第9話 動画を見た反応は




 初めに——


 すいません、最後ちょっと下品です。


 では、本編をどうぞ——




 初めての撮影を終えた翌日。


 アルバイトを終えた後、翠は入浴を終えて自分の部屋に入ると。


 ピコン——!


 高校生にしては古臭い通知音が翠を出迎えた。

 その音を聞いた翠は几帳面に整えられた部屋を進み勉強机へ。


「ふう……」


 肩にかけられたタオルで濡れた髪に滴る水滴をふき取りながら腰を下ろすと。


「そういや九時に公開するって言ってたな」


 思い出したように翠はスマホを手に取る。

 時計を見れば時刻は丁度九時を回ったところ。


 昨日、撮影を終えた後に星野に言われたのだ。


「ぜひ視聴者のコメント見てみてほしい」と。


 その言葉を思い出した翠はスマホを操作してアプリを立ち上げる。


 そして、星野のチャンネルと検索すると——


「おっ、あった」


 ちょうど先程投稿されたばかりの動画が。

 翠が迷いなく『相棒の紹介だよ!!!』というタイトルをタップすれば、少し暗転した後に並べられた椅子に座る二人の少女が映し出された。


「は……?」


 固まる翠。

 しかし、無情ながら動画は止まることなく。


『あれ? どこ行った?』


 撮影前のはずの二人のやり取りを映し出す。


「は? えっ?」


 意味が分からない。

 なんで撮影前のやり取りが画面に映っているのか?


 疑問で頭の中が埋め尽くされながらも震える手でスマホを支えながら動画を眺める。

 編集で字幕や効果音などがつけられた映像は、翠が撮影を始める決心をつけるまでの間を飽きさせることないように工夫されていた。


「あれ……?」


 そこで翠は気付く。


「俺は?」


 動画に映っているのは二人の美少女。

 そこには翠の姿は無くて。


「いや……」


 翠は首を振る。

 間違いなく自分は動画に出ていたはずだ——そう考えなおして再び動画に目を向ければ。


『いやだって怒ってないんでしょ? 撮影準備は終わったし後は『スイ』の気持ち次第だよ?』


 二人の美少女が座っている画面が映し出されている。


「いや……嘘だ……」


 信じたくないだけで翠は動画に映っていた。

 紹介されている星野の相棒として。


「…………」


 手の震えが抑えられない。

 こんなはずではなかったと思っても、すでに公開された動画は無かったことにはできなくて。


 翠は大きく息を吐く。


 そして——


「な、なんじゃこりゃあぁぁぁっ!!」


 周囲にまで響き渡る絶叫を上げた。




 *   *   *




「ぎゃははははっ! お、おまっ、ふふ……くふふふふふ、ひっひ、お前……くっ、ぐふっ、お前さぁ! あーはっはっはっはー!」


「うるせぇよ……」


 目の前で爆笑する悪友を翠は仏頂面で睨みつける。

 動画が公開された次の日、教室で顔を合わせた瞬間にこれだ。

 クラスの注目の的になっている目の前の幼馴染は、それを気にする余裕もなく笑い転げている。


 たしかにきちんと確認しなかった自分が悪かったのかもしれない。


 今思えば、星野は準備を終えてから撮影開始まで一度もカメラに触れていなかった。

 カメラに触れていなかった以上、始めからカメラが回っているのに気づいてもおかしくはないだろう。

 化粧についてもきちんと確認させてもらえば気付けたはずだ。

 完全に星野が悪いわけではないのは理解できる。


 できるのだが……


「お前……いつまで笑ってるつもりだ……」


 目の前で転げまわっている親友だけは納得がいかない。


(星野が事務所に所属しているってのは噂だったし……まあ、ほんとに所属してたけど)


 だから自分の女装姿は目の前で爆笑している奴しか知らない。

 そう思ってもバレる恐怖は拭いきれない訳で。


(マジでバレたら中学の悪夢が……)


 翠が中学生の時、翠はその優れた相貌からかすごくモテた。

 言動は男らしく振舞っているが心配性で面倒見がいい優しい性格。そして、追い詰められた時に出る弱弱しい姿のギャップ。


 運動はできないものの線の細い体つきは大変人気が出ることが予想できる。

 やはり太っているよりも痩せている方がモテやすいというのはいつの時代も変わらない。


 ただ翠はモテすぎた。


 女子からも男子からも……


 そう、男子からもだ。

 それが翠にとってトラウマになっていた。


 フラッシュバックした過去の光景に身を震わせながらも翠は周囲に目を向ける。

 幸い周囲に動画の事はバレていないようだ。


(なら、後は目の前のバカの事だけ……)


 翠は飽きずに笑い続けている恭平を無視して机から普段から溜めていた裏紙を取り出すと。


「いい加減にしろよ……」


 何枚もの裏紙に何かを書いていく。

 そして書き終えると黒板まで歩いていき——


「み、みんな注目!」


 珍しく大声を上げた。

 しかし、始めから注目されていた翠の言葉は空しく、始めから翠にクラス中の視線は集まっていて。


「み、みんな見てくれ」


 翠は少し顔を赤らめながらも黒板に何かを書いた裏紙を張っていく。

 一枚張られていくごとにクラスから何とも言えない声が上がり。


「あははは……ん? なんだ?」


 その様子に気が付いた悪友が黒板に目を向けると。


「んお!?」


 黒板には恭平の持っているエロ本のタイトルが書かれた紙が何枚も張られていた。

 愕然としている悪友に翠はしたり顔を浮かべて。


「少しは反省し——」


「うおおおっ!!!」


 翠が言い終える前に全力疾走で黒板に駆け寄る恭平。


「お前―っ!!!」


「はははっ、頑張って剥がせ」


 必死に剝がしていく悪友に負けじと翠はどんどん新たな紙を張っていく。

 しかし身体能力の差か、少しづつ翠の張っていた紙が減っていって。


「ふぅ……すっきりした!」


「ハァ、ハァ、ハァ……」


 最終的にはすべての紙を張り付けてすっきりした顔で汗をぬぐう翠と、大量の紙を抱えて肩で息する愚かな男の構図が出来上がっていた。


 しかし、親友の性癖を暴露して少しすっきりしたところで現状は変わらない訳で。


 それなら——


「よし! 学校終わったら行ってこよう!」


 社長に直談判することを決意した。


(そのためにはまずは星野に話付けなきゃな)


 さすがに一人であのビルに行く度胸は無いため、付き人として星野にアポを取ることにする。

 しかし、今は授業前。しかも授業まで余り時間がない。


 星野も元へ行くのは後にした翠は、とりあえず今やるべきことをすることにして。


「えっと……」


 翠は思い出すように顎に指をあてると。


「君を縛りたい…………後は……メイド……なんだっけな……あっ、メイドインア——」


「やめるぉぉぉぉぉぁぁぁぁあっっ!!!!」


 まだ発表していない悪友の秘蔵コレクションを暴露していくのであった。






 この後、翠自身中を見たことがないのでいまいちわかっていなかったが、タイトルを読み上げたせいで翠の趣味もそっち方面だと誤解されたのはまた別の話……






 作者の挨拶——


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