第27話 彼女からの招待

 サソリ型の機械が墜落し、それを操っていた男の反応が消えてから数十分後。

 目の前では現在、アリスさんの連絡で駆けつけた機関……リターナーの関係者達が調査や治療などを行っている。

 僕も先程、元の姿での外傷は少なかったが彼らに治療をしてもらった。


 ラスボスカイザーはというと、損傷的に問題はなかったようで、機関の人達が来る前に再度変形して帰って行った。

 あのロボに関しては、機関の方には帰還者の協力があったといった感じでうまく説明しておくから安心してほしい……とアリスさんが言っていた。



「痛たた……もっとやさしく……」


「無茶しすぎですよ。もう少し我慢してください」



 目の前で治療を終えたアリスさんがこちらに向かって歩いて来る。



「魔法による治療といっても、やっぱり痛いものは痛いわ……あ、面野さん、おまたせ」


「大丈夫ですか?」


「ええ、もう問題ないわ」



 戦闘でボロボロになったライダースーツに、他の職員から渡されたのであろうジャケットを羽織った彼女が軽く片手を上げながら笑顔で答える。



「それでまあ……色々話すことはあるんだけど。ここだとまずいし、私も傷は治ったけどめっちゃ疲れてるから、後日3人で話しましょうか」


「あ、はい……でも、マイスターさんはどうなんだろう」



 と思った矢先、スマホにメッセージの通知が届く。

 その内容を確認してみると。



『色々と疑問に思うことがあるだろう。それについて説明できる範囲の事は説明させてほしいので一度、3人で話したい』



 それはアリスさんの提案と似たような内容だった。

 それに対して僕は、アリスさんも同じような提案をしていると伝える返信をした。

 そして、それにすぐ返信が来る。



『それは丁度よかった。彼女のほうにも連絡をしておく。場所と日時は後でまたメッセージを送る』



 というメッセージを確認した後、アリスさんにそのことを伝えた。



「ああ、丁度こっちにもメッセージが来たわ……この連絡先を教えた覚えもないのにね」


「マイスターさんって一体……」


「あら、知り合いじゃないの?」


「まだ間接的というか、なんというか」


「さしずめ、それなりのハッカーってとこかしらね……あのロボットはよく分からないけど。最初はちょっとビビったけれど、私も仕事柄この手の奴と絡むことはあったから、慣れればそういうタイプってことでやり取りするだけよ」


「さすが、慣れてるんですね」



 そう話しながら、彼女は乗ってきたバイクにまたがる。



「そういうわけで、また会いましょ。またね!」


「はい、また」



 バイクに乗り、走り去って行く彼女を見送る。

 先程、彼女から聞いた話によれば、本部へ報告などをしてから今日は休ませてもらうとか。

 その要求が通るかは知らないけど。



「あっ」



 アリスさんのバイクが見えなくなった辺りで気付く。

 僕はどうやって帰ろうかと。



「仕方ないか……」



 この場で作業をしている人達には話しかけづらいし、ここから少し離れてタクシーを呼ぼうか。

 この前の石化事件の時の報酬とやらも、うやむやになってた気がするし交通費くらいは出してほしいと、スマホで使える金額の確認をしながらふと思ってしまった。



■■■■



 数日後。

 この数日の間にGM(ゴーレム・マイスター)さんから場所と日時が指定されたメッセージが届き、今日はその予定の日だ。


 身支度を整え、出かける直前に玄関でアプリを開き、念のため彼女からのメッセージを確認した。



「中央都市第5区の……郊外の廃工場だっけ」



 そこに示されていた場所は、僕の自宅からはかなり離れてるということは確かで、電車で移動した後にタクシーかバスを使うことになる。

 できれば節約したいのでバスの時刻を調べてそれに合わせることにしたが、そんな地域なのでやはりその本数は少なかった。



「伯母さん、行ってきます!」


「いってらっしゃい~」



 伯母さんに見送られながら玄関を出て、空を見上げると曇り空が目に映る。



■■■■



 自宅を出てから2時間程経ち、第5区の駅前に到着した。

 駅前ロータリーのバス停に丁度、目的地に向かうバスが到着しているのが見える。



「あのバスだな……」



 バスに乗ると、人があまりいないであろう地域を走るだけあって乗客もほとんどいなかった。


 しばらくウトウトしながらバスに揺られていると、目的地のアナウンスが聞こえ、意識をはっきりと戻す。


 バスを降りると、「エメラルドの丘公園前」と書かれた、錆びついたバス停が目に入る。その時刻表を見て、バスの本数の少なさから改めてここが人が少ない地域であることを実感した。



「帰り大丈夫かなぁ」



 時刻を確認すると14時を過ぎていた。

 待ち合わせの時間は15時なので、迷わなければ多分間に合うだろう。

 

 地図を確認しながら少し歩くと、目的地である廃工場が見えてきた。

 アリスさんとはその前で待ち合わせすることになっている。



「面野さん、こっちこっち!」



 声の方を見ると、工場の門前で手を振るいつものライダースーツを着たアリスさんの姿があった。



「ここで合ってるんですよね……?」


「そのはず……門は少し開いてるし、そこのシャッター横のドアも鍵はかかってないみたい」



 恐る恐る彼女が言っていた目の前のドアをゆっくりと開ける。

 その中には全体的に汚れていて荒れ果てた通路が見え、その床には所々ガラス片が散らばっているようだ。



「うっ……この臭いは」


「薬品か何かの臭い……薬品工場だったのかしらね」



 薬品らしき独特の臭いの中、通路を進んで行くと番号式のロックが付いたドアの前にたどり着いた。


 アリスさんが何かに気づいたのか、それを調べ始める。



「外見はごまかされてるけどこのドア、周りと比べるとかなり新しいわね」


「じゃあ、この先にマイスターさんが?」



 怪しいドアを見つけたところで僕のスマホの通知音が鳴った。



「まあ、監視はされてるわよね……それはいいとして、どうやら正解みたいね」



 通知の内容を確認すると、アリスさんの予感通りマイスターさんからのメッセージだと分かる。



『ロック解除パス……』



 内容は、簡素に目の前のドアのロック解除パスワードだけを記したものだった。

 それに従い、数字のボタンを押していく。


 全て入力し終えると同時に、ドアからガチャリという音がした。



「開いたみたいですね」


「そうね。行ってみましょうか」



 ドアを開け、その先にあった階段をしばらく下りること数分。

 下りきった先にあった、1つのドアに僕は手をかけた。

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