第5話 ワンパン

 闘い方、どうするんだっけ? とにかくコイツの顔面をぶん殴ればいいのか? そんなことを考えている内にコングが鳴ってしまった。


「ぐおぉぉぉ!!!」


 トロールが物凄い勢いで突っ込んでくる。

考えている余裕も無かった。


「え!? ちょ!? たんまたんま!!!」


 しかし、そんな言葉が通じる訳もなく、俺はトロールの強烈な右フックをモロに食らってしまい、のされてしまった。



 目を覚ますと、闘技場の真ん中にいた。

立ち上がろうとすると、頭痛に見舞われた。


「あ、そうだ。俺ワンパンされたんだ」


 そう思いだし立ち上がろうとすると後ろから突き飛ばされた。

俺は地面に手と膝をついて倒れこんでしまう。

後ろを見るとさっき俺を連れ出した男たちに取り囲まれた。


「何ワンパンでのされてんだよボケが! ショボい試合してんじゃねぇぞ!」


「テメェにいくら賭けてると思ってんだよ!」


 さっきまで毅然としていた男たちに口汚く罵られる。

そして、そいつらのリーダーらしき男から指示が入る。


「テメェら、コイツ舐めてるから躾してやれ」


 躾……俺は前世と同じ口実で殴る蹴るでボコボコにされる。


「いで!す、すみません!」


 なんでだよ。

怪獣みたいなモンスターに転生したのに俺ちっとも強くなってないじゃん。

トロールにはワンパンされ、こんなチッポケな人間たちに見下され殴られ、俺の人生転生しても詰んでんじゃん!


「そろそろ良いんじゃねぇの、ブロンズ」


「ああ、そうだな」


 ようやく暴行が収まったと思えば、その「ブロンズ」とか言うリーダー格の男は俺の喉元を掴んで睨みつけるた。


「次、ショボい試合したら命無いと思え」


「ぶち殺すぞ」


 この時のブロンズの表情は殺気じみていた。

やべぇ、コイツの目を見たらわかる。

コイツ、完全に犯罪者の目だ。

俺、これからどうなるんだろう? 殺されんのかな? 転生して早々に。

すると、ブロンズは立ち去り際に明日の対戦カードと思われる用紙を落としていった為、俺はそれを拾い上げる。


「明日もあんのか」


 連日、あんな試合をモンスターにやらせるとは、多分犯罪組織なのは間違いないな。


「あれ?」


 冗談じゃねぇ、ここに書かれてるのって


「ユラじゃねぇか!!?」


 まさか、アイツも出るってことは捕まっていたのか!!? 一瞬心臓が止まりそうになるのを感じた。

俺はすぐにユラを探す。幸い夕食は共用のスペースで集まって食べるため、その時間だけは探すことが出来る。


「ユラ!!」


 ユラは見たらわかるぐらい疲弊していた。


「結局お前を巻き込んじまった。本当に申し訳ない!!」


 俺は頭を下げて謝った。

正直予想していなかったと言うのは言い訳だが、俺の身勝手で街まで連れて行った末路だ。


「本当、大迷惑っすよ。あんたのせいでこんな目になったんすからね」


 そりゃそうだよな。

責められるのも自業自得だ。


「まぁ、過ぎた事をウダウダ言っても仕方ないっす」


「それに、僕はアンタに感謝している所もあるっす」


 どういう事だよ!! お前がこうなったのは俺のせいじゃねぇか!! 感謝する義理なんてお前にはないはずだろ!!


「実は、僕はある冒険団の大ファンで都会には憧れてたっす。だけど僕はスライム。ただでさえ弱い種族だし森の外に出る勇気なんて無かったっす」


「でも、アンタが僕を連れ出してくれたおかげで、僕はほんの少しだけ都会と言うものを知ることが出来たっす」


「それに、イスペルダムはその冒険団の拠点があるからラッキーっす」


 なんて器のデカい奴だコイツ。

自分のクズさに腹が立つぜ。


「でも、お前、明日試合組まれたんだよな」


「うん。相手はゴブリンっすね」


 ゴブリンか。

強いモンスターじゃねぇとは思うが、明らかにスライムよりは強いだろ。

勝負になんねぇだろ。

俺の試合より危ねぇだろ。


「どうすんだ? 勝算はあるのか?」


「正直、あるか無いかと言われたら「ない」っす。根性で何とかするっす」


 根性って、何でコイツは落ち着いてられるんだ? 明日喧嘩しにいくんだぞ。


「まぁ、誰かさんみたいにワンパンはされないっす。僕がアンタの仇取ってくるっす」


 俺が巻き込んだのに、健気奴だな。

誰かさんは余計だが。


「わかった。死ぬんじゃねぇぞ」


 ユラはオーケーとばかりに体を縦に振った。




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