞ…」


 怪人化したいじめられっ子は仮面を恭しく受け取りそれを顔に被る。そして雄たけびを上げる。


『UGAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!罪ヲ裁カセロオ!!』


『新タナルユーデクスヨ!ココニハオサナイ罪人ガ多クイル!ソノスベテヲ汝ガ名ノ下ニ裁クノダ!!』


『オ任セアレ!』


 そして法衣を着た怪人はまるで煙のように消え去った。そして残った怪人と全身タイツの戦闘員たち。これ…ぜったいあかんやつー!俺はマロニエを肩に抱き上げて走って逃げる。


「ぱいせんぱいせん!あれ!すごくないですかあれ!ぱいせんのお友達ですか?!日曜朝の撮影ですよね!?ぱねぇ!!」


 現代女子の例に漏れず、マロニエはスマホでパシャパシャと怪人たちを撮っている。


「ちげぇよ!絶対違う!あれは!あれは!!あいつらは本物の怪人だ!!うおおおおおお!!」


 俺は元そこそこ売れてる役者だ。当然いつ裸になってもいいように体は鍛えてある。だからマロニエを担いで走ってもなんとかなる。だけど他は違う。校庭には俺ら以外にも生徒たちが沢山いる。


『子供タチヲココニ集メロ!!コレヨリ裁判ヲ始メル!!』


『『『『『ジャーーーーーーー!!』』』』』


 戦闘員たちが四方八方に散らばり、生徒たちに襲い掛かる。校庭は一瞬で阿鼻叫喚の地獄となった。


「待ちなさい!あなたたちの悪逆非道!わたしは赦さない!!!」


 ピンク色の髪の五百旗頭が怪人の前に立ちはだかる。そして。


「変身!!!やあ!」


 あーこれ聞きたくなかったやつー。


「ぱいせんぱいせん!あの子変身とかいってますよ!うお!服が飛び散った!!すごいぃ!激エモじゃないですか!!」


 そう、変身!の掛け声と共に五百旗頭がピンク色の光に包まれて服が飛び散ったのだ。俺の足元に大きなおっぱいを包んでいたであろうブラジャーのカップが転がっている…。そして彼女はなんかクルクルと可愛らしく踊っている。たまに可愛らしくパン!って音がする。そのたびに足とか腕とかウェストとかの光が消えて、コスチュームの一部が見えていく。


「正義さえ裁く大正義!魔法少女リアナ・インサニア!見参!」


 魔法少女リアナ・インサニアこと五百旗頭はスタイリッシュなのに可愛らしいコスチュームを着て、怪人相手にかっこよさげなポーズをとっている。右手には槍、左手には刀。欲張り過ぎじゃない?


『出タナ!リアナ・インサニア!今日コソハ貴様モロトモ愚カナル人類ヲサバイテヤル!』


 今日こそはって…お前さっき怪人になったばっかりじゃん。なんでずっと因縁があるみたいなこと言ってんだろう?


「そうはさせない!だってわたしは!そのために魔法少女になったんだから!!」


『ミナノモノ!カカレェ!』


 怪人の合図とと共に戦闘員たちが、五百旗頭に襲い掛かる。だが。


「数だけ多くたって!意味ないんだからぁ!」


 最初に襲い掛かった戦闘員は腹を刀で切り裂かれた。臓物を飛び散らせてその場に倒れて息絶えた。次の戦闘員は槍の穂先で頭を思い切り殴られた。首から上がミンチになって息絶えた。襲い掛かる戦闘員たちは五百旗頭の圧倒的戦闘力を前に次々と息絶えていく。魔法少女の雑魚敵ってこんなに死に方グロかったかな…?もっとファンシーにシュワって消えない?違う?


「うわぁ!?ぐろ!?ぱいせん!これやばいっすね!日曜の朝には流せませんよ!!いいとこ深夜枠だし、謎の影で規制されるやつですよ!!円盤買って乳首を拝みましょう!!」


「うるせぇばーか!まろまろのばーかー!いい加減テレビから離れろ!!」


 とにかく五百旗頭がなんか戦っている間に、俺たちは可能な限りその場から離れた。


「これであなただけだね!」


 五百旗頭は怪人に刀を向ける。圧倒的戦闘力も相まってすごくかっこよく見える。そして怪人と魔法少女は一騎打ちをはじめる。最初は五百旗頭が圧倒していた。だけど。


『ク!ダガコレナラドウダ!』


 怪人は近くの女子生徒を捕まえて人質にした。


「卑怯者!やはり大層な正義を掲げていても、しょせんは怪人か!!」


『ウルサイ!大事ノ前ノ小事ダ!サア。武器ヲ捨テロ』


「…ふん!」


 五百旗頭は槍を消し去り、刀を地面に突き刺して、手を離した。


「さあその子を解放しなさい」


「フン。ワカッテイル!」


 怪人は大人しく女子生徒を解放した。女子生徒は悲鳴を上げてそのまま走り去っていく。てか大人しく開放するんだ…。聞き分けがいいなおい!


『感謝モサレズ憐レダナ魔法少女ヨ!ナラバセメテ苦シクナク一撃デオワラセテヤル!!』


 そして怪人は刀を地面から抜き取り、大上段に構えて、魔法少女に向かって振るう。このまま行けば頭から五百旗頭は真っ二つだろう。それは駄目だよね。見過ごせない。だって彼女は…。


『ナニィ?!』


「え…どうして…うそ…。そんなぁ…」


 俺は五百旗頭の前に立って、彼女の代わりに斬撃を喰らった。体の正面がバッサリと真っ二つ。血がビュービューと吹き出して、痛いとかいうレベルを超えて頭がジンジンする。体を支えきれなくなって俺はその場に崩れ落ちる。


「そんな!どうして?!あなたはわたしと何の接点もないじゃない!?どうしてこんなことを!!?」


「接点ならあるよ…。だって…君…俺のファンだって…言ってくれたじゃないか…」


 五百旗頭に向かって首を傾けた時、かけていた眼鏡が地面に落ちてしまった。

 

「うそ!そんな!そんな!?あ…ぁああああああああああああああああいやぁあああああああああああああああああああああああああああああ!!!」


 彼女も俺の正体に気づいたようだ。ひどく悲しそうな顔で泣いている。申し訳ないけど、ちょっと嬉しかった。だって干された芸能人が死にそうなときに、それをめちゃくちゃ悲しんでくれるファンが目の前にいるんだよ。最高の終わり方じゃないか。もうこれで。思い残すことはない…。俺の視界はゆっくりと閉じていく。








 そして俺は死んだ。















「推しは絶対に死なせない!わたしのすべてをあげてもかまわない!!だから!!」







 










 唇に柔らかい感触を覚えた。目を開くと目の前に五百旗頭の綺麗な顔が見えた。


「大丈夫…今…蘇らせるからね…!んっちゅ…っぱ…」


 俺たちの周りにはピンク色の光の渦が淡く輝いている。そして彼女は俺の口の中に滅茶苦茶思い切り舌を捻じ込んでくる。


「んん?んんん?!」


 その激しいディープキスのせいなのか、俺の体の中に何かの力がうごめいているような感じがした。さらに俺の体もなぜか光り輝いてその姿を変えていく。そして気がついた時には…。


「あのー。なんで五百旗頭さんすごく大きくなってるんですか?」


「逆だよ。あなたが…アヤノブさまが小さくなっちゃったの!見て」


 コンパクトな手鏡を彼女は開いて俺に見せつける。なんと俺は五百旗頭の掌に治まるサイズの…タヌキみたいな謎の生き物になっていた。


「なんですかこれー!!どういうことなんですかー!」


 カルチャーショックだ。何で俺がタヌキになっているのか?タヌキ?ていうかなんでタヌキ?


「アヤノブさまは一回死んじゃったから。私が使い魔として蘇らせたの!かわいいですよ!アヤノブさまぁ♡」


 ハートマークがこえぇよ。なに?ファンに俺飼われちゃうことになったの?なんのサイコホラー?


「怪人!後はあなただけだよ!愛を手に入れた魔法少女の力見せてあげる!!変身!!」


 俺のことを肩に乗せて、さらに五百旗頭は変身し始める。体がピンク色に輝いて、以下略、そして変身が終わると、五百旗頭の姿はさっきの可愛らしい者とは違い、極限まで肌を露出したエロティックスーパーセクシーな感じになっていた。レオタードにニーソだけみたいな二ッチな萌えさを感じる。


「神話を再び語れ!我が手にあるは魔術の大神の槍である!!グーングニル!そして来寇者の光の神よ!時代が下りて英雄に生まれ変わったあなたの力を見せなさい!ランスロット ルグの槍!」


 五百旗頭の両手に槍が握られる。そしてそれらは禍々しい光を放ち始める。


「愛の力さえあれば神代の暴虐さえも統べてみせる!!神話よ重なれ!神威統一!!クロス・ロット!!」


 そして五百旗頭はその場で両手の槍を十字を切るように振るった。当然そこからでは怪人には攻撃は届かない。


『クハハハ!ナンダソノオドリハ!コケオドシメェ…エ?』


 攻撃はとどいていないはずだった。なのにその場で怪人の体は上下で真っ二つに切り裂かれた。下半身と上半身が離れて地面に落ちる。


『グアアアアア。コ、コレハイッタイ?!』


「神代の力の前に現実世界の距離や防御は何の意味もなさない。そして斬撃は、一度だけじゃないの」


『エ?アッ…』


 そしてさらに怪人の体が真ん中から真っ二つになる。さらに血と内臓が飛び散る。めちゃめちゃグロい。めっちゃスプラッター。


「裁く者はいずれ裁かれる。ただそれだけのこと…それを胸に刻んでやり直すことね…!」


 そして五百旗頭が後ろに振り向くと、同時に怪人の体が大爆発を起こした。爆炎を背に五百旗頭はドヤ顔決めている。こうして怪人はこの世を去り、世界は守られたのである。








 いじめられっ子は爆風が去った後、爆心地の中心で伸びていた。やたらとスプラッタでグロいのに、こういうところはなんかお子様向け感あってちょっと安心した。あといじめっ子の方は学校の屋上で伸びてた。軽症で済んでいてい安心した。そして五百旗頭は騒ぎに巻き込まれた者たちに魔法を片っ端からかけて記憶を飛ばしていった。魔法少女の活躍は人々には秘密らしい。そして使い魔になってしまった俺。


「よかった!ちゃんと戻れたぁ!!」


 なんか気合入れたら、人間に戻れた。あのまま一生タヌキのままとかごめん被る。戻れたのは僥倖である。タヌキだった時にマロニエからお菓子を貰うために芸をやらされたのはひどい屈辱だった。


「ま、まあ。今日は助かったよありがとう五百旗頭さん」


「私のことは麗愛奉りあなでいいよ。アヤノブさま」


「う、うん、リアナ。あの俺のことも様づけじゃなくていいよ」


「そんな!推しを呼び捨てなんて無理だよぅ!いやん」


 なんか恥ずかしがってる。その羞恥心ちょっとよくわかんないです。


「リアナは魔法少女として頑張ってるんだね。凄いなぁ。これからも頑張ってね」


 俺は適当に褒め殺しして、この場を早く去りたかった。いやな予感がしていた。早くバックレたかった。


「はい!ずっと一人で頑張ってきたの!でもこれから二人だからもっともっと頑張れると思うの!一緒に頑張ろうね!アヤノブさま!」


 ダメだった。どうやら俺はすでに仲間扱いになっているらしい。マロニエが五百旗頭の後ろで爆笑してやがる。くそ腹立つ。あとでお仕置してやる。


「う、うん。そ、そうだね。うん。俺も頑張らないとなぁ…あは!あはははは!いーあはははははははははははは!」


 俺の自棄になった笑い声が戦闘員たちの血と臓物で真っ赤に染まる校庭に響き渡る。こうして俺は一度死んで、魔法少女の使い魔として生まれ変わってしまったのである。








作者の独り言。



次はアンドロイドだ!



ちなみにですが、一説によるとアーサー王伝説の英雄ランスロットの名前の語源は『光の神ルグの槍』を意味する可能性があるそうです。またランスロットそのものがケルト神話ルグ(ルー)が時代を下って英雄に姿を変えたものなのでは?とする解釈なんかもあるそうなので、本作ではその解釈を採用し、最強の槍「ランスロット」を登場させました。ルーが持つ槍の能力すべてを再現できるし、アーサー王伝説のランスロットの能力も使えるすごい槍ですよ!魔法少女五百旗頭いおきべ麗愛奉りあなは神話系の力をガンガン使うやつです。ぜひとも皆さま可愛がってあげてください。

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