第32話 決闘のその後
俺は無言で、マインの死体を抱きかかえたまま、残りのパーティメンバーを探した。
「シリウスくうううん!!! マインさああああん!!!」
あれは……ライムか……
するとライムは俺に気付いたようで、急いで泳いでくる。
「シリウスくん!!! マインさ……!!!」
ライムは俺が抱きかかえている、屍となったマインをみて、絶望した。
「マイン……さんなの……」
ライムは膝から崩れ落ちる。
「マインだ……」
俺は口からその言葉を何とか絞り出した。
「そんな……!!! 噓でしょ!!! 嘘だといってよぉぉ!!!」
ライムはそのまま泣き崩れてしまった。
ごめんな……ライム……俺は一番近くにいたのに彼女を救えなかった!!! クソッ!!!クソッ!! 俺はなんて無力なんだ!! 本当にごめんな。
俺はさっきまで抑えていた涙が溢れてくる。
「わたし……マインさんの助けになる事が出来なかった……あの人は必死に戦っていたのに……わたしは……!!! わたしは……!!!」
「うわあああああん!!!」
ライムは顔を覆って泣き崩れた。
「ライム……」
そこへ、はぐれていたエミリアとソフィアも合流する。
「シリウス!!! ライム!!! マイン……」
エミリアはマインに気付くと、すぐに息絶えた事に気付いた。
「エミリア……ごめん……!」
「……」
涙ながらに謝る俺に、エミリアは何も言わなかった。
本当は相当辛いはずなのに、毅然とした態度だった。
エミリアは海底に横たわるマインを抱きかかえた。
「みんな、感傷に浸ってる暇はないよ。ウォーターガムの効果がもうすぐ切れる。早くここから出よう!」
俺達は涙を拭うと、エミリアの指示通り海上をめざした。
マインも一緒にな。
こうして俺達はリバイアサン討伐の任務を果たすことが出来たが、一人の尊い犠牲を出してしまった。
この日、俺とライムは一晩中泣いていたため、四番隊の団員達には、エミリア直々に事の詳細について説明してくれた。
そして、マインが亡くなって、一週間がたった。
俺とライムは、マインの墓参りに来ていた。
「マイン……お前の託した思い、受け取ったぜ」
「マインさん……安らかに眠って下さい」
俺達は彼女の墓の前で手を合した。
「それじゃあ、行こうか!」
「はい」
ライムは俺に対しても相変わらず敬語だったが、俺は最近のコイツに何か違和感を感じていた。
「あのさ、ライム……」
「どうしました?」
「何か、無理してないか……?」
「……!」
マインが亡くなってから、ライムはやたら笑う様になったり、他の団員によくコミュニケーションを取ろうとしていたり、なんか生前のマインの様だった。
「わかってたんですね……」
図星だったようだ。
「もともと、お前は人見知りでおとなしい奴だ。なんか、マインの事意識して、無理に気丈に振舞ってんのかな……てさ」
すると、ライムは静かに話し始めた。
「マインさんは、決行の前日にわたしに言いました」
「『もしわたしが死んだら、四番隊を頼んだよ』って、だからわたしはマインさんの様にならなくちゃいけないんです」
「わたしはマインさんの意思を継ぎたいのです」
なるほどな、だからコイツはそんな無理をしてたんだな。
マインが言っていたとおりだ。
まったく、頭の固い奴だよな……
俺はライムの目の前に近づくと、軽くデコピンした。
「痛いですよぉ! 何するんですかぁ!」
ライムはでこを抑えて、半べそをかいている。
「馬鹿だなぁ、お前は……」
「え?」
俺は笑顔で冗談交じりに小ばかにした。
「マインが俺達に託した思いに、『無理をしろ』なんて、ものがあったか?」
「自分の性格や気持ちを押し殺して、無理に気丈に振舞う奴が、マインの臨んだ四番隊の隊長なのか?」
俺は、ライムに背中を向けると、諭すようにライムに語り掛ける。
「別に、マインを失って辛いのはお前だけじゃないんだぜ」
「俺も辛いよ。だってあの人は……」
俺の母さんだから!……と言いそうになったが、俺はあえて言わなかった。
だって、今のこの世界で、マインをずっと支えてきて、一緒にいたのは、俺ではなくライムだ! 俺がそれを言ったら、ライムの側近としての気持ちを踏みにじってしまう。
そうだろ。
「俺が無理をして討伐に参加した時も、俺の事をフォローする為に、自分から共闘を名乗り出てくれたり、決行までずっと俺に冒険者としてのノウハウを丁寧に教えてくれた。自分の仕事もあるはずなのにな」
そうだ、これは嘘ではねぇ。
俺は冗談抜きであの人に感謝している。
「俺だけじゃない。エミリアやオリビア、ソフィア達隊長たち、他の団員達、みんな悲しんでる」
「特にオリビアなんて、『マインが死んだのは自分が行かなかったからだ』って毎日マインの墓参りに行ってるんだぜ。お供え持ってな」
「だから、決してお前だけの悲しみじゃないんだ」
「……!!」
ライムは大きく目を見開いていた。
俺はそんなライムの目の前に立つと、ライムの頭を撫でた。
「だからさ、一人で抱え込むなよ」
「抱える事は、一人だけでするもんじゃない、自分以外の誰かとするもんだ!」
「だから、みんなを頼れ! ライム!」
俺の一言にライムは、自身が今までため込んできた涙が溢れだした。
「エミリアやオリビア、他の隊長達、お前には沢山の仲間がいる」
「もし、それが無理なら、俺を頼れ。一緒に背負ってやっから」
俺は最後は満面の笑顔で、そう言った。
「うん……! うん……!! ありがとう!!!」
俺の一言にライムは泣き崩れた。
「ハハハッ!! やっぱり泣き虫な奴だな!! お前!!」
「それじゃあ、そろそろ行くぞ! 夜には集会だ!」
「はい!」
俺達は歩き出す。
マインに託された未来へ向かって。
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