第6話 未来視、そして決闘

「そうだ! アンタにセコンドをお願いするっす」


「セコンド? 俺の時はついてなかったけど?」


 そう、俺の時は誰もついていなかった。


「セコンドをつけるかは自由みたいっす。しかも、リーダーのブロンズに頼めば、特例ではあるっすけど、セコンドに代理で闘ってもらう事も出来るみたいっす」


 マジかよ、めちゃくちゃな団体だな。

ルールどうなってんだ? だけど、これは今の俺にとっては、願ったり叶ったりだ。

俺はコイツを巻き込んだ。

コイツを闘わす訳にはいかない。

それでデカい怪我でもしたら、俺は罪悪感で自分で自分を許せなくなる。


「でも、アンタが闘う必要は無いっすよ。試合をするのは僕っす」


 ユラは俺の考えている事を察していたみたいだ。


「アンタには指示と、僕に何かあった時の為の応急処置をしてもらえればいいっすから」


 ちょっと待て、俺は格闘技経験者じゃないから、セコンドなんてやった事ないし、精神はまだ十五歳のガキだ。

怪我の手当の仕方なんて、分かんねぇよ。

ましてやスライムだぞ。

でも、ここまで来た以上、やるしかねぇ。


「わかった。よろしく頼む」


「よし! まずは明日に備えて体を休めるっすよ!」


 次の日、決闘の日がやってきた。

場内のアナウンスに合わせて、俺達は入場する。周囲の客席には昨日の様な野次馬たちが多く観戦していた。


「おい、コイツ昨日ワンパンでのされた奴じゃねぇか?」


「前を歩いているのは、今日試合するスライムだな。序盤の雑魚モンスターだな」


「コイツ、俺らでも勝てそうだな」


 イラつくぜ。

どいつもこいつも好き放題言いやがって。

確かに弱いのは認める。

この俺が捕まえられた奴だ。

だが、俺のどうしようも無い罪を許してくれた器のデカさがある。

そんな彼を侮辱されるのは許せない。


「僕は大丈夫っすよ。絶対負けないっすから」


 ユラの表情は覚悟に満ちていた。

しかし、かすかに震えているのを俺は見抜いていた。

そりゃ怖いよな。

俺だったらマジで息が出来なくなる。

俺はユラの小さな背中をポンッと軽く叩いた。

すると次の瞬間!


「何だ……意識が」


 突然意識が飛んで、見えてきたのは凄惨な光景だった。

ぐちゃぐちゃにされ明らかに死んでいるユラ。

ユラの名前を近くで叫びながら泣きじゃくる俺。

そして、そんな俺達に目もくれず、勝利の雄たけびを上げるゴブリン。

観客は流石にどよめいていた。


「何だよ? 今の光景……」


 見たことのない光景だ。

冷汗がすげぇ。

もしかして今のはこれから起こることか?

もしそうだとしたら、ユラは……死ぬのか?


「どうしたんすか? 怖い顔して」


「え? いや、何でもない」


 まさか、いくらなんでもこれは試合だ。

流石に死ぬまで闘わせるなんて無いはずだ。

そうだとしたら大問題だぞ。

そして、場内アナウンスが流れる。


「これよりぃぃぃ!! 第四試合を行うぅぅぅ!! 選手たちは前にぃぃぃ!!!」


 仕切りがそう叫ぶ。

いよいよだ。


「ユラ、無事を祈る」


「何言ってんすか。死ぬわけ無いっすよ。試合なんすから」


 ユラはそう言うと、相手と対峙した。

そして、コングが鳴った。


「おりゃぁぁぁ!!! しねぇぇぇ!!!」


 コング開始と同時に突進するゴブリン。

一気に接近する。

それをユラは右にかわすと、背後を見せたゴブリンに渾身の体当たりをヒットさせる。


「なかなかやるな、アイツ」


 昨日ワンパンされた俺とは正反対なぐらいのスタートだ。

その後も素早い動きと攻撃で相手を翻弄する。

スライムとは? と思わせるくらいの闘いだった。

完全に主導権を握っている。


「何なんだコイツ! スライムの癖にちょこまかと動きまくりやがって!」


 本来格上のはずのゴブリンが、スライムに押されているという珍しい光景に観客席は大盛り上がり。


「頼む。このまま押し切ってくれ」


 しかし、戦況はすぐに覆る。

ゴブリンがユラの攻撃を見切り始めた。

また、長く動き続けた為にスタミナが切れ始めた。


「もう、テメェの攻撃パターンなんてわかってんだよ!」


 そして、ゴブリンの攻撃がユラにクリーンヒット! 吹き飛ばされたユラは壁に叩きつけられる。

そのまま畳みかける様にゴブリンが接近しパンチを連打。

まるでサンドバックの様にタコ殴りにされるユラ。

ユラの体はぐちゃぐちゃに崩れていた。

まずい、このままだとユラの命が……

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