新たな出会いは敵(かたき)との出会い
第1話 寒空に届く一通の
『じゃあ、みんなお疲れ~!』
とある一室で、少女がひらひらと手を振っていた。
ただの通話であるなら手を振る必要は無い。
ビデオ通話であるならまだ可能性はあるかもしれないが、少女が「みんな」と告げていた以上はそれも違うだろう。
では、彼女は何をしているのか?
もう一つの可能性を考えるならWeb上での会議で使われるアプリケーションなども考えられるが、おそらくそれも違う。
動画配信。
それが、いままで少女がおこなっていた活動であり、手を振っていた理由の正体だった。
「ふぅ……疲れたぁ……」
配信画面を閉じ、息を吐く。
やはり座りっぱなしというのは体に負担がかかるらしく、少女が体を伸ばせば、固まった筋肉がほぐれてじんわりと血の流れる感覚が広がった。
「はぁ……こっから勉強とか、まじだるい……」
モニターや多数の機材が置かれたテーブルの隣。勉強机には数冊の教科書が積まれており、それを見てしまった少女の顔は暗い。
というのも、少女は現在中学三年生。つまりは受験を控えているのである。
趣味としている配信活動自体は楽しんでいるのだが、勉強と趣味の両立となれば話が違う。
どちらも時間が取られてしまうものであり、どちらもかけた時間がものをいうため、負けず嫌いな少女にとっては目下悩みの種となっているわけだ。
「……年明けまでは配信も出来そうにないかな」
冬休みに入り、年末へと向かうにつれて忙しくなっていく。
それは、受験を控えた学年を対象にした面接練習であり、来年早々の受験に向けて追い込みをかける塾での勉強と、いろいろとやるべきことが多い。
この後のスケジュールを思い浮かべると、配信をおこなっている時間が全くないことが予測できてしまう。
「おばあちゃん家にも行くようだし……四日から? ううん、五日になっちゃうかも」
配信というのは、リアルタイムで視聴者と触れ合うことが出来る点で普通の動画投稿とは違う。
そして、どちらにも共通することではあるが、視聴者の奪い合いという側面もたしかに存在する。
だからこそ、配信の数がものをいう世界であり、配信の質がものをいう世界でもあるのだ。
約十日という時間は、少女にとって顔をしかめるに値するハンデだった。
「あっ、企画も考えとかないと……ほんと勉強ってめんどくさい。もういっそ、進学止めちゃう? いや、絶対怒られるわ……」
閃いたと言わんばかりに表情を明るくしたと思いきや、すぐに落ち込んだように曇らせる。
そんな百面相を披露していた時のこと——
「ん?」
グダグダと勉強を先延ばしにしている最中、パソコンに一通のメールが届いた。
「まったく、勉強しようと思ったのに誰からよ?」
友人とのやり取りは基本SNSなので違う。
あと考えられるのは、少女の活動の場であるYtubeだろうか?
なかなか腰を上げなかったのを棚に上げ、少女は愚痴をこぼしながらもメールを開く。
「ん? 『スイレン』運営? なんか聞いたこと有るような無いような……」
胡乱な目で差出人を見て、そのまま文面を確認していく。
上から下へ少女の眼差しが移動していくにつれ、その目が大きく見開かれ、口元は喜びから弧を描いていった。
そして立ち上がって。
「ちょっと
大声を出しながら部屋を飛び出す少女。
その足取りは、活力に満ちていた。
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