魔法少女、アンドロイド、超能力者なヒロインたちの傍にいがちな『理解ある彼くん』になってしまいました!メンヘラな彼女たちへの理解力が足りないと、世界が滅びます!誰かマジで代わってくれよ…
園業公起
第1話 雑な出会いも三回連続だとエモい
「
「はい?」
ある日、俺は所属する芸能事務所の社長に突然呼び出されて、こう告げられた。
「え?ちょっと待ってくださいよ!俺、最近ちゃんと結果出してるでしょ!ドラマや舞台の役立って勝ち取ってきた!一番儲かるCMだって何本もとったじゃないですか!!事務所的には俺は儲かる役者でしょ?!なんでクビ?!」
「お前この間、大御所のお誘い断ったよね?」
「ええ、家でご飯食べようって誘われました。けど俺、高校生だし、断るでしょ普通」
一度バラエティーで共演した大御所のおばちゃんのタレントさんに誘われたのだ。だけど若い男にちょっかい掛けるのが好きな人だって聞いていたので、丁重にお断りした。
「普通はそういうとき断んねーんだよ!このばか!!一度あのババアを抱くだけで仕事ががっぽがっぽと入ってくんだよ!何で断ってんだよお前?!」
社長は深くため息をつく。俺は男なのに枕営業の誘いを受けているらしい。勘弁してほしい。
「俺は実力で仕事取るんで。枕とか絶対やりません」
「このクソガキ!その態度のせいでこっちはいい迷惑なんだよ!あのババア、お前の断られてショック受けてふさぎ込んで仕事全部キャンセルしやがったんだぞ!」
「よその事務所のタレントさんじゃないですか。ほっとけばいいでしょ」
「そんなわけにいくか!!あのババアの枕を断ったお前は業界のブラックリストに載っちまったんだよ!共演NGの通告が山のように来てんだよ!」
「はぁ?!ええ?!つーかおかしいじゃないですか!悪いのは向こうでしょ!!なんで俺が干されるんですか?!」
「ふん。芸能界なんだから誰かのご機嫌一つで運命は決まるんだよ。お前はもう干された。仕事はない。だからクビ。いますぐにここから出ていってくれ。話し合いはなしだ。消えろ」
それだけ言って、社長はそっぽを向いてしまった。説得なんて無理そうだ。こうして俺は理不尽極まりない理由で、役者の夢を諦めることになったのだ。
事務所を首になって俺の日常は色を失い、退屈なものに成り下がった。もともと学校では目立ったないように、髪の毛を地味にセットして、ぶっといフレームの眼鏡を使って過ごしてた。俺がテレビに出たり、舞台に立っていたりすることを知るものはいない。なんなら友達もいない。休みがちだったしね。
「はぁ…つまんねぇ…」
今でもたまに考える。ちょっと我慢して枕ってれば今でも俺は役者として仕事ができていたのだろう。それどころか枕パワァでもっといい仕事にありつけたかもしれない。
「でもなぁ…やっぱりそういうのは好きな人と好きな時にしたいよね」
結局未だに俺は芸能について割り切れない思いを抱いたままだ。なのに何もできない。したいことも見つからない。屋上の金網フェンスに背中を預けて溜息をつきながら弁当を食べる。その時だ。
『大丈夫さ。君には俺がついてるんだから…』
甘い男の囁き声がどこからか聞こえた。ていうかこれ、俺の声だ。CMで恋人に甘く囁くような台詞を言ったのをよく覚えている。
『大丈夫さ。君には俺がついてるんだから…』
また同じ声が聞こえてきた。さらに続けて三度、四度と繰り返し同じ声が屋上に響き続ける。流石に恥ずかしくなって、声のもとを探してみた。すると屋上の端っこにスマホを見ている女子生徒がいた。そのスマホから俺の声が響き続けている。
「はぅぅ…。もっともっとぉ…」
女の子はもじもじと身を捩らせていた。なんだろう。ちょっと気持ち悪い。だけどあんなに俺の声を聴いているってことは、きっと俺のファンなんだろう。ちょっと興味をもってしまった。
「何聞いてるの?」
俺は女の子に近づいて、そう尋ねた。その女の子はびくっと体を震わせて、俺の方に顔を上げた。その女の子はとても美しい顔をしていた。くりくりした大きい金色の瞳。可愛らしいピンク色の髪の毛。小動物のように小柄な体をモジモジとさせているが、胸はとても大きくスタイルのメリハリはすごかった。
「あれ…声似てる…?ううん。気のせいだよね。だってアヤノブさまがこんなとこにいるはずないもの…」
女の子は俺の声を聞いて困惑しているようだ。まあそれを聞いてるご本人さまだもの、戸惑うのは無理もない。
「さっきからずっとその声聞いてるけど、好きなの?」
「はい!超好きです!大大大好き!死んでもいい!」
ピンクの髪の女の子は顔を上げて目をキラキラさせながら立ち上がる。胸が大きく揺れたのが見えてちょっとドキッとした。
「あなたも声似てるし!アヤノブさまのこと好きなの?!」
「え?いや…とくには…」
「…そう…ふぅ…残念…」
すごくがっかりした感じの顔で溜息を吐いた後、彼女は座り込む。ポケットからイヤホンを取りだして、スマホに挿してそれで声を聞き始めた。なんだろうこの微妙な感じ。彼女は俺のファンで俺のコンテンツを楽しんでくれているわけだけど、当の本人は無視されてるんだよね。まあぱっと見で特徴は一致しないと思うけど。だから俺はちょっと悪戯してやろうと思った。
「えへへ…やっぱりいいなぁ…へへ、へへへ」
危ないハッパでもキメちゃってるようなトロ顔でスマホの中の俺を見続けるピンク髪の女の子の後ろに回り込んで、俺はその耳元で出来るだけ甘い声を意識して囁く。
「無視するなんてひどい子だね…お仕置しちゃおうかな…?」
「アヤノブさま?!いまおしりだしましゅ!!…ってまたあなたなの?!」
スカートの裾をつまみ持ち上げてお尻を向けながら、ピンクの髪の女の子は振り向いた。パンツは無駄にセクシーな黒だった。そしてそこにいるのが、アヤノブではなく、地味な俺であることに気がついて、わなわなと震えだす。
「よくも騙したね!?私のことをよくもそのそっくりボイスで騙したね?!許せない!!!きー!!」
ピンクの髪の女の子はすごく眉を上げて怒り狂ってる。
「わるかったわるかった。お詫びにこれあげるから許してよ」
そう言って俺は某ドラマに出演した時に自撮りした動画を女の子にみせてやった。
「ふぁああああああ?!こ、これは?!見た事ない動画だ!?ガチ推し勢の私が知らない動画?!あなた何者?!」
この動画はSNSにアップしようと思ってたんだけど、事務所クビになってアップするのをやめたやつである。
「くくく。俺はしがないただの高校生さ」
「そ。まあ流出動画の類はあるんでしょうね。じゃあ迷惑かけたお詫びにその動画早く頂戴」
女の子は連絡先を俺に表示してくる。ささっとアカウントを交換して、その動画を送ってあげた。ついでにオープンになってない自撮り写真なんかもくれてやった。
「むほほ?!この写真やば?!…あなた。いったい何が目的なの?もしかして私の事好きなの?でもごめんなさいね。わたしアヤノブさまとしかキスもエッチしないって決めてるから。あとさっきのは捨てアカだから、連絡入れても無駄よ」
捨てアカをナチュラルに送って来るとか…個人情報大切にし過ぎじゃない?
「それご本人はご存じなんですかねぇ?」
「きっと伝わってるはずよ。まだグループアイドル活動してた時から、いつも客席で魔導念波のメッセージを彼に送り続けてたもの」
何言ってんだこいつ…え?ヤバ…気持ち悪い。当然、ご本人の俺はそんな電波を受け取った覚えはない。俺が燻しがっているのに気がついたからか、ピンクの髪の女の子は俺の事をどこか険しい顔で睨んでいる。
「ねぇあなたいま、わたしが魔導念波のメッセージが送ったことを知ってしまったのよね?」
「ん?まあがっつり聞いたけど」
「そう…じゃあ…記憶飛ばさないとね…」
そう言うと彼女の右手に突然大きな槍が現れた。そして彼女は何かを早口で唱え始めた。絶対ヤバい!?なんだこの空気感?!ほんとヤバい雰囲気がする。これってあれだ?!記憶飛ばしてなかったことにする奴っぽい?!そして槍がうっすらと淡く光はじめた。きっとこれで記憶を飛ばすのだろう。その瞬間だった。
「あー!先輩?!探しましたよー!」
屋上の入り口のドアが開いて、茶髪の女の子が入ってきた。その瞬間にピンクの髪の女の子は何かの呪文を唱えて、持っていた槍を何処かへと消し去った。
「せんぱーい!ひまでしょ?ひまだろ?ひまじゃん?ね?わたしのことを手伝ってくださいよぅ!めんどくさいんですよ!図書委員って!返す本がいっぱい貯まっちゃってぇ!並べるのめんどくさいんですぅ!ってあれ?この人…」
茶髪の女の子は一年生の後輩である俺の知り合いの
「ぱいせんぱいせん!なんで頭地雷系で有名な
マロニエはピンクの髪の女のことを知っているようだ。てか頭地雷系ってひどくない?
「ちっ!?名前を掴まれた?!(…はぁ…術式の難易度が上がってしまった…まずい)」
なんか術式の難易度がどうこうと小声でつぶやいている。…このままマロニエと一緒にこの場を離れた方がよさそうだな。
「まろまろ!仕事手伝ってやるよ!さあいこうぜ!」
「あっ!気安く肩抱くのやめてくださいよぅ!!もう!ぷんぷん!」
俺はマロニエの肩をがっしりと抱いて、屋上の入り口に早足で向かう。
「………次は絶対に消してやる…」
後からそんな声が聞こえたけど、聞こえなかったことにしよう。まあ、俺はもう大好きな芸能をやめさせられた身だ。記憶を消されたからってどうだっていいのだろうけどね…。
そして図書館にてマロニエの仕事を手伝ってから、俺は下校した。そして河川敷をプラプラと歩いていた時だった。川岸の草むらの中にエロ本が落ちているのが見えた。
「え?!今どきエロ本ってマジで落ちてんのかよ?!まじかよ!?ウケる!!」
俺はエロ本に近づいた。日付は何と昭和だった。
「うそだろwww昭和のエロ本?!逆に値打ちあるんじゃね?!ぎゃはは!」
だがそのときふっと気がついた。そのエロ本、昭和時代に刷られたはずなのに、やたらと真新しいことに。
「なんだこれ?レプリカかなにかか?それにしちゃ本物過ぎる…?それにこれはいったい?」
さらに気がついたのだが、周りには様々な物がおちていたのだ。冷蔵庫、洗濯機、レコード、様々な懐かしい品々が新品同然で転がっている。
「何が起きてんだ…?」
その時だ。バチバチと上の方から音が響いた。そして一瞬ぴかって光ったと思うと、何かが俺の上に降ってきた。
「うわぁ!?」
俺は最初避けようとした。だけどそのシルエットは明らかに女性の体だった。反射的に降ってきたものを受け止めてしまった。
「うぐぅうう。って?!まじで女の子降ってきた?!」
地面に倒れた俺の上に真っ裸な女の子が倒れている。気絶していたが、俺が肩を揺らすとすぐに目を覚ました。
「…戦闘用アンドロイド。個体識別愛称
女の子はなんか感情が籠ってない声でおかしなことを呟いている。そして目があった。銀髪に赤い瞳の神秘的な美貌がそこにはあった。理想の女の美しさをありったけ詰め込んだような美しい顔。人間離れしたその美しさにはいっそ不気味ささえ覚える。でも俺の胸にあたる大きなおっぱいの感触はとても気持ちいいやわらかさだったのだ。
「男性の身体ステータスをチェック。身長183cm、筋肉質、アジア系、外見ランクは…暫定S」
「え?起きて速攻人の事値踏みしてるの?何様?何様?ん?」
「どうして感情を害しているのかは存じませんが、一つ質問にお答えいただけませんか?」
「なに?」
「今は一体何年ですか?」
すごく気持ち悪い質問来ちゃったよ!
「2022年ですけど?」
「タイムワープの成功を確認!」
うわぁ…なんかヤバいこと言い出しやがった…。そして銀髪の女の子は立ち上がる。俺もついでに立ち上がる。
「ふむ。私時間跳躍に巻き込まれて色々なものが、近傍の時間軸から引き寄せられてしまったようですね。もう少し安定したタイムスリップをしたかったですが、この時代に来れただけ良かったのでしょう」
俺はなにも聞いてない。聞きたくないですよ!
「先ほどはご迷惑をおかけしました」
「あ、いえいえこちらこそ」
銀髪の少女は俺に恭しく頭を下げる。あまりにも丁寧なもんで、俺もつられて頭をさげてしまった。
「わたくしは人類を救うためこの時代に遣わされたのに、この時代の人類に迷惑をかけてはアンドロイドの恥ですね。すぐにでもスクラップになるべきなのかもしれません。ですが、任務を帯びた身故に、いまだけは見逃していただきたい」
なんだこいつ…。すごく下から目線が逆に怖い…。関わりたくない。だけど男の本能として、真っ裸な女の子が目の前にいるのはどうしても落ち着きがなくなる。なので、俺は詰襟の上着を脱いで、彼女に着せる。それでボタンを留めてやったら、股の下までは体が隠れてくれた。
「それはお前にくれてやる!だから適当になんか頑張れ!じゃあな!!」
俺はそれだけ言ってその場からダッシュで逃げた。
「あっ…待ってください…このお礼を…!」
何か言っているような気がしたけど、俺は聞こえないふりして無事に逃げ切ったのである。
気分が落ち着かなかった俺は駅前に遊びに来ていた。ゲーセンで適当に遊び倒した後、外へ出るとすっかり暗く成りかかっていた。八王子の町の夜は結構にぎやかだ。ここらへんには大学が多いので、大学生たちがよく飲みに来るのだ。そんな賑やかになりかかっている通りを歩いていた時だ。
「へぇ?何それコスプレ?カッコいいね?俺たちと飲もうぜ!」
チャラい恰好した大学生らしき若い男たちが、一人の女に絡んでいた。女は黙っている。俺は義憤に駆られて、彼らの方に近づいて、ふっと足を止めた。女の恰好はすごく変わっていた。白い詰襟に金ボタン。それに白のタイトスカート。それに警官みたいな帽子をかぶってる。そしてよく見ると外国人だった。白人系の金髪碧眼の美女。この国だとひどく目立って仕方がないだろう。今日は厄日だ。どう考えてもあの女も堅気じゃない。だけどここで絡まれてる女の子に助太刀しなかったら俺は自分をクズだと蔑むよりほかない。たとえ芸能界を追放された身であっても、立派なことはしたいのだ。俺は眼鏡を外して、前髪を上げる。そして一呼吸してから、『役作り』をはじめて、彼らの間に割り込んだ。
「やめろ。多人数で一人の女に言い寄るのは卑怯者のやることだ。恥を知れ」
「はぁ?なんだと?てめぇ!一人のくせに!」
男は酔っていたのだろう、すぐに俺に殴りかかってくる。だけど俺はそのコブシを避けずに掌で受け止める。そしてそのままその手を捻り上げて、相手の足を引っかけて倒す。残った男たちを俺は睨みつける。ありったけの気迫を込めた。役者の本気の睨みだ。男たちはどこかビビっているように身を屈めている。
「そいつを連れてそのまま消えろ!二度と女に絡むな!」
「は、はい!ゆ、ゆるしてください!ひぃ!」
男たちはそのまま俺の目の前から逃げだした。するとぱちぱちと拍手の音が聞こえた。
「大したものだな君は。ジブンも軍人生活が長い。蛮勇はいくらでも見てきたが、君のような勇敢なのに美しい立ち振る舞いははじめてみたよ」
拍手をしていたのは、詰襟の女だった。にっこりと笑っている。
「助かったよ。ありがとう。U.Sネイビーのジブンがあのようなボンクラ相手でも暴力的に追い払うと、外交問題になりかねないんでね」
なんだろう。ピンクの髪の女や銀髪の子とか違って身元がしっかりしてる感じがある。なのにどうしてもやっぱりいやな予感しかしない。
「そうですかー。海軍さんですかー。あはは!じゃあ俺はこれで…!」
俺は回れ右して一気にダッシュする。会話なんてしてはいけない!それだけはわかった!
「ああ!おい!ちょっと!!ジブンの名はリシェルディス・ハワード!階級は大尉!せめてお礼をさせて欲しいんだが!?」
後ろからそんな声が響いてきたが、全力で無視してやった。そして逃げ切ることに成功した。
それが彼女たちとの出会いだ。
この出会いの後に。
俺は三回死んで、三回蘇る。
そして世界最強の存在となり、彼女たちが世界を守る戦いをサポートする羽目になるのである。
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