第7話 帰還者と異世界人
彼女……アリスさんの後を付いて行くこと数分。
施設の通路はとても静かで、ここまで誰ともすれ違っていない。
対面の通路から他の職員に案内されているジャドクナさん達が見えた。
「ジャドクナさん! ハルさん!」
「おお、雪理か! 無事だったようだな」
「雪理さーん! 無事でよかったー!」
ハルさんが勢いよく抱き着いてきた。
相変わらず距離が……近い。
ジャドクナさんの方は肌や足を見ると、どうやら幻術は使っていないようだ。
「2人にもこれからのことは話してあるわ。そんでもって、ここからは私が全員を案内させてもらうわね」
「はーい!」
「ふむ、先程聞き取りに来た者か」
この反応だと、2人もどうやらアリスさんと面識はあるらしい。
などと少し思っている間に2人を案内した職員が、静かに僕達が来た道の方へと去っていった。
「それじゃあ早速だけど、あなた達に会いたいって人のところに案内するわね」
道中ではさっきと変わらず僕達以外に誰もいなかったが、ハルさんの元気な声が響き渡り、明るいような、うるさいような……。
一方でジャドクナさんは興味深そうに辺りを見回しながら移動していた。
そして、しばらく通路や階段を抜けた先の扉の前でアリスさんの足が止まる。
「さて、着いたわ」
アリスさんが一歩踏み出すと、目の前の扉が開く。
「おお、君達が」
声の主は開いた扉の先……部屋の中央でどっしりと座る中年か初老くらいに見えるスキンヘッドの大柄な男だった。
部屋の中は複数のモニターと機械類が部屋を覆いつくすように配置されていた。
「こちらの方がリターナーの創設にも関わり、現在は帰還現象研究の第一人者であるDr.ウァイパーよ」
「この度は我が機関の問題に君達を巻き込んでしまって本当に申し訳ない。被害を拡大させずに糸崎を止めることができたのは君達のおかげだ、ありがとう」
ドクターと呼ばれた男が椅子から立ち上がると、ゆっくりとこちらに歩み寄り片手を差し出す。
一番距離が近かった僕が咄嗟にそれに対して反応し、握手を交わした。
近づいて来た時は威圧感を感じたが、目の前でその顔を見ると思ったより穏やかな顔つきをしている。
「ど、どうも……僕よりも2人の力あってのことでしたが」
「雪理君だったか。君の力も気になるところだが、まずは異世界から来たという2人だ」
彼の視線が後ろのジャドクナさん達2人に向けられる。
「この世界からあちら側……君達からの情報と照らし合わせて恐らくは、こちらの2人が元いた世界に神隠し的に転移したり、死亡後に記憶を持ったまま転生するなどした人々がこちら側に戻って来るという現象は今まで観測してきたが、こちらが把握している範囲で純粋なあちら側の住人がやって来るのは今回が初めてでな」
「そうか……帰還現象とやらの事は聞いていたが、そっちのパターンでは妾達が初だったとは」
たしかに、わざわざ帰還現象なんて呼ばれてるくらいにあっちの世界の住人がやって来てないということなのか。
そんなレアケースに遭遇してしまった僕は運が良いんだか悪いんだか……。
2人との出会いは良いものだと思いたいけれど。
「そういった事も踏まえて君たちの今後についてなのだが。転生などで体が人からかけ離れてしまっていたり、事情により外に出れないような者はこの施設の地下居住区で暮らしてもらっていてね。君達もそこに住むことを提案したいのだがどうだろうか」
「幻術でどうにかはできるが、素の姿で活動できたほうがたしかに良いか」
「地下? どんなとこなの~」
「地下居住区はそこだけで一定レベル以上の生活ができるように設計されていて、普通に単体で完結している1つの都市と言っても過言ではないわ。正直、私も住んでみたいくらいにはすごいとこよ」
興味津々のハルさんにアリスさんが説明をした。
この施設、どれだけ広いんだろう。
「ドクナ様! ボク、その居住区ってとこに住みたいな!」
「そうじゃな……雪理以外に宛もない上、その家に住むのも迷惑がかかりそうであったし、ひとまずはそこで世話になることにしよう」
僕の家で暮らすとしたら色々問題がありそうだったし、安全に暮らせそうな場所が見つかって良かった……のかな。
「ところで……僕は家に帰れるんでしょうか? 自分でもあの時使った力が何なのか分からなくて……体を調べた時に何か分かってないですかね」
ジャドクナさん達の暮らす場所の問題はひとまずは解決したけど、僕の力が何なのかはまだ何も分かっていない。
異世界帰りの帰還者って人達を多く抱えてるこの機関の施設なら何か掴めていないか気になる。
「それについてだが……一通りの検査を行ってみたのだが、君の体はいたって普通の人間の体だった」
「えっ!?」
明らかに人ではない何かになっていたはずなのに何も異常が無い?
一体どうなっているんだ。
「身体に変化が現れた時のみ何かあるのか……外部からの干渉か……この施設の設備では分からない何かなのか……などと、そういった可能性はいくつか考えられるが、現状では何も分からないということだ」
「そうですか……」
彼の言葉を聞き、少し不安が増してしまった。
本当に得体のしれない力なんじゃないかと……。
「そうだ雪理君。あの時にやったみたいに今、姿を変えることはできるかね?」
「ああ、そういえば目が覚めてから試していませんでした。やってみます」
僕以外の全員が僕から少し距離を取ったのを確認してから、一度深呼吸をする。
そして、全身に力を入れ、頭にあの時変化したイメージを思い浮かべてみた。
「ふんっ……!」
しかし、体には何も変化を感じなかった。
「何も……変わらない?」
あの時は死なないために必死だった。
もしかするとそういう場面でしか発動しないとか?
「どうやら再現はできないようだね」
「はい……」
「では君はこの後、自宅のほうに送り届けよう。ご家族も心配しているだろう」
伯母さんには何て伝えようか……本当に色々あり過ぎたな。
部屋を出てから十数分後。
しばらくアリスさんがジャドクナさん達に居住区の説明をして……。
「事前の注意事項はこんなところかしら」
「よし、よく分かった。ハル、お前もしっかり覚えただろうな」
「大体分かりましたー!」
「大丈夫かのぅ……」
ちゃんと分かってなさそうなハルさんを見て、ジャドクナさんが心配そうな顔をしていた。その様子を見て、少し笑ってしまいそうになる。
「それではな、雪理。こちらに遊びに来るのもよいし、許可を取って、こちらから出向くこともあろう」
「はい」
「ハルの奴もお主を気に入っとるようだし、妾としてもお主はあの死闘を共に戦った仲間じゃ。それは忘れんでくれ」
「そうですね。また会いましょう」
「ボクもまた会うのが楽しみだよー!」
さっきのアリスさんの説明では、この施設は僕の家からそう離れていない場所にあるらしい。
これからどうするかべきかはまだ分からないけど、きっかけはどうあれ良い友人ができたのはきっと良い事だと思う。
「それじゃあ、外までは私が案内するわ。面野さん」
「お願いします」
2人と別れ、アリスさんに外に案内してもらっている中でふと思い出す。
そういえば、今日は何か用事があったような……。
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