第7話 vsブロンズ

「おりゃぁぁぁぁ!!!」


 ゴブリンは容赦なく殴り続ける。

ユラの体がぐちゃぐちゃになりかけたその時


<ドゴッ!!!>


 俺は、気付いたらゴブリンを蹴り飛ばしていた。


「セコンドが何やってんだ!!! 試合を放棄させるつもりか!!!?」


 仕切りの男が怒号を上げる。

しかし、俺は怯まずに男を睨みつける。

すると、瀕死状態のユラが俺に声を掛ける。


「その……男の……言う……とおりっす。僕……は……まだ闘え……るっす。だから……止め……ないで……ほしいっす」


「ユラ、もういいんだ。後は俺が何とかする」


「俺に案がある」


 俺はそう言うと歩き出す。

そう、ブロンズの特等席の方へ。

生憎にも、ブロンズはそこで堂々と座っていた。

足を組み,タバコを吸いながら、コイツらの闘いを眺めていた。

俺はそのブロンズの目の前に立って言った。


「ブロンズ、頼みがある」


 ブロンズは太い眉をピクリと動かすと、席から立ち上がる。

ユラは心配そうに俺を見つめていた。


「何だ? まさか試合を中止しろとかほざくんじゃねぇだろうな?」


「そんなんじゃない!」


 俺がそう言うと、ブロンズは鬼気迫る表情で怒鳴りだした。


「それじゃあ何のつもりだ!! 試合を中断しやがって!! 早く要件を言いやがれ!!!」


 俺は深く深呼吸すると、


「ブロンズ俺と決闘してくれ!! そして俺が勝ったら……ユラを開放しろ!!!」


 さっきまでヤジを飛ばしていた観客たちが、衝撃のあまり一瞬で静まり返る。


「嘘だろ、あのブロンズとタイマンだと?」


「コイツ頭やべぇんじゃねぇの?」


「大体コイツ昨日ワンパンされた奴じゃん」


 所々でそんな声が聞こえてきたが、そんなものは気にならなかった。

俺は鋭い目線でブロンズを見つめていた。


「良いだろう」


 ブロンズはそう言うと、特等席のある二階から飛び降り、俺の目の前に立った。


「近くで見ると、他の人間とは比べ物にならねぇぐらいデケェな」


 コイツ本当に人間だよな、どう見ても三メートル以上はあるぞ。


「気を……付けるっす。ブロンズは……元A級の冒険者っす。昨日の……トロールよりも……断然強いっすよ」


 ユラが注意を促す。

マジかよ、トロールより強えのか。

どうやって勝つんだこれ。


「お前、名前は?」


 ブロンズがそう尋ねてきた。

そういえば、転生してから名乗って無かったな。


「俺の名前は……」


 そう言いかけた時、何かがおかしいと感じた。


「あれ、俺の名前何だったっけ?」


 なんと、自分の名前を忘れてしまっていたのだ。

前世の記憶はあるのにどうしてだ?


「お前、自分の名前も分かんねぇのか!! マジでお笑いだぜ!! そりゃそうだな、お前は無名のモンスターだもんな!!」


 ブロンズは軽蔑するようにほざいている。

コイツらの中でも俺は知られた生き物じゃないのか。


「取り敢えず、今はシリウスと呼んでくれ」


 シリウスは俺が好きだった星だからな。

ブロンズがフンッと言うと、戦闘態勢に構える。


「テメェ、行くぞ!!」


 そう言った瞬間! ブロンズの強烈なストレート気味のボディが俺の土手っ腹を直撃する


「カハッ!!」


 なんて威力だ、息が出来ねぇ。

これが元A級冒険者のパワーか。

明らかに力が違うし、今の攻撃だけでも倒れそうになる。


「オラァ!!!」


 ブロンズはさらに強烈な右フックをぶち込むと、俺の頭が下がった所に左のアッパーを浴びせる。

観客たちも一斉にヤジを飛ばす。


「ぶっ殺せ!!! ブロンズさん!!!」


「昨日みたいにボコられてんじゃねぇぞデカブツ!!!」


「殺せ殺せ!!!」


 観客からは殺せコールが上がる。

それに応える様に、ブロンズは次々と強烈な攻撃を浴びせてくる。

俺は意識朦朧としながらもブロンズに右のパンチを放つが、軽く避けられてしまう。


「デケェ割にはショボい攻撃だな。まぁ俺は元A級の冒険者だからな。テメェの攻撃なんざ、当たっても有効打にすらならねぇよ」


 次にブロンズは手に電撃を宿すと、それを弾丸の様に発射してきた


「ぎゃあああ!!!」


 体が痺れる、痛い、苦しい、だがな……俺は倒れる訳には……いかねぇんだよ!! 守られてばかりじゃダメだ。

今度は俺が守るんだ!! 死んだ”彼女”みたいになぁ!!!


「ハァ、ハァ!! コイツ!!! まだ倒れねぇのか!!!? もう限界を超えているはずだろうが!!!」


 流石のブロンズも息を切らしてきた。

それもそのはず、俺の顔は腫れあがり、鼻血がダラダラと垂れていた。


「もう引いてくれっす!!! シリウス!!! もう十分っすよ!!! 本当に死んでしまうっすよ!!!?」


 ユラがそう叫ぶが、俺は諦めるつもりはねぇ!!

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