第18話 芸術を探求する者

 あれから少しして、日も沈みきった頃。

 僕はアリスさんとともに、中央都市第8区内で僕の自宅からは少し遠い、第6公園の周辺に来ていた。

 あれからドクナさん達に連絡を取り、現地のここで待ち合わせすることになっている。



「雪理〜! アリスさんもー」

「待たせたな、雪理」



 しっかりと幻術で見た目を変えている2人と無事に合流できたので、これからどういう流れで今回の石化事件の犯人を捕らえるのかをアリスさんが説明してくれるようだ。



「相手の動向はこっちの監視から分かってはいるんだけど、日中潜伏している倉庫は、相手のテリトリーってのもあって、そこに飛び込むのは危険だと考えてるわ」

「ふむ、それには賛成じゃ」

「というわけで、現場を押さえる! これでいくわ!」

「治せるとは聞いてますけど、それってかなり危ないんじゃ」

「被害が出る前にケリをつければいいだけよ」



 かなりシンプルな作戦だけど、こっちは4人だしなんとかなるのかなぁ。

 アリスさん。最初はカッコいい人だと思っていたけど、この人……うーん。





 数十分後。

 僕達は固まりつつ、夜の街のパトロールをしていた。



「雪理〜散歩楽しいね!」

「パトロールだって……あと何で腕組みを……」

「固まって行動するんでしょーこの方がいいと思って」



 何故か僕はハルと腕を組んで歩いている。

 嫌ではないけど、緊張感が無いというか……。



「ハルは基本誰にでもこんな調子じゃが、気に入った相手には特にベタベタするからのぅ。ハル、雪理も困っているじゃろう」

「ま、まあ、嫌じゃないですよ」

「嫌じゃないって、ドク姉!」

「すまんのぅ雪理」

「うーん、動きが無いわね……」



 まだまだ時間がかかりそうだと思ったその時だった。



「あっちの方で誰かが何かされたよ!」

「なにっ!」



 街灯で照らされてない暗がりに何かを見つけたというハルが、腕をほどいてその方向に走りだした。



「待ちなさい! 1人は危険よ!」



 アリスさんの警告もむなしく、彼は魔法で自身を加速させてそこに飛び込んで行ってしまった。



「1人にすると危険です! 追いかけましょう!」

「ええ!」

「話を聞いておらんかったのか、あやつは……」





 ハルを追って僕達3人は、彼が飛び込んだ暗がりの地点まで急いでやってきた。



「ハルー! どこにいるのー!」

「面野さん、静かに。古水土に気付かれるわ」

「まさか、すでにやられているなんてことは……む?」



 ドクナさんが茂みの向こうに何かを見つけたようで、それを確認しにいったが……。



「くっ……だから話はちゃんと聞いておけと……」



 彼女に続いて僕とアリスさんも茂みの方を確認してみると、攻撃体勢に入ろうとしてたであろう姿で全身が石化しているハルの姿があった。



「そんな……ハル」

「今は悲しむ余裕は無いわ。戦力は減ってしまったけど、古水土はこの近くにいる!」



 全員で辺りを警戒しながら見回す。

 すると、ある方向の暗がりに何か光るものが見えた。



「危ない!」



 光を見ようとしたその瞬間、アリスさんの扱うユニットが僕の視界を塞ぐ。

 すると赤いユニットがみるみるうちに灰色の塊へと変わり、ボトリと地面に落ちた。



「やっと見つけたわよ!」



 光が放たれた方へ彼女の周囲に展開している残ったユニットの攻撃が向かう。

 放たれた光弾が一瞬暗がりを照らすが、そこには誰もいなかった。



「ははは……とうとう追い詰められたようですねぇ」



 違う方向の暗がりからゆっくりと1人の男が歩いて来た。



「古水土……もう逃げられないわよ」



 街灯の光に照らされ、男の姿があらわになる。

 整った黒髪のスーツを着たその姿は、会社帰りのサラリーマンのようだった。



「1人は不意打ちでどうにかできましたが、まだ3人もいたとは」

「あなたがこの騒動を……」



 男はゆっくりと両手を上げる。

 状況的にどうやら観念したように見えるが……。



「ええ、こちらに戻ってからはこの力は封印していたんですがね。ですが、こう……湧いてきてしまったんですよ」

「湧いてきた?」

「インスピレーションが! 最高の作品のね!」



 彼がそう言い放つと同時に、その両目から強烈な光が放たれた。

 僕ら全員がその光を浴びてしまうが……なんともない。

 それからすぐに、僕らの目の前で透明なガラス板のようなものが割れるのが見えた。

 恐らくドクナさんが貼った障壁だろう。



「この攻撃を読んでいましたか、ですが……」

「今じゃー!」



 男が言い終わる前にドクナさんは自身の幻術を解き、素早く彼の顔面に尾の先端を叩きつけ、そのまま尾を男の頭に巻きつけた。



「ぐっ……こ、これは!」

「目からの攻撃と分かれば、こうすればいいのじゃよ。安心せい、頭は砕かんでやる」

「あはは……この程度でこの力を封じたつもりですか」



 尾が巻き付いた彼の頭部から先程と同じ光が放たれる。



「ドクナさん!」

「ふっ……」



 しかし彼女は余裕の表情である。

 光が消えた後もその尾に変化はない。



「そんな……」

「そこにも貼っておいたんじゃよ、障壁を。こちらが本命で……強固なやつをな」



 さっき僕達を守ったあの障壁を尾の方にも貼っていたのか!



「私もヒヤヒヤしたけど、なるほどね。さあ、古水土。大人しく施設に来てもらうわよ」

「いいですよもう、せっかくの情熱が冷めてしまいました。最高の1体を作れそうな流れでしたが、こうも水を差されるとは……」

「わけわかんないわね……まあ、いいわ。念の為だけどドクナさん、その状態を維持したままにしておいてくれる? こっちで運ぶ手配をするから」



 ドクナさんの策によって古水土は無事拘束された。

 僕は結局戦力にはなれなかったな……いや、それよりもハルが心配だ。



「治るんですよね……ハルは」

「ええ、少し時間はかかるけど大丈夫よ。ハルさんも一緒に施設の方に運びましょう」



 少し経ち、ハル達を運ぶための人員がやって来た。

 僕もついて行こうと、やって来た車両に駆け寄る。



「面野さん、あなたは帰ったほうがいいわ。心配なのはわかるけどね」

「僕も力になれなかったし、せめて……」

「あの力は不安定なんじゃろう? 無理に使うことはないと思うぞ。カオリも心配しておるはずじゃし、お主は帰ったほうがよい」

「ドクナさんもそう言うなら……」



 たしかに、僕が一緒に行ったところで治療を手伝えるわけでもない。

 車両に乗り込んだ2人を見送って、僕は不安を胸に帰路についた。

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