アルティメット風月

 これ風月が友達から聞いた話なんだけどさ。いや、ほんとにあったんだって。知らんけど。

 その友達の友達に起こったんだけど、まー、気の毒な話なんだよね。

 怖く? 全然、怖くないよ。


 でね? いつかは知らないんだけど、辺鄙な村に、多分大学生が引っ越してきたんだって。


 んでさ、引っ越し祝いを手伝ってくれた友達とやってたんだって。四人って言ってたかな? 夏の夜中にお酒飲んでつまみ食って大騒ぎ。ウケる。


 とそこで、酔っぱらった一人がこう言ったんだって。

「夏の夜って言ったら、やっぱ肝試しだよな」

 んで、他の奴も同調したの。

「そういえばここに来る途中、古いトンネルあったろ?」

 確かにあるんだよね、トンネル。だいぶ前の話なんだけど、不幸な事故でキツネが一匹死んじゃったの。まあ、工事の都合でろくに弔えもせず、そのまんま埋めちゃったんだって。嫌だね。

 で、四人は肝試しをすることに決めたんだって。

「昼間あのトンネルの向こう側を見てきたんだけどさ、向こう側にお札でべったべたの道祖神? お地蔵さん? みたいなのがあったんだよ。そこからお札引っぺがして持ってくる、ってのどうだ?」

「よせよせ、そういうのは何かを封印するために貼ってあるんだ。何か起こったらどう責任取るんだよ」

 そんな風に反論した奴には霊感があったとかなかったとか。多分あった。うん、あった。しかもこいつ酒飲んでねぇの。なんで? しかも行ったのはその日じゃなくて次の日の夜。そういうのって普通ノリで行くもんじゃないの?


 まあ、次の日はバ先に挨拶に行って、なぜか肝試しの話をして、ドン引きされたらしいよ。アホじゃん。


 さてさて当日の夜ですよ。酔っ払いが二人、運転要員と相変わらず酒を飲まない霊感持ちの素面二人。わざわざ塩まで持って、スマホのライトで足元を照らしながらトンネル方へ進んで――


「ああっ! あそこに何かいるぞ!」


 こう言ったのは霊感持ちなんだけど、素面でそんなことを言うの、結構ヤバいよね。しかも他の三人には何にも見えないから、そのまんま肝試しを始めちゃうわけよ。

 で、まず最初はやっぱり言い出しっぺから。

 トンネルに入るとこう、ひたっ、ひたっ、と水の音がするんだって。そのままゆーっくり進んでくと、トンネルを抜けて、脇のところにぽつーんとお札でべたべたの道祖神が立ってる。多分村の境目なのかな? 悪いものを追い出すため、キツネに祟られないために、そこに立ててたんだと思う。

 で、丸が書いてあるお札を一枚剥がして、またトンネルを通って車の方へ戻るわけさ。

 ところがね、戻ると一人体調が悪そうな奴がいるの。素面の霊感持ちがうずくまってなんかボソボソ独り言をつぶやいてるわけ。

 耳を近づけて聞いてみるとね、

「キツネが来る、キツネが来る………………」

 って、繰り返し繰り返し言ってたんだって。あ、言っとくけど風月の話じゃないからね、風月とは別の狐だからね。

 それでどうかしたのかー、なんて言ってると霊感持ちが気絶しちゃうの。普通気絶する? まあ、したんだけどさ。

 で、さっさとお札をその辺に捨てて、車に乗るわけよ。

 ところがエンジンがかからない! ちゃんとブレーキ踏んでるのに!

「早く掛けろって」

「掛かんねえんだよ」

「んなわけねぇだろ!」

 なんて五分くらいやってる間に、ドンッ!!!!!!!!!!!!!! でっかい岩が落ちる音がして、そんときにエンジンは直ったっぽい。

 でさー、夏じゃん? だからエアコン付けるわけなんだけどさ。


「うわああああああああっ!」


 悲鳴よ、悲鳴。うじゃうじゃと、狐の毛がエアコンの吹き出し口から出てんの。

 いや、だから風月の話じゃないって。

 で、追い打ちをかけるように車がぐらぐらぐらーっ。

 でもまあ、エンジンは掛かってるから発進したいわけさ。でもいざ発車させようってタイミングでね。


 ――コンコン。


 窓を叩く音がするわけよ。暫くとんとん言ってたかと思うと今度は

「開けて」

 って。

「開けて」

「開けて」

「開けて」

「開けて」

「開けて――」

 今度は声!

 で、一人が堪え切れずにドアを開けちゃうわけよ。そこへすかさず足首をがっと掴んで、ぎゅーっと握っちゃう。

「ああああああっ!」

 でさー、幽霊ってさ、騒ぐと寄ってくるじゃん? だから、そんなことしてる間に寄ってくるんだけど、そこで気絶してた霊感持ちが起きるんだよね。で、塩をばーっと車ん中に撒くわけ。絶対べたべたしそうじゃない? まあべたべたするのはどうでもいいんだけどさ。だってその幽霊、塩効かないから。

 だから撒いても撒いても、四人で撒いても攻撃は止まないわけよ。

 しゃーないからそのままこう、半ドアで車走らせるの。家までね。

 大体都市伝説って百二十キロで追いかけてくるから、まあ車で飛ばしても追いかけられるよね。


 で、家。

 中入ると、そこで怪異はぴたーっと止んじゃう。これは理由があるらしくてさ、その家の柱んところに、剥がしたお札と同じ丸が刻まれてたらしいんだよね。

 ごんごん言ってる時計の鐘をききながら、一番いい時間に幽霊も泣き寝入り。でも幽霊って寝なくない? じゃあ狸寝入りじゃん。いや、狐だから狐寝入り?


 全然落ちてないし。

 まあこれが友達から聞いた話なんだけどさ、風月に比べたら全然怖くないでしょ。だってほら、風月悪さしないもん。

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アルティメット怪談 七条ミル @Shichijo_Miru

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