第21話 発注したカイザー
時刻は昼過ぎ。
今日は石化から完治したハルと会う約束だったけど連絡によれば今朝、地下居住区内でトラブルがあったらしくて、すぐには会えないらしい。
そうなると、どうするかと思った矢先。ラスボス帝国のグループ内のメッセージで至急集合の文字が見えた。
どうせ大した事ではないだろうと思ったが、暇なので行ってみることにした。
数十分後、
ラスボス帝国のアジトの中に入ると、そこには裏牙だけがいた。
イラついているような、寂しそうともいえるような様子だったが、こちらを見るなりいつもの調子に戻ったようで。
「雪理は来てくれたか!」
「まあ……暇だし。それに虎白さんはこの時間は学校でしょ」
「そ、そうだったな……それはともかくだ!」
そこから流れるように何度か妙なポージング決めてから最後に両手を掲げる裏牙。
「ついに完成したのだ! 我が帝国が誇る最強の兵器、ラスボスカイザーの等身大……と言いたいところだったが、諸事情でスケールダウンさせた操縦できるロボットが!」
「操縦可能?」
「実戦運用もできるイメージで、とGM(ゴーレム・マイスター)に発注しておいたのだがな……発注したものよりスケールが大幅に下がってしまったのが残念ではあるのだが……いや、やっぱり納得いかん!」
そう言うと彼はスマホを取り出すと、どこかへ連絡を取るような動きを見せる。
裏牙のスマホから何回か呼び出し音が鳴った後、その相手が通話に出る。
「おいマイスター! やっぱり納得いかん、何故スケールダウンさせた!」
「裏牙かと思って出てみたら……高層の建造物と同じ背丈って、一体どこにそれを置くつもりなんだ! アタシは気を使ってやったんだからな!」
その声の主はアイツがゴーレムマイスターと呼んでいる子だった。
話の内容から、少なくとも20メートル以上くらいのサイズで注文したであろうことがなんとなく分かる。
「しかし、それでたったの6メートルとはどういうことだ!」
「それくらいあればいいだろ! 重さだって大型の車両くらいにしてやったのに」
「あの……」
スピーカーでの会話につい割り込んでしまった。
「その声は面野 雪理か。会話を聞いていたなら、アタシのほうが正しいことを言っているって分かるだろ!」
「それはそうだね……正直、そのサイズでもどこに置くのって感じだけど」
「くっ……雪理までそう言うのなら……認めてやらんこともない」
渋々完成品のことを認めた様子の裏牙だった。
それにしても、話が本当なら個人がよくそんな物を用意できたと疑問に思う。
ふとよぎったのは、彼女が帰還者で何らかの能力で作りだしたとか。実は複数人バックにいるとか……今思いつくのはこれくらいだろうか。
「それで、実際それどこに置くつもりなの?」
「えっと……それはだな……」
「はいはい。そういう事だろうと思ったから、虎白さんと事前に納品場所を決めておいたから」
「そ、それは実に気が利くではないか! それでこそ我が帝国の良き協力者だ!」
こういう時に苦し紛れなカッコつけでごまかすのは相変わらずだなぁ。
「一応、報酬は貰ってるからちゃんと説明するぞ。今日の17時頃にトラックで虎白さんの自宅の駐車場に今回の依頼品を納品する予定だ。彼女が学校から帰る頃だろうから一緒に行くといい」
「よし把握した! 出来については後日しっかり評価してやろう!」
「はいはい、ご勝手に。それじゃあ切るぞ」
通話が切れて裏牙はそのスマホを自身のポケットにしまう。
「17時か……まだ時間あるね」
「ふむ、では格ゲーでもしようではないか!」
そう言って、彼は様々な物が押し込まれた部屋の一画からそこそこ古めのゲーム機を取り出してきた。
数時間後。
日も沈み始めた頃、時刻は17時に近づいていた。
「フハハハ! また俺の勝利だな!」
「そのキャラ強いって……あ、もう時間だね」
「そうだな。ではゴザルに連絡を取るとしよう」
裏牙から虎白さんに連絡を取り、住所を聞いた後。虎白さんの自宅前で集合という事になった。
それから十数分後。
2人で徒歩でここまでやって来たわけだが、目の前に見えるのは近代的なデザインの巨大な邸宅。
虎白さん、本当にお金持ちなんだな……。
「ゴザルの家に来るのは始めてだったが、こんなところだったとはな……少し緊張してしまうではないか」
「そうだね。ちょっと身構えちゃうよねこれは」
などと話していると邸宅正面の扉が開き、中から虎白さんが出てくる。
ウィッグは着けておらず、今回はパイロットスーツか何かだろうか、少し装飾の付いたボディラインが分かりやすい感じのコスプレだった。
そういう衣装だからか、細身ながら全体的に筋肉がしっかりついているということが分かり少し驚く。
護身の訓練をしているって言ってたけど、かなり鍛えてるんだなぁ、虎白さん。
あと、こう……少し目のやり場に困る。本人は気にしてる様子はないけど……。
「ようこそ我が家へ! でござるよ、2人とも」
「どうも、お邪魔します。すごい家ですね」
「ゴザルよ、まさかこのような場所に住んでいたとはな!」
このまま虎白さんの案内で僕達は中に招き入れられることになった。
数人の警備とすれ違いながら彼女の後をついて行くと、ラスボスカイザーが納品されたという駐車場にたどり着く。
そこにはビニールが被せられた巨大な物体が他の車両から離れた位置に置かれていた。
大きさ的に恐らくあれが納品された物だろう。
「実際に見てみるとデカいなー」
「そうでござろう? みんなで見るのが楽しみでござる!」
「さて、その姿を拝見しようではないか!」
裏牙が布の一部を掴んで引っ張ると、それが一気に取り払われてラスボスカイザーがその姿を表す。
駐車場のライトに照らされたそれは、この前見せてもらったフィギュアをそのまま大きくしたような精巧さであった。
「うおおお! この黒と紫をベースとしたこの色合い、いかにも
「ふおぉぉぉ! 買った甲斐があるでござる、このクオリティは!」
「たしかに、これはすごいね……」
感動したのか目を輝かせながら叫ぶ2人。
裏牙が言った通りの造形なのはそう。
僕もすごいとは思ったけど、そういうリアクションをする程じゃないかな……。
でもこれ、親御さんへの許可とか大丈夫なんだろうか。
虎白さんとマイスターさんで話し合ったとは聞いたけど。
「今更言うのもなんだけど……虎白さん、親への許可とか大丈夫なの?」
「ああ、マ……母上は普段は海外を拠点にしていて、父上も現在出張中でござるし、今回の事の許可はしっかり取ってあるでござるよ!」
話だけ聞いても何の事かよく分からないだろうに、許可出したんだ……。
「さて、まずはラスボス帝国の首領たるこの俺が、これに搭乗しようと思う!」
「うん、いいと思うよ」
「拙も早く乗りたいでござるが、ここは裏牙殿に譲るでござるよ!」
予想はしてたけど裏牙が最初にロボに乗ることになって、意気揚々にそれの腹部の前に立つが……。
「で、どうすればハッチが開くんだ?」
「説明聞いてないの?」
「ああ、操縦可能とだけ知らされていたからな。聞いてみるか」
裏牙がマイスターへと連絡を取り始めて数分後。
裏牙が片手をかざすと、ロボのハッチが音を立ててゆっくりと開き始める。
「なるほど。付属の腕輪がキーになっていたのか」
マイスターさんからの説明を聞きながら裏牙が装着していたのは、ラスボスカイザーの主なカラーと同じ色である紫と黒色の腕輪。
ドクロの意匠が施されており、いかにもアイツ好みのデザインだ。
コックピットに乗り込んだ裏牙の自身に満ちた顔が、閉まるハッチで見えなくなっていく。
完全にハッチが閉まるとロボの両目が光り、分かりやすく起動したという合図だと受け取れた。
「正常に起動完了だ! 早速動かすぞ!」
「ワクワクでござる〜」
「すごいなぁ」
座り姿勢であったロボがゆっくりと立ち上がっていく。
その光景はアニメなどのワンシーンを見ているようだった。
そこまでこういったものへの熱が無い僕でも、これには軽く感動を覚える。
完全に立ち上がったロボは、いつも裏牙がやっているようなポーズを取ったと同時に。
「フハハハハ! 素晴らしいではないか! スケールが足りてない点はやはり気になるので、命名するならば……」
「普通にラスボスカイザーでいいんじゃ……」
「その名は何でござるか!」
ロボがポーズのパターンを変える、そして……。
「こいつの名は……プロト・ラスボスカイザーだ!」
高らかに叫ばれたその声が駐車場に響き渡った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます