第3話 聞き込み

「離してくださいっす! 僕は美味しくないっすよ!!!」


 捕まえたスライムは、語尾に「っす」とつける変わった喋り方の奴だった。

しかし、そんなことはどうでもいい。

今は聞き込みが最優先だ。


「わかったから落ち着いてくれ!! 俺はお前を食べる気はねぇ!! ただ聞きたいことがあるだけだ!!」


 すると、スライムは落ち着いたのか静かになり、動きも止まった。

そして、こう尋ねてくる。


「そう言えばあんた見ない顔っすね? どっから来たんすか?」


 そんなのこっちが聞きてぇよ!! とつい怒鳴りそうになったが、グッと堪える。

そもそも、俺はここらのモンスターでは無いのが驚きだが。


「ちょっと記憶が曖昧でな。あっちの方で目を覚ましたら、それ以前の事が覚えていないんだ。だから、お前にここがどんな世界なのか聞いてるんだ」


 スライムは丸い目で不思議そうに俺の顔を見つめている。


「要するに記憶喪失って奴っすね。モンスターが記憶をなくすなんて不思議な事もあるもんっすね。人間見たいっす」


 俺は、このスライムが言った「人間みたい」と言う言葉を聞き逃さなかった。


「この世界にも人間がいるのか!!?」


「うん。人間だけじゃなくて色んな種族がいるっす。エルフや獣人とかもそうっすね」


 そうか、この世界にも人間がいるのか。

元人間としては安心だが、そのうえで一つ気掛かりな事があった。


「言葉は通じるのか?」


 いくら元人間といえど、今はモンスター。

この緑のスライムとは会話が出来ているが、果たして人間とは言葉が通じるのかまでは分からない。


「一応、言葉は通じるっすよ。だけど人間は僕たちモンスターにとっては天敵。だから、関わるのはおすすめしないっすね」


「というと?」


 俺が尋ねるとスライムは続ける。


「人間の中には、モンスターを敵視していてり、逆に見下している者だっているっす。だから僕たちは極力関わらないように森の奥深くでひっそりとくらしてるっす」


 どうやら、モンスター達の間では人間はおっかない生き物のようだ。

まぁ、元の世界でも生態系の頂点は人間だしな。

だが、俺は元はと言えば人間だ。

こんな森の中で野生動物の様に暮らすのは流石に御免だ。


「わかった。それじゃあ人間の住んでいる場所を教えてくれ」


「は!? 僕の話聞いてたっすか!? 正気っすか!?」


 そう言うのも無理はない。

今さっき極力関わらないようにしていると言ったばかりだ。


「ああ。そうだ」


 俺はそう答えるしか無かった。


「人里は危険っすよ! 僕たちモンスターっすからね! 住民に見つかったら殺されるかもしれないっすよ!?」


 さらにスライムが続ける。


「アンタは大きいし強いモンスターかも知れないっすけど、人里には化け物みたいに強い人間がうじゃうじゃいるっす!! 中にはドラゴンさえも一人で狩る猛者もいるっす!!」


 俺もそこまで馬鹿じゃない。

いちおう俺はこの手のラノベは読み込んできたし、その中には、コイツの言うような強力な人間キャラもいた。

だから、この異形の姿で人里に行くことが自殺行為なのもわかっている。

だけど、いまの俺にモンスターと同じ生活をするのは無理がある。

野垂れ死にするだけだしな。


「だとしても、俺は人里に行きたい」


「だからなんでなんすか!!? アンタにメリットは無いっすよ!!?」


「メリットはある。お前はさっき俺が記憶喪失だと言うと、人間見たいだと言った。つまり、記憶喪失と言うもの自体が、人間だけに起きる事だという事だな」


「だったら人間に聞いてみたら、何か治す方法が有るんじゃないかと思うんだ」


 俺は適当にしては上手い口実を並べて説得した。


「だから頼むぜ。人間と話をしてみたいんだ」


「そう言われてもっすね」


 スライムはプニプニした体を横に捻って考えた。


「イスペルダム……」


「ここから南に行った所に、イスペルダムと言う商業の盛んな大きな街があるっす。そこにはいろいろな種族の人間や一部のモンスターが共生してるっす」


「本当か!!? そりゃあ有難い!! ならそこに行くだけだな!!」


「じゃあ、僕はこの辺で……」


 スライムはそっと俺の脇から逃れようとするが、俺はそうはさせない。


「まだだ。道がはっきりわからん」


「案内役よろしくな。スライム!」


 俺はスライムをしっかりと脇の下で抱え込むとすぐに走り出した。

スライムが何か奇声を上げていたが……まぁ、いっか。

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