第14話 コウモリ傘の少女

 治療院の騒動から数日後。

 今日は、ラスボス帝国の秘密会議だとかで裏牙にアジトに呼び出されていた。

 ハルと共にビル2階のドアを開けると、部屋中央のローテーブル周りでスマホをいじっている2人がいた。

 裏牙はいつもの服装だったが、虎白さんは緑の2つ団子の髪型で服装はチャイナ服であった。

 こちらに気づくと、2人はこっちに振り向く。



「遊びに来たよー!」

「来たよ裏牙。ところで……虎白さん、髪型と色まで前回と違うけど頻繁に変えるんですか?」

「あ、これでござるか? それなら……」



 そう言いながら彼女は頭部を手で掴むとそのまま引き上げる。

 すると団子ヘアの部分が頭部から外れ、黒い短髪があらわになった。



「なるほど、ウィッグだったんですね」

「拙の本来の髪型は、ウィッグに対応しやすいようにショートにしているんでござるよ」



 そこまでするって、コスプレ関係は詳しくはないけど、結構な気合の入れようだなぁ。

 そう思う間に彼女はウィッグを着け直す。



「……で、裏牙。今日は一体何をするつもりなの?」

「ククク……よくぞ聞いてくれた! 我が相棒、雪理よ!」



 裏牙がその場で立ち上がると、激しい身振り手振りでよく分からない決めポーズ取る。

 昔からの事で一々考えるのも疲れるので、もう今更どうも思わない。



「今日の議題は最近、各所で噂になっている コウモリ傘の少女 についてだ!」

「知らないなぁ」

「拙の学校ではそこそこ話題になっていたでござるよ」

「雪理、とりあえずこの記事を見ろ」



 そう言って裏牙は手に持つスマホの画面をこちらに向けた。

 そこには、都市伝説関係のまとめサイトのようなものが表示されていた。



「なんだ都市伝説じゃん……どれ」



 見せられた記事にはここ最近、不自然に道に落ちている壊れたコウモリ傘を見かけた人が恐怖体験をするといった事が多発している……といったような事が書かれていた。

 どの事例もコウモリ傘を持った黒髪黒服の少女が目撃されているらしい。



「これも帰還者ってやつ……むぐっ」

「しーっ、その事もここのみんなには秘密って言ったでしょ」



 ハルが口を滑らせたので前と同じように口を塞ぐ。

 なんかこれも慣れてきたな……。



「注目すべきは、これらの報告地域が主にこの周辺であるということだ!」

「それは驚きだね。だから話題に上げたのか」

「まあ、そうでござろうな」



 しかし結局のところ、これって単なる怪談の類じゃないか。

 正直まだ6月だし、そういう事やるシーズンでもないし。



「それで? 裏牙は何がしたいの今回は」

「今回は雪理が復帰。そしてハルが加わってから初の活動だからな! 小手調べに各自でこの事について調査を行う……というより、遭遇して真相を確かめてやろうとな!」

「うーん、報告されてる事例では、100%雨の夜道での遭遇でござるから、拙は学業の関係で難しいでござるよ」

「まあ、それは各々のペースで問題ない!」

「りょーかい! コウモリ傘の子ってどんなだろ〜」



 こうして会議は終了したが解散はせず、みんなで遊ぶことになった。





 数時間後。

 据置ゲームの対戦で熱くなっていたのか、いつの間にか日が落ちる時間になっていた。



「ハル、この短時間で僕よりも上手くなったんじゃない? すごいなー」

「あっちでも噂には聞いてたけど、この遊び楽しいねー!」

「フフ……この俺のテクにはまだ届かんがな!」

「あ、もう外が暗くなっているでござる! 拙は帰らねば!」



 焦った様子で虎白さんが立ち上がり、洗面所の方へ着替えに駆け込んだ。



「もうこんな時間か。裏牙、僕達もそろそろ帰るよ」

「えー! もっとこれやりたかったなー」

「我がアジトは帝国メンバーであれば出入りは自由だ! また来るといい! 俺も大学で出席しなければならないアレコレがあるゆえ、いつもいるというわけではないが」



 暗くなったのもあり、僕とハルは虎白さんと途中まで一緒に帰ることになった。

 そして、3人でアジトを出てからすぐに気付く。



「雨降って来ちゃったか」

「この程度なら傘は不要でござるな」



 小雨が降ってきていた。

 夜……そして雨……奇しくもコウモリ傘の少女とやらが現れる条件が揃っていた。





 十数分後。

 交差点に差し掛かり、虎白さんが立ち止まる。



「拙はこっちゆえ、ここでお別れでござる。それでは雪理殿、ハル殿。これにて〜」

「隼花〜バイバーイ!」

「ええ、また」



 素の髪型で通っている学校のものであろう制服姿の彼女が、僕の自宅とは別方向の道へ歩いて行ったのを確認した後。僕らも自宅に向かう道へ歩み始めた。

 街灯に照らされた道を数分歩いたところであるものが目に入る。



「え……まさか……」



 前方の道の真ん中に落ちていたのは壊れたコウモリ傘。

 この状況……裏牙に見せられたアレと同じだ。



「ねえ、あなた達」



 背後から聞こえた声。

 振り向くとそこには、点滅する街灯に照らされた黒髪黒服の赤い瞳の少女がコウモリ傘を持ち、こちらを見つめて立っていた。

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