第10話 幼馴染と2
「ラスボスカイザー」……それは昔、僕達がまだ小さかった頃に裏牙が考えた悪のロボット。
何だったかよく覚えてないけど当時、配信サイトで無料配信していた昔のロボットアニメに出てきた主人公のライバルのロボットだったかが元だった覚えがある。
当時アイツが描いた下手な絵の面影が、裏牙が手に持っているフィギュアにはたしかにあるように見える。
「わー! カッコイイ!!」
「それどうしたの? 何かの玩具を改造したりとか?」
「フッ……聞いて驚け、こいつはなんと一から制作を依頼した物だ!」
「ええ!? このクオリティだと結構したんじゃない?」
「いい値段はしたでござるが、帝国のシンボルとして相応しい出来だったので、後悔は無かったでござるよ! まあ、裏牙殿にも、もう少しお金を出してもらいたかったでござるが……」
裏牙……まさか、この子にお金出させたのか?
そういえば、資金面担当とか言ってたけど。
「裏牙、もしかして虎白さんに代金払わせたの?」
「俺も少しは出したぞ! 少し……」
「まあまあ、拙も良いと思ったからこその投資でござるよ」
「そう、ゴザルは我が帝国の資金面担当! なにせ、この地域が中央都市に統合される前、 ヨコハマ と呼ばれていた頃から、ここ周辺の大地主だった家の者なのだからな!」
「ええ! そうだったの!?」
「そう大げさに言われると恥ずかしいでござるよ……確かにそうでござるが。それはそれとして、帝国への投資は拙のポケットマネーからでごさるゆえ、ご心配なさらず」
さらっとすごい人と繋がったんだなぁ。
裏牙なんかと活動してて大丈夫かと思うが、話を聞いたところでは節度はわきまえているようだし心配ないのかな……。
「そ、そうだ! もう1人紹介したい者がいるのだ!」
「他にもお友達いるの! だれだれ〜」
あ、露骨に話題をそらし始めたな。
しかし、もう1人って、他にも変人がいるのか……。
「この精巧なラスボスカイザーフィギュアの制作者であり、我が帝国の活動に必要な物資などもろもろを用意してくれる人材! その名も……」
裏牙は脇にあった共用と思われるパソコンに電源を入れて操作をし始める。
数分経ち、そのモニターの画面が真暗になる。
「我が帝国の良き協力者……G(ゴーレム)M(マイスター)!」
そう裏牙が言い放つと同時に画面が切り替わる。
そこに映っていたのは純白の髪のボブヘアで、パーカーを着た少女……のアバターだろう。3Dモデル感がある。
「うーらーがー! また突然の呼び出しか! アタシも暇じゃないんだぞ!」
映るなり裏牙に対してデフォルメの表情で怒りだす少女。
「今回はお前に我が親友であり、しばらく空席であった帝国のナンバー2でもある人物を紹介しようと思ってだな。こうして連絡を取ったのだ」
「は? 依頼ですらないのかよ……切るぞ」
彼女の表情が呆れ顔に変わり、通信を切ろうとしているようだ。
「待て待て! 雪理は我がラスボス帝国における重要な立ち位置なのだ!」
「何度目か忘れたけど、また言っておくがアタシはその設定に付き合うつもりはないからな!」
「投影魔法みたい……ぐっ」
ハルがまたまずい事を喋りそうだったので口を塞いだ。
「だから、そういう事は言わないの」
「はーい」
ハルへ小声で再度注意してる間に通信が切れているかと思えば、まだパソコンの画面には少女の姿があった。
「雪理……いや、待てよ。まさか……なあ、そこの水色髪の人。君がこいつの言う雪理か?」
「え?」
突然、画面の少女からこちらに問いが飛ぶ。
「ええ、そうですけど」
「フルネームは?」
「えっと? 面野 雪理です」
「ああ、やっぱり……いや、こっちの話だ。突然すまなかったな」
「いや、別に大丈夫ですが」
勝手に何かに納得したような様子の彼女。
突然でびっくりしたが、一体何を確かめたのだろうか。
「もう気が済んだだろう……とりあえず依頼が無いならもう切るぞ裏牙」
「ああ、問題ないぞ!」
「それと、虎白さん。大半の依頼料を支払ってくれてるあなたに言うのはアレなんだけどさ、こいつと付き合うのやめたほうがいいと思うぞ」
「拙の出費は自身の責任でござるから心配は無用でござる、マイスター殿!」
「あなたまでその呼び方……GMとは名乗っているけど、そういう読み方みたいなのはないんだけどな……まあいいや。次は依頼の時に呼び出せよ、裏牙!」
パソコンの画面が真っ暗になり、すぐにデスクトップの画面に切り替わった。
そこにハルが飛び込んで来て。
「あー! ボクのこと紹介してくれてない!」
「おっと、すまなかったハル。君の紹介は次だな!」
残念そうにしているハルに裏牙が声をかける。
そのやり取りから、彼がなんかもう帝国に馴染んできてるように感じた。
「マイスター殿はあんな感じでござるが、値は張るものの依頼には忠実に応えてくれて実に良い職人なのでござるよ」
「そうなんですね」
「SNSで依頼を受けているところを見つけてな。試しに依頼してみたら実に良い物を作ってくれたのだ!」
「そこからよく依頼出すようになったのね」
どうやらこの部屋に飾ってある精巧なフィギュアなどの類は全て、あのマイスターと呼ばれていた少女が作った物らしい。
見た目から想像できないような凄い腕だな……と思いかけたが、画面に映っていたのはアバターだったし、実年齢はあの見た目よりきっと高いのだろう……多分。
あれから数時間が経ち、その間に裏牙とは思い出話を語り合い。虎白さんから彼女自身の事を聞いたりした。
話によれば彼女は高校3年生で、護身のための訓練中に事故が起こって1年間休学していたそうで、年齢的には僕と裏牙の1つ下だそうだ。
「……という事もあったな、雪理」
「そうだね。懐かしい」
ふと壁に掛けられた時計を確認すると17時を過ぎていた。
窓の外も暗くなり始めているのが分かる。
「もうこんな時間か。裏牙、今日はもう帰るね」
「もう帰っちゃうの〜?」
「雪理殿、ハル殿、またでござる!」
「ああ、分かった。それと雪理」
「何?」
「その……おばさんとおじさんの事もあるし……お前がどう感じてるかは正確には分からんがな……話を聞くことくらいはできるからな、俺は」
「うん……ありがとう」
母さん……父さん……目覚めて間もないからか、やはりまだ実感というものがないのかもしれない。それでも裏牙の言葉はとても嬉しかった。アイツは、こういう時には真面目なんだよな。
そんな流れで2人に見送られて僕とハルは帰宅することになった。
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