第12話 装飾開始 【Water lily×赤王子③】
「君たちにはここの装飾をしてもらいたいんだ」
見上げるほど巨大な城。
壁は白い石造りで、窓にはめられたガラスは光の演出だろうか。白い点が散りばめられている。
正面の入り口は翠が五人並んでも余裕で入れる大きさで、丘を登りきった現地点から入り口まではブロックにして三十といったところだろうか。
一ブロックが一メートルらしいので、距離にして三十メートル。
まっさらな石造りのそれを紫音は見つめた。
「スイ君が初心者なのは分かってるし、レン君もそんなにやってないのも分かってるんだけど……他にやれるところが残ってなくてね」
少しばかり申し訳なさそうな声音。
彼女は口には出していないが、おそらく翠たちがコラボの最後になっているのが関係しているのかもしれない。
本来なら最初に初心者に手伝ってもらい、最後に慣れた人に手伝ってもらえば綺麗に出来るのだろうが……。
「まあ、私たちが最後だから仕方ないですよね」
「察しが良くて助かるよ」
ははは……と、紫音の控えめな笑い声。
「せっかくいろんな人に手伝ってもらっているから各々の個性を出してほしくてね。ある程度雰囲気を壊さない程度なら好きに作ってくれていいよ。材料は入り口の所にチェストが置いてあるから、そこから使って」
紫音について行き、城の中へ。
「うわぁ……」
一番に目に入ったのは、大量の宝箱だった。
赤い絨毯がのび、奥へ続いている城の内部で左右に積み重なっている宝箱。
その一つへ星野が近づいていく。
「これ、全部シオンさんが集めたんですか?」
宝箱——チェストを閉じ、呆れたような声を漏らす星野。
(呆れるほどの中身ってなに?)
いったい何が入っているのだろうか?
翠は、おそるおそるチェストに近づいていく。
そして、中を覗いてみると。
「…………すご……」
チェストの中は、城の壁と同じブロックがびっしりと敷き詰められていた。
他のチェストも確認してみると、同じように一種類のブロックでチェストを埋め尽くしている。
そして、見る限り三十個以上は並んでいるチェストたち。
「まあ、これくらいたいしたことないさ。それに、これでも厳選して入れてあるんだ。城の中にはもっと大きな倉庫があるよ」
唖然とする翠に追い打ちするように、紫音。
「とりあえずはこれで装飾してもらって、足りないものや欲しいものがあれば私に言ってもらえれば取って来るから……あと、君たちがどんなものを作るのか楽しみたいから、少しの間別行動しようか」
「「え?」」
星野と声が重なった。
どうやら彼女も聞かされていなかったらしい。
「じゃあ、頑張ってくれたまえ」
「ちょっと!?」
ピューといった擬音が似合うほどの勢いで、城の奥へ走り去っていく紫音。
星野の制止も虚しく、赤いキャラクターは見えなくなってしまった。
「…………」
星野は何か言いたげに口をパクパクとさせながらも、その口からは何の声も発せられない。
翠は彼女にかける言葉を探し、少し悩んだ後。
「えっと、始める……?」
「シオンさんのあほー!」
二人きりの室内で、星野の声が木霊した。
そこから数秒。
「本当に私たちを置いていったよ!」
「ははは……」
眉を吊り上げ怒る星野に、翠は引きつった笑みを浮かべた。
彼女が怒るもの分かるのだ。
自由に作っていいとは言っていたものの、ここにいるのはこのゲームにあまり詳しくない二人。さらに翠は少し練習したとはいえ、初心者だ。
それがいきなり「自由にやっていいよ」と言われたところで、どうすればいいのか分からない。
「こんなことになるんならもう少し勉強しとくんだった! 花壇の作り方とか、噴水の作り方とか!」
不満を漏らしながらも、星野はチェストを漁り出す。
文句を言いながらも手を動かしているのは、おそらく動画の事を考えているからだろうか?
そんな彼女を見習おうと、翠も続いてチェストを開く。
「レンはどういう感じで作ればいいと思う?」
「うーん……まあ、思いつくのは真ん中に噴水とか……そこから十時に道をのばして、端は木を植えてとか?」
首をかしげながらも、少しづつ案を出していく星野。
「とりあえず、大雑把に区分けしようか。ここは噴水とか、ここは木とかって」
「分かった」
方向性が決まったところで、翠はチェストからブロックを取り出していく。
石のレンガや木、それに土や葉っぱなど……とにかく大量に入っているブロックを適当に選んでは持ち物へ。
そうして大量のブロックを取り出してから城を出れば、すでに星野が区分けを始めていた。
「円を描くのってむずかしい!」
「ははは……」
装飾を頼まれた広場、その真ん中で歪な円を描いている星野。
彼女の姿に笑みをこぼした後、翠は中心に作られた五角形の方へ。
「じゃあ、俺は道の方を区分けしていくね」
一声かけ、星野が作っている円もどきから道が伸びるように、区分けの為のブロックを置いていく。
区分けはすぐに終わり、翠のおいたブロックは城を向いて左右対称に配置され、その真ん中に星野の噴水が配置されるという構図となった。
「レンは……?」
星野の画面を覗き見る。
すると、彼女はいまだに円を描くのにてこずっていた。
区分けしている時から視界には入っていたけれど、彼女の作る円は継ぎ足しを繰り返しているうちに巨大化。せっかく引いた道を塞いでしまうほどの大きさになってしまっていた。
「だ、大丈夫……?」
「大丈夫、大丈夫! 私はこのまま噴水を作るね」
一抹の不安を覚えた翠が声をかければ、帰ってくるのは楽しそうな星野の笑顔。
彼女の笑みと現状の差異に、翠の中の不安は大きくなっていくけれど。
「じ、じゃあ、俺は周りの装飾をしてるね」
……星野が言っているから大丈夫。
そう自分に言い聞かせ、翠は自身の画面に集中することにした。
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