Water lily×赤王子 再び! ③
「よし、まずは場所を変えようか。ここには木が少ないからね」
「「はい」」
気を取り直して告げられた紫音の言葉に、翠と蓮華は揃って頷く。
「移動しながら木を回収していって……あと羊を見つけたら倒しておこう。羊毛は三人分だから九個だけ、それ以上は狩らないようにね」
『さすがシオンだな……この状態でも始められる』
『少し声が震えてたけどな』
『それについてはレンちゃんとスイちゃんが出来なさすぎるwww』
「私はいつでも平常心さ」
「「…………」」
「何か言ってくれないかい?」
『www』
『それは無理があるだろ』
『二人してだんまりw』
コントのようなやり取りにコメントが大いに沸く。
しかし、それとは対照的に画面では紫音が抗議するように腕を振っていた。
だが、翠としてもさすがに紫音に向かって軽口は言いづらい。そのため、助けを求めて視線を蓮華の方向へ。
すると、蓮華が頷きを返してくれる。
「なんで羊を狩るの九匹だけなんですか?」
「そこかい!?」
紫音は少しだけ声を大きくするが、すぐにため息をついた。
「羊から取れる羊毛はハサミで取れば何回でも取れるんだよ。拠点を作った後に連れてくれば、何度でも回収できるだろう?」
「ああ、そういうこと」
「もうちょっとまともな反応を返してほしかったな……」
蓮華の態度が少しばかり刺々しいのは紫音自身も気付いているらしく、苦笑しているような雰囲気が声に混じっていた。
おそらく配信を始めてすぐのやり取りが原因だろうが、詳しいことが分からない翠は何も言うことが出来ない——と、翠が口を閉ざしていると。
「スイ君もそう思うだろう?」
「へっ!?」
突然話題を振られ、翠は視線を彷徨わせる。
蓮華を見れば、彼女の目は「私の味方だよね」とでも言っているようだ。しかし、それはそれで紫音に申し訳ないようにも感じてしまい、どう答えるべきか迷ってしまう。
「えっと……シオンさんのせいじゃないですかね……」
熟考の末、翠は蓮華の味方をすることを選んだ。
それでも言葉に力がないのは翠の気質ゆえだろう。もしくは、紫音のフォローをしたくても目の前の少女の視線に負けたというべきか……。
「そうかい……スイ君も私を助けてはくれないんだね……」
「それは……えっと……」
「いや、いいんだ……君とレン君の仲が良くて何よりだよ。私も頑張ったかいがあった」
「シオンさん! もう止めてください!」
あくまでもそういう方向へ持っていこうとする紫音に対し、蓮華はピシャリと声を荒げた。
「それはもうスイが否定したじゃないですか、これ以上掘り返さないで下さいよ」
「おっと? それはすまないね」
あきらかに口だけの謝罪と分かる紫音の声色。
翠でも分かるのだから、隣にいる少女はもっと分かっているだろう。
案の定、翠が隣を見やれば片眉を吊り上げて頬をヒクつかせている蓮華の姿が。
「…………ふぅ……これ以上シオンさんの策にはのりませんよ……ほら、早く移動しましょう」
「それは残念だね」
止まっていた紫音の抜き去って蓮華が先に歩を進めると、ほのかにため息のような音が聞こえてくる。
その音は本当に残念そうで。
「ははは……」
……先が思いやられる。
蓮華を追いかける紫音の後ろ姿。
その姿に一抹の不安を覚えながら、翠は二人の後を追った。
「じゃあ、私とレン君で資材を集めてくるから、スイ君は拠点づくりをお願いするよ」
「分かりました」
移動を続け、ある程度木々が生えている場所へ移動した後。
紫音は手早く木を回収し作業台を作ると、開けた場所にそれを置いた。
「とりあえずこの位置ぐらいに拠点を作って、ベッドを三つ並べておいて欲しいかな。もうすぐ夜になるだろうから、私たちは近くを回ってくるよ」
そう言って、紫音は蓮華を連れて翠の元から離れていく。
少し遅れながら紫音の後を追う蓮華の姿が見えなくなったところで、翠は視点を木々へ向けた。
「よし! 頑張ろう!」
まずは資材集め。
木を二本分ほど回収し作業台へ戻ると木のツルハシを作る。その後、少しだけ離れたところの土を下に掘っていくと、ブロックが茶色の土から灰色の石に変わった。
「えっと、かまどが石八個で、オノが三つだから」
翠だって何もせずに休んでいたわけではない。これからやるであろう撮影に必要な勉強はしていたのだ。
記憶を探りながら石を必要数堀り、再び作業台へ。
そうして作るのは石のオノとかまど——アイテムを焼くためのブロックである。
「このあたりかな?」
拠点の大きさを想像しながらかまどを設置。中に燃料となる木を入れ、焼くアイテムも同じく木を入れる。
こうすることで木炭が手に入り、それを用いることでたいまつを作ることが出来るのだ。
このゲームの敵は基本的に暗いところで出現する。
そのため、光源となるたいまつを配置するのはこのゲームの基本なのだと予習済みだ。
「そしたら木を集めてと」
かまどから火が灯って明るくなったのを確認したのち、翠は石のオノを持って周囲の木を切っていく。
木を全て回収することで残った葉っぱは自動的に消える。その際、時折ドロップする苗木を植えておくもの忘れない。
そうしてある程度の木を集めたところで、翠は拠点づくりを開始した。
「手元にあるのは……木材だけなんだよなぁ」
拠点といったところで資材と時間に限りがある以上、あまり凝ったものは作れない。
そのため、今回作るのは豆腐のような形をした簡易的なものだ。
「まあ、後からでも手は加えられるしな」
翠は配置してある作業台とかまどを囲うように四角形に木材のブロックを積み上げていく。
一周、二週と積み上げていき、最終的には四段重ねると、四段目が屋根となるように平らにブロックを並べていった。
そうすることで、箱をひっくり返したような形の拠点が完成する。
続いて着手するのは、入り口と内装作りだ。
四角形の箱の一部に縦二マスの穴をあけて中に入る。すると、中は真っ暗になっていた。
つまり、かまどが木を焼き終えた合図だ。
かまどから木炭を回収してから木材を棒に加工して、木炭と棒を合成させる。
そうして完成したたいまつを、翠は入り口の上に取り付けた。
「おお……! っと」
途端に明るくなった室内に感嘆の声を上げるが、浮かれてばかりではいられない。
このゲームに置いてベッドは重要な役割を持つ。
夜になり暗くなることで敵が出没するが、ベッドで寝ることで夜をスキップできるのだ。
それ以外にも、寝ることでHPが無くなった時の復活地点にすることができ、まさに最重要アイテムといえるのである。
「えっとベッドは……羊毛と木材を三個ずつだったかな?」
作業台を開き、羊毛と木材を並べる。
そうして完成したベッドを拠点の隅に三個並べて配置した。
——ちょうどその時。
「お? 出来たね」
「シオンさん」
聞こえてきた紫音の声に翠が振り返る。
「戻ってきたんですね……あれ? レンは?」
翠の作った拠点に入ってきていた紫音。その隣には蓮華の姿が無かった。
「レン君はね——」
「最初の場所にいるよ……」
紫音の声に被さるように告げられたのは、隣の少女からの言葉。
その声に反応して翠が隣を見れば、蓮華は苦い笑みを浮かべて。
「洞窟で落っこっちゃった」
そう、自身の現状を述べるのであった。
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