第20話 二人でゲーム




「皆さんこんにちは! 『Water lily』のレンだよ!」


「スイです!」


「今回は、この前に投稿した二人でゲームをやってくよ!」


 恒例となっている日曜日の撮影。

 いつも通り『スイレン』の一室で、翠と星野はパソコンに向かっていた。


「みんなにはもう伝えてるけど、二十三日にスイがシオンさんとまたコラボすることになったからその練習も兼ねてだね。ただ、せっかくだから二人のワールドを作ってやってくよ!」


「頑張ります……!」


「スイもコラボに向けて気合十分だからね! じゃあ、さっそくやってこー!」


 星野の掛け声と共に、翠は意識を画面に戻す。


 すでに二人でワールドには入っている状態だ。

 周囲は見渡す限り草原で、木がポツリポツリと立っている程度。


「えっと、最初は木を集めた方がいいんだったよね。ただ、二人でやってもしょうがないから分担しよっか?」


「そうだね……じゃあ俺が木を切っておくから、レンは食料とかを集めてもらっていい?」


「おっけー」


 軽い返事の後、星野は遠くへ走り出す。

 翠はそれを見送ると、視点を近くの木に合わせた。


「よし、さっそく木を切っていきますか!」


 最初は何のアイテムも無いため、手で木を回収していく。

 コッコッと、何とも言えない音が鳴りながら木のブロックにひびが入り、少しすると壊れてアイテム化する。

 中間部分を回収したため、空中に浮く木というシュールな絵が出来上がっているがご愛敬だ。


「作業台を作ってピッケルを作っていくよ」


 回収した木をクラフト——合成していき、作ったのは木のピッケル。

 これは、地面の下などにある石関係のブロックを回収するためのツールだ。


「おお! スイの動きがなんか凄い!」


「練習したからね」


 隣で翠の画面をチラチラと見ている星野。

 そんな彼女に笑みを返すと、ちょうど豚を追いかけているところだった。


「もうちょっとで剣も作れるようになるから、もう少ししたら一度戻ってきて」


「りょうかーい!」


 地面を掘り、石を掘る。

 そうしていくつかの石を回収したのち、翠は作業台に戻ってツールを作った。


 石の剣と石のピッケルを二つ。石のシャベルを一つ。

 ツールは木、石、鉄と変わっていくほどに攻撃力やブロックの回収速度が速くなる。

 作業の効率化を図るためにツールの更新は大切なのだ。


「ふぅ、ここまでは順調だな……」


 道具の下準備は完了。

 あとは適宜てきぎ素材を集めながら、消耗したツールを更新し続けていく作業となっていく。

 そのためには、集めた材料を保管しておくための拠点が必要になるのだが——


「スイって……どこにいる?」


「んえ……?」


「どっちの方向か分かんなくなっちゃった」


「嘘でしょ!?」


 困ったように翠を見やる星野。

 そんな彼女の画面を見れば周囲は木々に囲まれており、明らかに翠から見える範囲にいないことが窺える。


「向かった方向と逆方向だよ」


「それはそうなんだけどさ」


 翠が星野と視線を合わせると、彼女はスッと逸らして。


「逆方向に向かったはずなのに……いつの間にか森にたどり着いて……」


「ええ……」


 ボソリと呟いた星野の言葉に、翠は内心頭を抱えた。


「えっと、ちょっと言いづらいんだけど……なんで気付かなかったの?」


「だって、私はずっと豚を追いかけてたんだよ? 方向なんてすぐ分からなくなるって」


「あー……」


 なんとなく納得。


 ……たしかに、動き回っていたらそうなるかもしれない。


 四角形のブロックで形作られているこのゲームは、現実のように木々の見た目に大きな差はない。差と言えばブロックの色程度のものなのだ。

 木の種類によって色や、木を構成するブロックの組み合わせは違うものの、同じ種類の木であれば形の違いなんて何パターンかしかない。


「じゃあ、俺が迎えに行くからレンはそのまま動かないで」


「わかった。木でも切って待ってる」


 置いていた作業台を回収して、星野が向かっていった方向へ。


「夜になる前に合流しないと」


 今回、二人でやるにあたってコラボの時と変えている設定がある。

 それが敵の出現の有無。

 このゲームには自身に突進してくるゾンビや蜘蛛。矢を射ってくるスケルトンなど、様々な敵がいる

 それらは暗いところで湧くのだ。。

 夜になんてなってしまっては、もうそこら中から敵が襲ってくることになってしまう。


「近くになにか特徴的なものってあった?」


「うーん……」


 隣で鳴っている木を切る音をBGMに、星野は頭を悩ませる。


「そういえば……」


「そういえば?」


「川があったかも」


「川かぁ……」


 かなり大雑把なヒントに思わず苦笑してしまった。


 ……いくら何でも絞れる範囲が大きすぎる。


 とはいえ、元々特徴的なものが作られにくいゲームではあるのだ。

 無いものねだりをしていても仕方がない——そう思いなおし、翠はキャラクターを走らせ続けた。


 そして、星野と話しながら探し続けた結果。


「……あった」


 川が近くにある森。

 星野が話していた特徴と合致する地形を発見した。


 走り続けてきたため空腹度はギリギリ。すでに走ることが出来ない状況になっている。

 それに、時間は夜に変わった直後。


「早く合流しないと」


「やばい! 敵出てきた!」


 星野の悲鳴。

 彼女の画面を見れば、すでにゾンビ二体が迫ってきていた。


「どうにか耐えて!」


「うん!」


 森の中へ。

 夜になってしまった光源の無い森はとても暗い。

 ゲームである以上最低限の視界は確保されているものの、人を探すには適していないのは明白だった。

 それに走れない状況。


「ほら倒れて! ああ!? 増えた!」


「今探してるから!」


 戦っている星野を横目で見る。

 彼女の表情は必死で、それが翠の中の焦りを大きくさせる。

 そうしてるうちに、翠の元にも敵がやってきて。


「俺のところにも来た!」


「こっちもヤバいって!」


「こうなったらとにかく逃げよう。とにかく生き残らないと!」


「わかった!」


 方針変更。

 同時に翠は敵がいない方向を目指し、星野も走り出した。


 その十秒後。


「「あっ」」


 翠と星野はお互いに鉢合わせた。

 最初の合流するという目的は果たせた。しかし、お互いが敵を背後に引き連れている状況。

 つまりそれは、退路が断たれたということを表していて。


「これどうするの!?」


「俺に聞かれても!」


 二人は群がる敵と戦わざるえない状況に。


 翠は剣を持っているが、走れないという状態。

 星野は走れはするが、剣を持っていないという状態。


 お互いにお互いの状態を改善できるのに、それをしている暇が無かった。


「ああ……」


 星野の残念そうな声と共に、頼みの綱が事切れる。

 倒れたのが翠であったのならば可能性があったかもしれない。そうすれば翠の持っているアイテムが落ちて、彼女が拾うことが出来たから。

 しかし、残されたのは翠だった。


 周囲を囲われた状況では星野の落とした食材を食べる暇がない。

 距離を取ろうにも、翠は今走れないのだ。


「あっ? やばっ……」


 聞こえてきたシューという音に気が付いた時にはもう遅かった。

 直後、爆発音。

 翠もやられてしまい、初期位置へ。


「「…………」」


 若干放心状態で、翠は星野と顔を見合わせる。


 手持ちのアイテムは何もない。

 それに、落としたアイテムは一定時間経つと消えてしまうのだ。今から取りに行っても間に合わないし、あの数の敵がいる中取りに行くのも自殺行為だろう。


「設定……敵が出ないやつにしようか?」


「……そうだね」


 まだ敵と戦うのは早かったらしい。

 顔を見合せながら、二人で力なく椅子に寄りかかった。

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