第22話 その名はプロト・ラスボスカイザー

 今、眼前にある裏牙が搭乗したロボットが「プロト・ラスボスカイザー」と命名された。

 本来よりスケールが小さいことから、そう名付けるのはアリだとは感じた……少なくとも、アイツにしてはまともなネーミングだろう。



「よし、移動させるぞ!」



 ロボにポーズを取らせるのをやめた裏牙は、今度はそれを移動させるつもりのようだが、少し心配になって僕は虎白さんと一緒に距離を取る。

 そこから間もなくして、直立していたロボの手足が少しずつ動き始めた。



「ついに歩くでござるよ!」

「大丈夫かなぁ」



 それの手足がぎこちなく動いていき、やっと一歩を踏み出した。



「ポーズ変更に比べて、普通に動かすのは難しいな……」

「バランス取りとか?」

「ああ、体の動きをダイレクトに反映するようなやつじゃないからな。レバーやらボタンやらでガチャガチャやる形式は王道で良いが、実際やってみると難しいものだな」

「レバー式操縦ロボのロマン……分かるでござるなぁ」



 動きのぎこちなさもなんとなく納得できる。その操縦方法は見栄えはロボットを操縦している感が出るが、実際に動かしてみると難しそうというのは昔から思っていた事だったけど、本当にそうなんだなぁ。



「あとさ……」

「どうした雪理?」



 こうしてロボが動く姿を見て、1つの疑問が浮かぶ。



「これって法的に外で動かして大丈夫なの? ここは私有地だと思うけどさ」

「あっ」

「はっ……それは失念していたでござる」



 その疑問に固まる2人。

 ロボの動きが止まり、ハッチが開かれる。

 それから急いで降りた裏牙はスマホを取り出すと電話をかけ始めた。

 相手はマイスターさんだろう。



「マイスターよ! このプロトラスボスカイザーだが、車両としての扱いとか法的にどうなってる!?」

「プロト……? まあいい、しかし悪の組織なのにそんな事は気にするのか……まだ法の適応外の産物だよ流石に。下手に暴れるのはやめてほしいところだがな」

「ああなんだ、そうなのか……いや、なるほど法で規制されぬように慎重に運用すべきということだな!」



 まあ、あんな物が街中を移動してる様子は日常的とは言えないし、まだグレーというか対応した法が無い状態みたいか……それを聞いて僕も少し安心した。



「というわけで! とりあえずこれは、地下格納庫へと一時封印する!」

「了解でござる!」



 地下格納庫……地下の駐車場のことだろうか。

 さすがにそこはビビったんだなぁ、分かるけど。



「えーと……それじゃあ、運び終わったら拙の家で少しゆっくりしていくとよいでござるよ2人とも!」

「お、おう。そうだな」

「はい、ありがとうございます」



この空気を感じてなのか、虎白さんの提案で邸宅の客間に案内してもらうことになった。





 数時間後。

 すっかり夜になったことが、大きなガラス戸からよく分かる。

 結局あれから、お菓子と飲物をご馳走になりつつ個々でスマホをいじりながらダラダラと時間が過ぎていた。

 そして、邸宅の門前。

 普段着に着替えた虎白さんが僕達を見送りに来てくれていた。



「アレの扱いについては、今後話し合うとして……拙の家で預かることは変わらない感じで大丈夫でござるよ」

「あ、ああ、助かる……すまないな」

「単純に飾っておくだけでも素晴らしい出来の物でござるし、気にすることはないでござるよ、裏牙殿」



 さすがに裏牙も気が引けているようで、それを察したのか虎白さんが大丈夫だとアピールをする。実際のところどう思ってるのかは分からないけど。



「さて、もう遅いでござるし、2人とも気をつけて帰るでござるよ~」

「そ、そうだな! 見送りご苦労だ、ゴザルよ!」

「またね、虎白さん」



 門前で手を振る彼女に手を振り返してから僕達は帰路につく。

 そして、邸宅からある程度離れたところで、虎白さんはああ言ってたけど、やはり気になるので僕の方から話を切り出した。



「アレさ……まさか、虎白さんのとこにずっと置いておくつもりなの?」

「ま、まあ、今のところはな! 本人も快諾してくれたし、いいだろう!」



 本人の言葉を信じるならやはりそうなのだろうか……裏牙の言葉に言い返せなかった。

 彼女本人がよければそれでいいのかな……そう思いたい。

 しかし、こんな物を手に入れて、ラスボス帝国は一体どこに向かっているんだろうと、夜道を歩きながらふと思う。

 そして、それを用意した上に本来の大きさでも用意できるような言い方もしていたマイスターさんは一体何者なんだろうか……。

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