第8話 諦めない
「ここで諦めたら、守られてばかりの前の人生と何も変われねぇじゃねぇかよ」
「これはな、神様が俺に与えた最後のチャンスだ!! 今度は俺が”友達”を守る番だ!!!」
「ブロンズ!!! テメェが何でこんなクソ見てぇな事してんのか知れねぇけど、俺達はテメェの玩具じゃねぇ!!! だから、俺が勝ったらユラを解放してもらうぜ!!!」
「その為には、俺は死ぬまで勝ちに行くぜ!!! 絶対に諦めねぇぞ!!!」
それを聞いたブロンズはカッと目を見開き、首を横に曲げながら殺気の満ちた表情で俺を睨みつけた。
「そんなに死にてぇか、良いぜぇ」
「殺してやる……」
顔を見ればわかる。
コイツ、本当に殺す気だ。
だが俺にも意地がある。
負けられねぇ理由がある限り、今度こそ俺は逃げねぇ!!
「奴隷に対してムキになりすぎだ」
「ねぇねぇ、この試合わたし達も混ぜてよ!」
なんだ? 誰だ?
そこに現れたのは、先頭にオレンジ色のポニーテール、釣り目で水色の瞳の三メートル近い大柄な女性と、その後ろからピョコッと顔を出したのが、ショートボブの金髪に、たれ目で綺麗な黄緑色の瞳、背は先ほどのポニーテールの女性の半分くらいの少女だった。
二人を見た観客やその場にいた関係者たちは、さっきまでヤジを飛ばしまくっていたのが噓のように、顔が青ざめ、逃げだす者もいた。
「こ、この人たちは! エリート冒険者たちが多く集うグローリー冒険団、総帥エミリア・オズワルドと副将オリビア・ガープベルトっす!!」
ユラがそう叫んだ。
お前、コイツらの事知ってんのか?
てゆうか、怪我大丈夫なのか!?
「エミリア、どうする? 獲物が逃げるぞ」
オリビアと思われる大柄な方の女性がエミリアと呼ばれる少女に声を掛ける。
「会場の周りに結界を貼っておいたから、逃げられる事は無いよ」
エミリアはそう言うと、俺たちの方に近づいてきた。
「君、モンスターだよね? 名前は?」
エミリアの圧は凄くて、近づかれただけで俺は尻もちをついてしまう。
「シリウス……」
俺が答えると、エミリアは笑顔で言った。
「へぇ~良い名前だね」
「わたしはエミリア! よろしくね!」
俺がキョトンとしていると、興奮した様子のユラが話を遮ってきた。
「この人の名前を知らないんすか!? 平民生まれにして、冒険者として数々の功績を上げ、多くのS級冒険者たちとも渡り合った!! グロリア冒険団総帥エミリア・オズワルドっすよ!!!」
「僕はグロリア冒険団の大ファンっす!!! 会えて感激っす!!!」
ああ、そういえばアイツ、昨日にある冒険団のファンとか言ってたな。
その冒険団のトップがコイツらなのか?
この小娘が?
「そんなに大した事はしてないよ」
エミリアは照れ笑いをする。
「おい!!! テメェら!!! 試合ぶち壊しといて、何ベラベラ喋ってんだよ!!! 舐めてんのか!!!」
ブロンズが激昂して叫ぶ。
「あ、そうだ! 忘れてたよぉ」
エミリアは思い出したようにポンッと手を叩くと、ブロンズに詰め寄った。
「君がこれの主犯?」
「あ、ああそうだよ!!! それがどうした!!!?」
逆切れにも等しいブロンズの答えを聞いたエミリアは、軽くうなずいている。
そして、次の瞬間!
≪ドガッ≫
一瞬だった。
エミリアは飛び上がると、ブロンズの顔面を蹴り飛ばした。
そして、完全に失神し仰向けに倒れたブロンズの胸に飛び乗った。
「モンスター同士を営利目的で闘わせる事は禁止されてるよぉぉ。わかんなかったのかなぁぁ?」
そう言ってブロンズの胸倉を掴むと、笑顔で顔面を殴り続けた。
俺たち周囲の誰もがこの光景に唖然とした。
だってさ、あんなに強かったブロンズが、身長の半分にも満たない小娘に一方的にボコボコにされているんだぜ。
信じられなすぎて、言葉が出ねぇよ。
エミリアはボコボコになっているブロンズの顔面を踏み台にして着地すると、オリビアの方を向いた。
「オリちゃん、そっちはどう?」
エミリアがオリビアに尋ねたころには、すべての関係者が昨日に見たバインドで捕縛されていた。
「こっちは片付いた! エミリア!」
昨日のも凄かったが、オリビアのバインドは群を抜いていた。
こんな大人数をたった一人で捕まえたんだからな。
さすが副将と言うだけある。
「さっき、エミリアが言ったが、MFGは国の法律で禁止されている。今から収容所まで来てもらうぞ」
オリビアがそう言って合図を送ると、次々と青いローブを被った団員と思われる面々が闘技場内へ入って来て、捕縛された者たちを連行していく。
「こいつらは団員なのか? MFGって何の事だ?」
「MFGとは、『モンスターファイティングギャンブル』の略っす。意味は名前の通り、モンスター同士の闘いをギャンブルの対象にして利益を得る商法っす。これは基本的に、世界中の国でモンスターの虐待に当たる違法行為として見なされているっす」
ユラが淡々と説明しているが、俺はそんなユラを見て驚いた。
「ユラ!! お前、怪我は!!?」
「え? もう再生したっすよ」
えぇぇぇ!!! 再生って、あんなグチャグチャの状態から!? 冗談よせよ!! 俺がお前を助ける為に何発殴られたと思ってんだよ!! まだ体が痛ぇんだぞ!!!
「でも、僕も完全に不死身ではないっす。体の中央に核があって、それを壊されたら死んでしまうっす」
「だから、あの時シリウスが来てくれなかったら、ヤバかったっす。ありがとうっす!!」
俺の心情を察したのか、ユラは俺をフォローする。
そこへエミリアとオリビアが近づいてきた。
「そのスライムの言うとおりだ。お前の勇気ある行動がなかったら、核を潰されてしんでいた」
オリビアが片手を脇腹に当て、そう言った。
「君が彼らの意識を向けてくれたから、わたし達が闘技場に突入する隙が出来たの。お陰でスムーズに彼らを捕縛出来たんだ。ありがとう」
エミリアは胸に両手を当て、笑顔で感謝を述べた。
「俺はただダチを助けたかっただけだ。大した事はしてねぇよ」
そうだ、俺はこの異世界で出来た、たった一体の友達を守ろうとしただけだ。
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