第15話 繋がれた手(強制)




 場所は変わって、とある一軒家にて。


「励! いるんでしょ!? 出てきなさい!」


 ドンドンと。

 如月玲奈は、弟である励の部屋の扉を叩いていた。


 待つこと数秒。

 ゆっくりと扉が開かれ、十センチほど開いた隙間から少し気弱そうな顔を覗かせる。


「……どうしたのお姉ちゃん?」


「入るわよ」


「ちょ、ちょっと……」


 開かれた扉に手に差し込み、完全に開放。

 驚きの声を上げる弟を無視して、玲奈はズカズカと部屋への侵入を果たした。


「さっきまで寝てたの? だらしないわねぇ」


「それは姉さんもでしょ? 僕だって遅くまで配信してたし……」


「私はいいのよ」


「理不尽だ……」


 肩を落とす弟を一瞥して、彼のベッドへ。

 玲奈は先程まで寝ていたとは思えないほど整えられているベッドに腰掛けると、扉を閉めている弟へと視線を上げる。


「あんた……配信してたって嘘ね」


「な、なんで……?」


「ふぅん、適当にカマかけただけなんだけど、本当だったみたいね」


「えぇ……」


 顔を引きつらせる励。

 とはいえ、決して玲奈だって適当に言ったわけではない。


「双子なんだから、隠せるわけないでしょ」


「いや、それ双子とか関係——」


「あんた、分かりやすいのよ。もうちょっとおどおどしたりするの直したら?」


「いやそれも——」


「それに聞いたわよ? あんた今日、先輩に声をかけられて顔を真っ赤にしてたんだって?」


「なんでそれを!?」


 話を聞いてもらえず肩を落としていた姿から一変、弟は驚きと動揺を混ぜ合わせたように視線を彷徨わせる。

 その姿を見て、玲奈は口元に弧を描いた。


「まあ、きれいよねぇ……………………星野せ、ん、ぱ、い」


「…………」


 彷徨わせていた目を丸く見開いた励。

 玲奈は自身の情報が正しかったことを確信して話を続けていく。


「でも、まさか同じ学校に似た活動をしてる人がいるなんて思わなかったわ。まあ、学校じゃそのこと話してないみたいだし、あまりあからさまに話しかけるわけにはいかないみたいだけど」


 新入生歓迎会の後、玲奈は彼女の動画を確認しようとした。

 理由は単純、以前『スイレン』で顔を合わせた時に高宮先輩が一緒にいたからだ。

 だが、簡単に見つけることが出来ず、少しではあるが苦労することとなってしまった。


 まず、当たり前ではあるが本名を出していないこと。

 そして、普段の彼女と動画の彼女の姿が微妙に一致しなかったことだ。


 玲奈も『スイレン』に所属しているという情報と、あのキレイな金髪が印象的ではなかったら見つけられなかったかもしれない。

 しかし、その苦労もあってか彼女の情報は知ることが出来た。

 最初は一人で活動していた彼女は半年ほど前から二人での活動をメインにし、飛躍的ではないが地道にファンを増やしていっている情報だ。


 とはいえ、その情報は玲奈にとって重要ではない。

 いや、重要ではないのではなく、その情報では確信には至らなかったのだ。


「私ね、先輩に告白したわ」


「ええ!?」


「まあ、振られたけどね」


「あ、え、えっと……それはご愁傷さまというかなんというか……」


「そこでよ!」


「へ?」


 励の表情が呆気としたものに変わる。

 そんな彼に構わず、玲奈はニヤリと笑みを浮かべて。


「私があんたに協力してあげるわ!」


「……どういうこと?」


「ふっふっふっ、分かってるわよ? あんた、星野先輩の事好きになったでしょ?」


「そ、そんなこと……」


「双子なんだもん、それくらいは分かるわよ。だから——」


 玲奈は視線を動かし、画面のついているパソコンへと向けて。


「考えることは一緒よね」


 ヘッドフォンが繋がっているのか、パソコンからは音が流れていない。

 だが、その画面には玲奈も最近見たばかりの先輩の動画が流れていた。


「ちょっと、見ないでよ!?」


「もう遅いわよ♪」


 足を組んで、腕を組んだ。


 状況は完全に玲奈が有利。

 これで弟は自分に逆らえないと考え、玲奈は自分の本当について述べていく。


「私はあんたが星野先輩とくっつけるように手助けしてあげる。だから、あんたは私が高宮先輩と付き合えるように助けなさい!」


「そ、それは……というか高宮先輩って誰?」


「返事は?」


「……はい」


 ガックシと肩を落としながらも返事を返した励。

 玲奈はその姿に満足して頷くと、ベッドから腰を上げて彼の手を取った。


「じゃあ、協力よろしく♪」


 つないだ手を数回振った後、手を放して弟の部屋を後にする。

 

 協力者は手に入れた。それも、自分が上位の協力を。

 気分は最高で、気を付けなくてはスキップでもしてしまいそうだ。


 上機嫌で扉を閉めるその直前。

 その隙間から見える弟の姿は力尽きたように項垂れていた。

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