第8話 暗躍
雪理達が部屋を出てからしばらく経った後。
Dr.ウァイパーの研究室。
この部屋の主であるDr.ウァイパーは、自身のデスクでモニター上のデータを見ながら思考を巡らせていた。
「失礼しますよ、ドクター」
扉が開き、仮面を目元に着けた七三分けの赤いスーツ姿の男が入室する。
それに気づき、ウァイパーはモニターから目を離してその方向に視線を向けた。
「オデオカ君か」
オデオカと呼ばれたその男は静かにウァイパーの近くへと寄り、その目元に着けた古びた仮面の位置をそっと直す。
「よかったのですか? 異世界の住人2人は、地下居住区に住むことになったとはいえ、拘束もせずに監視だけとは」
「糸崎との戦闘の記録だけでは、あれらの持つ力を見極めることは難しいからな。慎重な策を取ったまでだ」
ウァイパーはその巨体を椅子に寄りかからせて腕を組み、少し思考した後に口を開いた。
「それと面野 雪理……あの場で戦闘時の再現はできなかったのか、隠したのか……今の我々が用いる観測手段では何も分からない以上、こちらも監視する他ないだろう」
「彼の経歴には怪しい点はあるようですが、あちら側に行っていたという記憶も無さそうとのことで……いやはや本当に謎が深まるばかり」
「2年前の飛行機事故の唯一の生存者であり、そればかりか無傷で発見……気を失っていて、長らく目も覚まさなかったために入院はしていたようだが」
「そして、丁度退院した日の翌日にあちら側の住人と出会うと……実に濃厚な出来事の寄せ集めと言いますか何というか」
彼はウァイパー前の机上からタブレット端末を手に取り、数回操作をした後。その画面に雪理に関してのデータを表示させる。
「なるほど……なんにせよ、監視を続けていけば何かつかめるかもしれませんね。こちらの分野にも役立つ何かがあれば嬉しいところです」
「あの世界……
「未来を救う夢のエネルギー源、紋魔世界! そして、それを扱う紋魔技術研究者たるこのクレス・オデオカ。紋魔世界に関わる事であればいつでもご協力します……それにドクター、あなたの例の計画にもこの技術は不可欠ですからね」
「それは事実だが、まだあの青年と関わっていると決まったわけではなかろうに」
そう言いながら彼は、身振り手振りの後に深く大げさにお辞儀を一度した。
それを見て呆れた様子のウァイパーを尻目に、端末を元の場所に戻した彼はゆっくりと退室していく。
「それではドクター。私は監視関係の調整をしてまいりますので、この辺で失礼させてもらいます」
「貴様、くれぐれも余計な真似はするなよ……」
ウァイパーの言葉には特に反応することなく、オデオカは研究室前で再び一礼をして去っていった。
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