レンのパソコン教室 ➁
「じゃあ、詳しく説明していくね」
ディスプレイと星野。
その間を往復している翠の視線には構わず、星野はカメラに向かって説明を続ける。
「これを思いついたのはね……スイの幼馴染の彼。ほら、一緒に服を見に行ったって話したことあったでしょ? 彼からスイは機械音痴だって聞いたからなの」
『分かるかも』
『そんな感じするww』
『解釈一致www』
「いや、納得しないでよ……」
満場一致で肯定するコメント達に翠は肩を落とす。
「誰だって苦手なものはあるだろ?」
「でもスイのは異常だって聞いたよ?」
即答する星野。
どうやら彼女は翠の事を恭平から色々と聞いているらしい。
翠が心の中で恭平への報復を誓ったところで、星野は翠に向けていた顔をカメラに戻した。
「今は私とか編集さんが編集してるけど、いずれはスイも出来るようになった方がいいと思うからね。だから、スイにパソコンの使い方を教えようって話だよ」
『888888』
『うおぉぉぉぉ!』
『草』
相棒の言葉に盛り上がるコメント達。
その盛り上がりについていけない翠は、何も言わずコメントを眺めていることに。
すると、流れるコメントの中にずっと気になっていた言葉が。
「……草って何?」
『草草草』
『wwwwww』
『もう決まりじゃんw』
「え? 知らないの?」
翠としては何気なく聞いたつもりが、星野まで驚いた顔で翠を見ている。
……なんでみんなそういう反応なんだ?
意味が分からず首をかしげると、彼女はわずかに眉を寄せた。
「いや、だって今までの動画のコメントにもあったよね? スイだって見てるでしょ?」
「あ、うん……いや、どういう意味なんだろうと思って見てた」
「…………」
星野の表情が固まった。
だって仕方がないだろう。
いままで動画を見ることはあれど、コメントなんて気にしたことが無かったのだ。
翠が言葉に困っていると、星野は固まった表情を笑顔に変えてカメラの方へ。
「……ということで、ご覧の通りスイはこんな感じなので、苦労しそうですが教えていこうと思います」
「え……?」
『諦めたwww』
『これはしょうがない』
『スイちゃん困惑w』
翠は再び星野とコメントを往復。
しかし、彼女は答えてくれず、コメントは進行に戻ったことに対する反応ばかり。
「……スイには後で教えておくので企画説明に戻ります。もう説明はいらないと思うけど……スイがこんな感じなので、このノートパソコンを教材にして私が教えていきます」
若干疲れたような声を出す星野は、ノートパソコンを視聴者が見えるように反転させる。
「さて、気付いた人も多いと思うのでこれも説明してくよ。なんで古いノートパソコンかというと、スイの幼馴染の彼から壊れてもいいやつにしとけと言われたからです」
「そんなこと言ってたの?」
「うん、とりあえずスイは黙ってようか」
「あ、はい」
ジト目で返され、すぐに口をふさぐ翠。
そんな二人のやり取りに、当然コメントが黙っているわけもなく。
『あたり強くない?』
『www』
『いいぞもっとやれ』
「ええ……」
速度を上げて流れるコメントに翠は困惑。
どうやら視聴者は翠が責められることを望んでいるらしい。
……どうしてこうなったんだろう?
身に覚えは最初からあるものの、翠としてはこの流れは望んでいないのだ。
とはいえ、翠にはどうしようもないことなわけで。
「レン……レン……コメントが……」
翠は小声で星野に助けを求める。
すると、彼女は表情を呆れたような苦笑に変えた。
「しょうがないなぁ……はいみんな、説明に戻るから落ち着いてね」
星野にたしなめられて止まるコメント。
だがそれも一瞬で、すぐにコメントが動き出す。
『全部聞こえてるんだよなぁ……』
『www』
『おい、言うなよw』
「えっ!?」
……聞こえてたの!?
助けを求めていたのが聞かれていたことを知り、翠の顔が赤く染まった。
すると、一気にコメントの勢いが増し——
『真っ赤になってるw』
『ありがとうございますw』
『最高www』
『たすかる』
『美少女の赤面いただきましたw』
「えっ? ちょ、ちょっと!?」
「あはは……」
怒涛の如く流れていくコメントの嵐。
そんな状態に面食らい、翠は隣に助けを求めるけれど、唯一の助けである星野はコメントを見ながら困ったように笑っていて。
「ちょっと!? 止まってくれよ!? ねぇ! ねぇってば!!!」
翠は必死に止めようと声を大きくするけれど。
『www』
『みんなもっとやれw』
『スイちゃん可愛いよ』
『レンちゃん止めないの草』
「ほんと勘弁してって……!」
ちょっとした視聴者の悪ふざけは、真っ赤になっている翠が震えだすまで続いた。
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