第13話 対照的な進捗 【Water lily×赤王子④】
「とりあえずは道の整備かな?」
翠は星野から距離を取り、先程置いた区分けのブロックの元へ。
大まかに区分けしたおかげで道としての形は分かるようになった。しかし。一目で分かるような分かりやすいものではない。
地面と同じブロックで区分けしたので当然といえば当然なのだが、このままだと味気ない道となってしまう。
「えっと、これかな?」
自身の持ち物を開き、その中から選んだのは白色のハーフブロック——正四角形のブロックを半分にしたものだ。
「これなら、城の色とも合うしね」
一つ壊して、置き換える。
それを繰り返していけば、徐々に灰色の地面に白い境界が引かれていく。
そうして全て置き換え終えると、今度は一マス開けて並列に同じブロックを並べていった。
こうして出来上がったのが、白い長方形。
三×五マスの長方形を中心の噴水から十字に伸びる道に並べ、長方形の間を三マス空けて途中を抜けられるようにする。
「今度は木かな」
次は、木を植える作業。
長方形の中を土に置き換え、その上に木の柵を並べる。
これは、一マスの幅しかないところにブロックを置いてしまうと、せっかく置き換えた土が見えなくなってしまうためだ。
こうして並べた柵の上に葉っぱを置いていけば、遠目に見れば生垣のように見えなくもないだろう。
「レンは大丈夫かな?」
並べた長方形のすべてに木を植え終えた翠は、星野の進捗が気になって手を止めた。
翠が作業を始めて多少時間が経っているから、彼女の作業も結構進んでいるのではないか?
そう考え、道の交差する中心へ目を向けると。
「ええ……」
そこには、巨大なオブジェが出来上がっていた。
上部から水が噴き出し、その水を下で受け止めるのが噴水のはずだ。
ただ、いま翠の画面の先にそびえ立っているのがただの岩の塊にしか見えないのは何故だろう。
正確には石レンガの塊なわけだが。
「レン……大丈夫?」
「ん?」
嫌な予感がして翠が声をかければ、星野が手を止めて翠を見る。
その表情はとても楽しそうではあるのだが、今は逆に不安を駆り立ててしまう笑顔でもある。
そんな翠の表情を察したのか、星野はスゥと目を逸らして。
「だ、大丈夫だよ。今は色々と試行錯誤してるだけだから……うん、大丈夫大丈夫、最後にはちゃんとしたものになってるよ……たぶん」
「たぶん?」
「あ、いや、大丈夫だから! 気にしないで! ね?」
笑顔で顔を傾けさせる星野。
……口元が若干引きつっているのは気のせい?
そんな疑問が浮かんだ翠は、気付くと口を開いていた。
「ほんとに大丈夫?」
「だから大丈夫だって! 信用してってば! ……スイは自分の仕事をして、私は大丈夫だから!」
頬を赤く染めてピシャリと言い放った星野は、その視線を画面へ戻す。
どうやら怒らせてしまったようで、赤く染まった頬の下、唇は引き結ばれて視線はいつもより鋭い。
「…………」
翠は少し肩を落とし、画面に戻った。
そうして、作業を再開させてしばらく経ち——。
「道はこんな感じかなぁ? あとは外側かな?」
ある程度の装飾を終えた翠は十字に伸びる道の外側へ。
ほぼ正方形の土地を草に置き換え、中心へ向かって細い道を引いたところで一度手を止める。
「あとは、ここからどうしよう……?」
背は低いながらも木に囲われたこの場所は外からは見えない。つまり、一種の個室のようなものだろう。
とはいえ、ここは外。それなら作れるものも限られるわけで。
「うーん、テーブルとかかなぁ……」
二分ほどの時間をおいて、翠は作るものもイメージを固めた。
「せっかく木々に囲まれてるんだから、落ち着いてお茶が出来たらいいよな」
理想は木々の隙間から吹く風を感じながら、ゆっくりと紅茶を嗜むイメージ。
白いテーブルに白いイス。ティータイムをするのにぴったりな風景。
「出来るか分からないけど、頑張ろう」
まずはテーブル。
白色の柵を一本立て、その上に同じく白のカーペット。
次に白色の階段状のブロックを置き、それは椅子をイメージ。
ここまではそこまで時間をかけずに作ることが出来た。
ただ、このままでは直射日光を浴びて紅茶を飲むことになる。
「それは嫌だな」
せっかくなのだから涼し気な感じがいい。
翠はテーブルの近くに大きな木を植えることにした。
ただ、翠には木の成長するシステムも、どうやって植えればいいのかも分からない。
そのため、直接木のブロックを積み上げ、木を作り出していく。
二×二を基本に。しかし、まっすぐに伸ばしてしまうと違和感がある。。
少しカーブさせるように積み上げていき、ある程度伸ばしたところで横に枝をのばす。
何度も積み上げては離れて確認するという行為を繰り返し、ようやく翠は木の形を作り上げた。
「ふぅ、疲れた……」
慣れないながらも頑張って作り上げた木は、我ながら会心の出来だ。
その木を見上げ一息。翠は集中していた分の疲れを吐き出した。
そして、残りの葉っぱを付ける作業に戻ろうとした時。
「ははは、凄いじゃないか」
「シオンさん」
不意に掛けられた声に手を止めると、いつ間に来ていたのか、紫音が翠のすぐそばに立っていた。
「ほぼ初めてなのにここまでやれるのは凄いよ」
「そ、そうなんですか……?」
慣れない称賛の言葉に、翠の口調はぼそぼそと少し小さいものになる。
すると、紫音から笑い声。
「ははは! 本当に凄いよ。テーブルにカーペットを使うなんて初心者には思いつかないんじゃないかな? もしかして、色々動画を見て勉強してきたとか?」
「い、いや、なんか使えそうかなって」
「素晴らしい! これなら今後もちょくちょく手伝ってもらいたいな! どうだろう? レン君とではなくて私と一緒に活動しないかい?」
「そ、それはちょっと……」
翠は紫音の勢いに後退りしながら、どうにか言葉を絞り出す。
「ははは、振られてしまったね……まあ、勧誘は今後も出来るからね。今度はレン君の仕事を見ることにしようか」
本気なのか、そうでないのか。
判断のつきにくい変わらぬ笑い声と共に紫音が回転。
その視線を翠の作業をしている反対側、星野が作業しているはずの道の中心へと向けた。
「これならレン君のほうも期待できそうかな? ちょっと不安だったんだけ、ど……」
徐々に勢いを無くしていく紫音の声。
その声に思い当たる節があった翠は彼女に追従し、同じ方向を見た。
「ええ……」
「えっと、何を作ろうとしていたのかな?」
星野の作る噴水……の予定だったオブジェ。
その姿は、先ほど見た時よりも進化していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます