第24話 変わった影響は色々に響いて
学校から帰宅して、自分の部屋に入って。
「疲れた……」
翠が最初にしたことは大きな、とても大きなため息だった。
……元々注目されるのが嫌でこうして目元を隠しているのに、どうしてこんなにも注目されなくてはいけないのか?
そんな、脳裏に浮かび上がってきた疑問を即座に否定する。
「あの時のせいだよなぁ……」
ベッドに倒れこんでポツリ。
考えるまでもなく新入生歓迎会——あの日のせいだ。
まだ交流の少ない人が班に多かったのも悪かった。
一年生の時のクラスメイトであれば、あそこまで大きな話題になることは無かったはずだ。
「とは言ってもなぁ……いまさら何言っても遅いし」
直接翠の素顔を見た人間は少ない。けれど、噂はもうすでに広がってしまった。
それに、後輩に告白されたという噂が一緒に出回ってしまったというのが、噂を広めるのに一役買ってしまっている。
「……俺にはそんなつもりないのに」
翠は、恋愛というものが苦手だ。
自分の容姿が優れているというのは、いくら鈍感であろうとしてもあれだけ反応されれば分かってしまう。
中性的な顔つきというのも悪かったのかもしれない。
線の細い男子とも見えるし、男子っぽい仕草をする女子にも見える——そんなギリギリなラインにいるというのが、翠をここまで恋愛に苦手意識を持つのに拍車をかけていた。
「それに、好き嫌いっていうのもなぁ……」
好き嫌いは翠だって当然ある。
遠慮なく距離を詰めてくる人は苦手だし、声を荒げる人も苦手だ。
優しい人は好きだし、気兼ねなく話せる人はもちろん好きだ。
けれど、恋愛対象としての好きと嫌いというのは、よく分からない感情だ。
翠にとって、基本的な世界の分類は家族とそれ以外だ。
家族は大好きな人で、大切な人で……それ以外は、生きていくために交流は必要だとは思うけど、自分からは進んで交流したいとは思わない。
だから、彼女からの告白は正直面倒くさいという気持ちが大きい。
とはいえ、それを直接言うのは気が引けるわけで。
「うーん」
……一度は断ったのに、どうしてこんなにモヤモヤするのか?
よく分からない不快感がどうにも気持ち悪い。
客観的に見れば、彼女は翠の素顔を見て告白してきただけで、いままで——中学生の時に告白してきた人たちと同じだ。
如月と今までの人たち。両者に違いがあるとすれば——
「初対面の時に印象かな?」
中学の時は素顔を隠していなかった。
そのせいで、かなりの告白を経験してきたわけだが、彼、彼女たちはこぞって交流の無かった人たちだ。
だが、如月は交流こそなかったものの、初対面の悪態がいまだに印象に残っていて。
「まてまて、違う」
うっすらと脳裏に浮かんだ言葉に、翠は慌てて首を横に振った。
「違う。絶対に違う……違うよな?」
否定したいのに、否定するための材料が見つからない。
そのため、どうにも自分の考えが正しいと錯覚してしまう。
「え? もし本当にそうだったらショックかも……」
人知れず、一人で気分を沈ませる翠だった。
* * *
『ふーん、そういうことがねぇ……』
「そうなんですよ」
スマホから聞こえてくる声に頷きながら、蓮華は濡れた髪をタオルで拭いていく。
「紫音さん……私、どうすればいいですかね?」
彼女から電話が来たのは、蓮華がお風呂から上がった時の事だった。
自宅とはいえ、さすがに何も着ていないまま通話をする勇気は蓮華には無く、一度「かけ直します」と伝えてから急いで寝間着を着て、今に至る。
『そうだねぇ……もういっそ、蓮華君も告白してしまうのがいいんじゃないかな』
「こっ、こくはきゅ!? っ……」
……何を言っているのかこの人は!?
突然の言葉に舌を噛んでしまい、涙目になる蓮華。
そんな蓮華の様子を楽しむように、電話口からは紫音の笑い声が聞こえてくる。
『はははは、そんなに動揺することは無いじゃないか』
「……動揺するに決まってるじゃないですか」
そんなもの、出来るならもうしている。
だけど、自分から伝える勇気が持てなくて。そうこうしているうちに、いつの間にか翠はもの凄い親し気に蓮華に接してくるようになってしまっていた。
あそこまで気兼ねなく接するようになると、余計に伝えにくくなるわけで……。
「そ、そんなことよりも、さっき話した件ですよ! 紫音さんはどうすればいいと思いますか!?」
「うん? だから蓮華君も対抗して告白を——」
「そうじゃなくて! 違う案を出してくださいよ!」
事態はあまり楽観していられる状況じゃないのだ。
翠は断ったと告げていたが、彼は告白されていて。それに、相手はまだ諦めていない。
それはもう、蓮華の中では警報が鳴り響くほどに彼女を警戒しているのである。
でも、告白で対抗するのはハードルが高いわけで。
「学校だと翠くんと私の接点がないから、あまり一緒にいるわけにもいかないですし……」
『うーん、そうだなぁ……別に一緒の仕事をしてるというのはバレてもいいんだろう?』
「まあ、それは大丈夫です。あくまでもスイの正体と私自身が投稿者として活動してるのがバレなければ」
さすがにこれは譲れない一線だ。
蓮華からスイの正体に繋がる可能性もある以上、レンが蓮華であることも知られるわけにはいかない。
『なら、同じ事務所にいるんだ。そっちで対抗するしかないね……私に考えがある』
「大丈夫ですか?」
ふと嫌な予感を覚えるも、紫音は「大丈夫だよ」と軽く告げ。
『私に任せてくれたまえ』
そう、不安しか残らない言葉を発したのだった。
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