Water lily×赤王子 再び! ⑥
「うわぁ……」
「…………」
恥ずかしそうに戻ってきた蓮華を連れて数分。
拠点を建てていた場所に戻ってきた翠は、せっかく建てた拠点の惨状に立ち尽くしていた。
「……せっかく作ったのに」
労力をかけて作った拠点は内部から爆発したせいか、床から壁、さらには天井までもが消え去っている。
ただ、爆発したのが入り口付近であったのが幸いであったのだろう。設置していたかまどとチェストは無傷。ベッドは一つだけ壊れた状況でとどまってくれていた。
「アイテムは……さすがに残ってないね」
蓮華が壊れた拠点の中を見渡してポツリ。
爆発して壊れたブロックはアイテム化して地面に落ちる。
しかし、さすがに一夜という時間は長かったのか、翠が倒された時に落としたアイテムも含め、拠点には何のアイテムも落ちてはいなかった。
「集め直さないとだね」
「そうだね……」
時間にしてみればそう長い時間ではなかったが、少ないブロックのなかで一生懸命作ったものが壊れている様は、なかなか心にくるものがある。
翠が少し肩を落とすと、蓮華が翠の元へ戻ってきた。
「とりあえずは木を集めないとかな?」
「うん、まずは壊れたところを直さないと」
『シオンが別行動してるせいで寝れないからベッドは後でもいいかも』
『というかいらなくね?』
『まあ、これ二人のワールドだし……』
「さすがにそれは可哀想かなぁ……」
「あはは……」
少しばかり辛辣なコメントに翠が反応すれば、続いてコメントを見た蓮華が微苦笑。
「まあ、みんなの言ってる通りベッドは後回しにするとして……拠点を直してからはみんなに教えてもらいながらやろっか」
「そうだね」
翠は蓮華と顔を見合わせて、頷きあう。
こうして、二人による拠点製作が始まった。
少し時間が経って——
「この窓はどうする?」
「うーん……まだガラスがないから、柵で格子状にするとかどう?」
「おっけー」
軽い返事の後、蓮華が縦二マス空けた壁に柵をはめ込んでいく。
現在、翠たちは拠点の復旧を終え、拠点の拡張をおこなっていた。
初めはただ復旧するだけの予定であったのだが、ある程度復旧を終えた段階でコメントに『もうちょっと装飾してみたら?』という言葉を見かけたのだ。
もともと敵に追いかけまわされていたせいで疲れていたのもあったので、洞窟探検や周囲を探検するよりも、資材を集めながらのんびり拠点を拡張した方がいいという判断をしたのである。
『そろそろ夜になるんじゃない?』
『二階に続く穴は塞いだ方がいいかも』
『夜の間は内装に専念するしかないな』
「ありがとう! そうするね!」
「ありがとう」
『美少女二人からのありがとう……助かる』
『こちらこそありがとう!』
『ありがとうございました』
「……俺が塞いでくるね」
適宜アドバイスをくれる視聴者にお礼を告げれば、逆にありがとうとコメントが加速する。
美少女二人という言葉に若干引っかかりつつも、翠は笑みをこぼしながら二階へ続く階段を上った。
「よし、塞いで……と」
仮に塞ぐだけなので、持っている木材を使って塞ぐ。
その後、翠は振り返って現在の拠点を見渡した。
復旧前と違って現在の拠点はL字型となっている。
入り口から入って長方形の室内が続き、奥に折れ曲がって最初に作った箱型拠点に繋がっているという形だ。
玄関となる入り口は扉を二つ繋げ両開きの扉にし、勝手口として旧拠点の入り口も残してある。
翠が今いるのは玄関から入ってすぐ右側、奥から入り口に向かって昇っていく階段の上だ。
「あっレン、テーブルはあと二マス奥にした方がいいかも」
「そう?」
「ちょっと玄関に近いかなって」
「おっけー」
L字型の縦部分、中心にテーブルを配置していた蓮華に指摘すれば、彼女はすぐに配置途中のテーブルの撤去を始める。
テーブルといってもこのゲームにはテーブルというアイテムは無く、柵の上にカーペットを配置したものだ。
コメントでは竹を使って作る足場というアイテムにカーペットを乗せると良いと書いてあったが、現状竹を入手出来ておらず、この形を採用した。
「これでどう?」
「うん、大丈夫」
「じゃあ、次は椅子だね」
そう言うと、蓮華はテーブルの脇に階段ブロックを設置した。
これも、このゲームには椅子というアイテムがないためだ。そのため、階段上のブロックに扉を組み合わせて椅子のような形に近づける。
「こんな感じかな?」
「良いと思う」
チラリと翠を見た蓮華に笑みで答えると、彼女は嬉しそうに頬をほころばせる。
そうして二人同時に画面に視線を戻し、次の作業へ。
「うーん、ある程度出来てきたけど……なんか物足りないな……」
「……茶色一色だからね」
壊れた拠点を復旧させるための材料集めとして木材収集を優先させたせいもあるが、拠点の壁から先程作ったテーブルまで、画面に映っている景色は見事なまでに茶色になっていた。
木の暖かみといえば聞こえはいいが、どうしてものっぺりとした印象を覚えてしまい、どこかもの足りない。
「砂さえ集めればガラスを作れるけど、それだけじゃ味気ないしな……」
木の柵で代用した窓がガラスに変わるだけで印象は変わるだろうが、それだけでは印象を変えるのにはまだ弱い。
凹凸が少ないというのだろうか、どうにも平面的に見えてしまう。
『室内の隅に原木の柱を置けば?』
『梁を加えてもいいかも』
『柱に原木置くなら種類変えたい』
「それだ!」
木材は薄い茶色で原木は濃い目の茶色。同じ茶色ではあるけれど、設置すれば室内に色のメリハリができる。
思わぬ情報に目を輝かせれば、善は急げを言わんばかりに行動を起こした。
「おお……」
……柱を設置するだけでこうも印象が変わるのか。
拠点内に起きたささやかながらも劇的な変化に、翠は感嘆の声を漏らす。
こうなれば、他のコメントに書かれていたことも試さずにはいられなかった。
「——梁はこっち」
L字型の拠点を分割するように天井へ梁を設置し。
「——ここの皮を剥けば」
斧を使うことで原木の皮をはぎ、木材とはまた違った質感を演出した。
「——ん」
「ベッドもこのままじゃなくて手を加えたいな」
「——くん」
「窓ももうちょっと飾り付けられるかな?」
「スイ君!」
「えっ? な、なんですか……?」
この後はどう飾り付けようと翠が思考を巡らせている最中、突然の大声に翠は肩を震わせる。
そして周囲に目を配れば、困ったように笑みを浮かべている蓮華の姿があった。
「まったく……楽しいのは分かるけど、レン君が困っていたよ?」
「あはは……」
『珍しい姿が見れたなw』
『怒られてるwww』
『レンちゃんが声かけても完全無視だったからなw』
軽くではあるが嗜めている雰囲気の紫音の声色に、頬をかいて苦笑している蓮華の姿。
その両方にようやく翠は自身の失態を自覚した。
「ご、ごめんなさい!」
慌ててしまった翠は急いで頭を下げる。
すると——
「……っ!?」
勢いあまって額がディスプレイの直撃し、その衝撃で画面が大きく揺れた。
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