第13話 その治療院に注意2
眼前に迫る男の手、それが僕に触れようとした時。何かが男の腕に振り下ろされた。
「うあっ! があぁぁぁぁ!」
それは蛇の尾……幻術を解除したドクナさんのものだった。
「ふぅ、危なかったのぅ」
「ドクナさん、ありがとう!」
男……獅子炉間ロウが叩きつけられた腕を押さえながら立ち上がる。
「その尾、普通の人間じゃなかったのか……ですが!」
ロウは瞬時に自身の腕に術をかけて治療してしまった。
「私の才は治癒の方にあり、この程度負傷の内に入りませんね」
「生半可な攻撃は意味が無いということか……」
「なら回復の隙を与えなければ! ユニット!」
アリスさんの声に反応した何かが、彼女の荷物から飛び出す。
複数の小型機械……前に糸崎を包囲していたやつだ。
「ユニット……ファイア!」
その掛け声に反応した機械から光弾がロウに向けて一斉に放たれる。
受け身を取る間もなく集中砲火を浴びた彼はその場に倒れた。
「どうよ!」
「痛いじゃあないですか……しかし、回復は間に合いましたよ」
そう言いながら彼がゆっくりと立ち上がる。
こうなったら僕にできることは……また、試してみるしか。
「ならば同時に仕掛けるぞ、アリス!」
「オッケー!」
2人が頑張っている間に、あの時の再現を……。
目を閉じ、深呼吸を入れて全身に精神を集中させる。
変われ……変われ……!
「その程度の攻撃では!」
「火力が足りんのか……!」
「拘束できればなんとかなるはずよ!」
戦闘の声、音が聞こえるが集中により、それも少しずつ消えていく。
あの時の感覚を……。
「よ……の……者よ……」
あの時に聞いた声が聞こえた気がした。
そして、それからすぐに視界が赤い光に包まれた。
目を開けると驚いた様子の男が視界に入った。
「何が起こったというのだ! 貴様も化け物か!」
「おお、あの時の姿になれたか!」
「映像では見たけど、こんな感じなのね」
各反応を見て、うまくいったと確信する。
手を見てもう一度確認するとたしかに水晶で覆われている。
「これ以上の応戦はまずいですね……」
「待て!」
ロウは隣にあった窓を全開にしてそこから飛び降りた。
さすがにこの高さなので、着地は成功したようだが身動きが取れないようで、すぐに全身の治療を始めたのが見える。
「この体なら……この高さでも!」
ここはマンションの4階。
生身で飛び降りようものなら、今の彼のように大変なことになるだろうが、この状態ならきっといける!
男が使った窓から僕も飛び降りた。
「おっと……」
落下はあっという間で怖さを感じる間もほぼなかった。
そして、少しふらついたがうまく着地はできたようだ。痛みもほとんどない。
「くっ、治療がまだ……ならば足止めを!」
自身の治療を中断した男は、こちらに駆け寄り手を伸ばす。
咄嗟にそれを腕で防いでしまい、掴まれてしまった。
「ぐっ……重い!」
掴まれた右腕が急に重くなり、重心がそちらにいく。
続けてもう片方の腕を狙って来たが、それ対しては咄嗟に男の胴体に向けて蹴りを放った。
「うごぉ!」
「危ない……」
蹴りは男の腹部に命中し、彼はその場に倒れ込む。
その隙に僕は後ろに下がり距離を取る。
「ええい……ここまでの負傷を許すとは……」
男は再び治療を開始した。
だが、その瞬間。
アリスさんが「ユニット」と呼んでいた機械が複数、男の両腕に張り付き、腕を拘束する形で円形に合体して拘束具ような形となった。
「これは!?」
振り返ると、後ろからアリスさんとドクナさんが走って来ていた。
「このユニットにはこういう使い方もあるってわけ!」
「これを使う隙をうかがっていたのじゃな」
「助かりました……」
拘束された男は少しもがいたものの、どうしようもないと悟ったのか、すぐに大人しくなった。
あと、その間にドクナさんがさっと僕の腕を治してくれていた。
「私の負けのようですね……」
「さ、このまま施設の方まで来てもらうわよ」
そう言ってからアリスさんは片耳に指を当て、多分インカムでだろうか、誰かと短く通話をした後にこちらに振り返る。
「後のことは私に任せてちょうだい。回収の要請も済ませたから」
「帰っても大丈夫なんです?」
「ええ、何かあれば連絡するわ」
事後処理や、拘束した彼を監視したりなどはアリスさんがやってくれるそうなので、僕とドクナさんは僕の家に一旦帰ることにした。
僕の体はというと、帰路の中で気がついたら元に戻っていた。
もう夕陽が沈みかけている中、僕達は自宅の玄関前にたどり着く。
ドクナさんはもちろん幻術を自身にかけ直していた。
「今日は思わぬ展開になってしまったのぅ」
「ですね。せっかく来てもらったのに」
「しかし、帰還者絡みの問題というのは、こういうケースもあるのか」
「アリスさんがああいった活動をしていることにも驚きでしたね」
彼女は後ろに振り向き、沈む夕陽を眺めて。
「雪理よ、ふと思うのだが」
「何です?」
「妾達の世界とこの世界。どういう繋がりがあるのかとな」
「たしかに、それは僕も興味がある事ですね」
「かの機関が帰還現象の発生の初期に作られていなければ、恐らくこちら秩序は無茶苦茶になっていたであろう……帰還現象とは誰が、何が、引き起こしているのだろうと少し思ったのじゃ」
彼女がもう一度こちらの方を向く。
「すまんな。現状ではわかりようもない、くだらん話に付き合わせて」
「いえ、別に」
「それではの、雪理。今日は残念じゃったが、今度はハルも加えて改めて誘うかもしれぬ。ではな!」
そう言った後、彼女は後ろ手を振りながら夕陽の方へ歩いて行った。
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