第9話 幼馴染と

 色々あり過ぎた日から1日が経ち、自宅で目を覚ます。

 あの日は慌てていたせいかスマホも置いてきてしまって、帰宅後にチェックしてみると アイツ からの連絡の履歴がいくつかあった。

 悪い事しちゃったなと思いつつも、実際それどころではなかったから仕方ないといえばそうなのだ。

 僕がいなかった件での伯母さんへの説明はアリスさんが上手くしてくれて、早朝の散歩中に急に倒れたところを助けられて病院に行っていた……ということにした。



「アイツにも全て話すわけにはいかないしなぁ」



 そして今日。本来ならあの日に行く予定だったアイツの家……ではなくアジトとやらに行くことになった。

 アイツの実家とは住所が違うし、大学の寮か何かなのかな。



「雪理ちゃん〜お友達が来たわよ〜」



 出掛けようとしたその時、伯母さんの声がした。

 僕を訪ねてなのか、誰か来たらしい。

 まさかアイツからこっちに来たのか!?





 急いで玄関へ向かうと、そこにはTシャツ姿のハルさんがいた。



「雪理さーん! どっか行こうー!」

「ハルさん1人なの?」



 そのラフな格好で明らかに男ではあることは分かるけど、中性的な要素が強くて少しドキっとしそうになった。でも、異世界の種族といえど同性だしなぁ。



「そうだよー。ドク姉……ドクナ様が、少しうるさいから外行ってみようかなって」

「あはは……残念だけど、僕はこれから友達に会いに行く約束があって」

「雪理さんのお友達!? 会ってみたい!」



 尖った耳は隠せてるけど……アイツに合わせると厄介な事になりそうな気がしないでもないけど、普通に当たり障りのない感じで紹介すれば大丈夫かな。

 入院中に知り合ったとか言っておけば問題ないだろう。

 ハルさんがちゃんと合わせてくれればだけど……。



「うーん……まあ、いいか。一緒に行こう」

「やったー! あとね、ボクのことは普通にハルって呼んで! ボクも雪理って呼んでもいい?」

「別に構わないよ」



 そんなこんなで満面の笑顔のハルと共にアイツがいるという場所へ向かうことになった。





 数十分後。

 「中央都市第7駅」近くのビル街の路地に僕とハルはたどり着いた。

 どうやらアジトとやらは、あるビルの一室らしい。

 住所をスマホのナビを頼りに探して歩いていると、やっとそれらしいビルを見つけた。



「えっと……このビルかな」



 外見は比較的新しい感じの2階建てのビルで、1階は古い玩具やジャンク品を取り扱う店のようだ。アイツからの情報だとここの2階らしいので、目に入った外付けの階段を上がることにした。

 階段を上がってドア前までたどり着き、インターホンを鳴らすと室内から呼び出し音が聞こえた。



「はーい」



 続けて室内から誰かの声が聞こえたが、アイツではない女性らしき声だった。

 場所を間違えたかと焦る暇もなく、目の前のドアが開かれる。



「どちら様でござるかー?」

「え?」



 ドアを開けた人物は、僕と同年代くらいの金髪で流し髪のメイド服を着た女性だった。



「ここって ラスボス帝国 のアジトとかいう場所……じゃないですよね?」

「なっ、見知らぬ者が何故それを!? まさか敵に情報が! 裏牙うらが殿、この者が何者か知っているでござるか!」



 彼女はこちらの「ラスボス帝国」という単語を聞いてなのか、慌てた様子で室内にいる誰かに呼びかける。

 聞こえた裏牙という名……やはりここで合っていたのだろう。

 僕の幼馴染のアイツ……正木まさき 裏牙うらががいるなら。



「うるさいぞ、ゴザルよ! 一体何……が……」

「裏牙……」



 部屋の奥から出てきた紫の混じるボサボサの長い黒髪で黒いロングコートを着た男。それがまさしくアイツ……裏牙だ。



「お、お前なのか……雪理」

「昨日はごめん……色々あってさ」



 そのまま裏牙が僕を抱きしめた。



「ちょっと何!?」

「本当に心配し……いや、よく戻って来た我が片腕よ!」



 そういえば、色々あり過ぎて僕は、2年前のあの飛行機事故で奇跡の生還を果たして、最近になって目覚めたばっかりであった事を忘れていた。

 あの時一緒にいた両親がもういないことも……。

 それらを踏まえれば、裏牙がこの様子なのも頷ける。自分自身としてはまだ実感があまりないけど……。

 本人は隠そうとしているようだが、相当僕のことを心配してくれていたようだ。


「体は大丈夫なのか、雪理」

「うん。特に問題は無いよ」



 全身が水晶で覆われた姿になったなんてとても言えない。



「暑苦しいからそろそろ離して……」

「おっと、すまない」



 裏牙が僕から腕を離す。



「その反応……そして裏牙殿が片腕と言っていたところをみると、まさかあなたが伝説のナンバー2! 雪理殿でござるか!」

「は、はぁ……その設定はともかく、僕がその雪理です」

「なんと! 出会えて光栄でござるよ。せつは 虎白こはく 隼花はやか と申す者。少し前にこのラスボス帝国に所属させてもらいましたでござる」

「あ、はい……面野 雪理です。よろしく?」



 芝居がかった話し方の彼女は「ラスボス帝国」……裏牙が率いる自称、悪の組織の一員ってことらしい。

 正直このネーミングはどうなんだと昔から思っている。

 それにしても、ごっこ遊びなどをしていたような昔から適当に付き合ってきた設定だったけど、僕以外に乗っかる人がいるなんて……。



「この設定に付き合うって……まさか裏牙、お前の彼女?」

「「いやいや!」」



 そういう関係なのかと思ったら、本気のトーンで同時に否定された。



「ゴザルはあくまでも我が帝国の戦闘員兼、資金面担当だ! そういう関係でない!」

「裏牙殿とは大学のオープンキャンパスで知り合ったのでござるが、どういうわけか同志として意気投合……それから活動に参加させてもらっているんでござるよ!」

「へ、へぇ……」



 変人同士の同調……それを言ったら、ずっと設定に付き合ってた僕も変人か。



「いやーしかし、あの時は酷く落ち込んだ様子だった裏牙殿に大丈夫かと話しかけたら、いきなり濃厚な設定をぶつけて来て、それはそれは驚いたでござるよ。それに熱いものを感じて拙の同志だと思ったんでござるけど」

「待て、それを言うな……と思ったが、あの時は何であんなにダウンしてたんだったかな……まあ、それはいいとして!」



 裏牙が両腕を広げてカッコつけたようなポーズを取り始める。



「雪理よ! よく戻って来た。お前のポジション、ラスボス帝国のナンバー2は空席だったぞ! 復帰を祝おうではないか!」

「う、うん……ありがとう」

「欠けていたピースがハマったでござるな!」



 拍手をする虎白さんにあれこれポーズを決めながら高笑いする裏牙。

 この光景……とても懐かしく感じるな。

 前は僕と裏牙の2人だけだったけど。



「雪理〜お友達紹介してー!」



 後ろから突然声がしたかと思えばハルだった。



「下のお店、面白い物いっぱいあった!」



 いないなと思ったら下の店に行っていたようだ。



「雪理殿、その方は!?」

「ええと、入院中に知り合ったハル・エアトさん。どうしてもついて行きたいって言うんで」

「か、かわいいでござる! 雪理殿も中性的でいい感じござるが、ハル殿はよりかわいさが強く、男のというか、褐色感からダークエルフのコスが似合いそうというか……とにかく良きでござるなぁ!」



 虎白さんが目を輝かせてハルを見つめる。

 あと、さらっと僕もそういう目で見てるって言わなかった!?

 確かに自分でもそう思うことがある容姿という自覚はあるけど……。



「わー! エルフってよくわか……むぐっ」



 エルフという単語に反応しそうになったハルの口を咄嗟に塞ぐ。

 さすが裏牙と通じ合うだけあって、その手の勘というか感覚は鋭いのか。



「ご、ごめん雪理」

「気をつけてね」



 小声でハルが謝り、僕も同じく小声で彼に優しめに軽く注意を入れた。



「ふむ、その元気さ……気に入った! お前も我が帝国に入らないか!」

「わー! なになに! 面白そうー!」

「はぁ……」



 ハルの様子を見て気に入ったのか、裏牙が彼に自分の設定に付き合わせようとし始めた。ハルの方も面白がって快諾したみたいで、ラスボス帝国の戦闘員としてすんなりとその一員になったようだ。

 くれぐれも正体は隠すようにしっかり言っておかないとな……。





 十数分後。

 あの後、隼花さんの物と思われるコスプレ用の衣装やグッズらしき物や、乱雑に置かれた漫画などが散乱する部屋の奥に僕達は入らせてもらった。

 そして、そこから唐突に始まった裏牙の設定語りが、ようやく終わろうとしていた。



「……ゆえに我らがラスボス帝国は世界征服を目指すのだ!」

「そういえば、そんな設定だったか……」

「なんかカッコイイかも!」

「そうでござろう! ダサさも含めた王道的な悪役像というのはロマンに溢れているでござる」



 そして、裏牙が離れた所にある棚から何かを取ってきた。



「ククク……そして、これが我が帝国の最終兵器、ラスボスカイザーだ!」

「え、それは……」



 その手にあったのは、スーパーな感じのロボットのフィギュアだかプラモデルのような物だった。

 カラーリング的には、黒と紫を主体とした昔のそういった作品でよくあるような悪役っぽい感じである。

 そして、その見た目と「ラスボスカイザー」という名前に僕は覚えがあった。

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