第6話 撮影準備は悲しみの時間




 初めに——


 一つご指摘がありまして、少し書き方を変えてみました。

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 こちらの方が良いという人が多かったら、前の話とかもこっちに変えようと思っています。

 それでは、本編をどうぞ。

 

 

 



 翠は星野に連れられて一つ下のフロアへ。


「さっきの階とここが『Suiren』のフロアだよ。こっちは撮影部屋とか小道具とか、あとは衣裳部屋とかかな?」


「…………」


 いくつもの扉がある廊下を、顎に指をあてて思い出す素振りをしながら歩いていく星野。

 その後ろで翠は説明を聞きながらキョロキョロと視線を彷徨わせていた。

 

「基本的に使うのは自由だけど、撮影部屋だけは事前に言っとかないとダメかな。部屋がかぶっちゃうと大変なことになるから。まあ、誰も使わないことが確認できれば大丈夫だけど……あっ、ここだよ」


 星野が不意に歩みを止める。

 突然止まった彼女に慌てて翠も足を止めれば、そこには衣裳部屋と書かれた扉が。


「えっと——」


「ささ、入って入って~」


「ちょっと!?」


 翠が告げる間もなく星野が手を引いて扉の向こうへ。

 突然手を握られたことに驚きながら衣裳部屋に引き込まれると。


「うわ、まっ暗!」


 部屋の中は照明が点いておらず真っ暗だった。

 翠が声を上げると、すかさず星野が部屋の照明をつける。


 すると、暗い部屋に一斉に明かりが灯り、部屋の内部が鮮明になって——

 

「うわっ……」


 突如目に飛び込んできたのはドデカい着ぐるみ。


 誰が着れるんだと思う程大きい着ぐるみに翠が及び腰なると。


「驚いたでしょー?」


 その様子を見た星野が楽しそうに笑った。


「それはねー、作ったのはいいものの誰も着れる人がいなくて衣裳部屋に置いたまま誰も使ってないの」


「勘弁してよ……」


 驚きから涙声になる翠。


「誰がこんなデカい着ぐるみ着るんだよ……ちくしょう……驚かせやがって」


 驚かせてきた元凶を睨みつける。

 睨みつけたところで相手は何も反応は返さないが、驚かされてご立腹な翠にとっては必要な行動だった。


 そんな翠の行動を微笑ましく見ている星野に気が付くことがないまま、少し落ち着いてきた翠はようやく他の場所へ目を向ける。


 すると、目に映るのは大量にかけられた衣裳。

 その衣装の大群に翠は感嘆の息を漏らす。


「おお、すごいな……」


「でしょでしょ! 違う事務所の友達に聞いたけど、ここまでいろんな衣装がそろってるのって他にないらしいんだ」


「へぇ……」


「とりあえずここから衣裳を選んでもらって、それから撮影かな? ちなみに衣装はきちんと返せばいったん持って帰ってもいいから自由に使ってね」


 ニッコリと微笑みかける星野。

 翠はそんな星野の顔から眼をそらして。


「ま、まあ……とりあえず見てみるよ」


 翠は衣装部屋の中を見て回ることにした。




 そして数分後——




「星野……」


「ん? どしたの?」


「えっと……」


 結局何も衣装を持つことがないまま星野の元へ戻った翠は言いよどむ。


 確かに色々な衣装があった。あったのだが——


「なんで女物しかないの……?」


 顔を引きつらせて問いかける。


 そう、これだけの衣装があるのにもかかわらず女物の衣装しかなかったのだ。

 初めは女物の衣装が多いなと思っていただけだった。

 三分の一ほど見て回ったあたりで何か嫌な予感がし始め、三分の二を見終わった時点で確信に変わった。


 詰め寄る翠に星野の反応は——


「あー……」


「いや、なんで目をそらすの……!?」


「いや、ごめん忘れてたーごめんねー」


「棒読み!?」


 膝から崩れ落ちる。


(もう帰りたい……)


 しかし、話を受けてしまった以上ここで断るわけにもいかない。

 とはいえ、これ以上自分で探すのは難しいのは確かで。


(つーかここは衣裳部屋だろ……なんで下着まであるんだよ……)


 見て回っていた最後に見た光景がフラッシュバックする。

 棚に積まれた女性ものの下着が目に入った時、翠は言葉を失った。


 そのため、探したくないという気持ちもある。


「……? 顔が赤いよ? どうしたの?」


 不思議そうに首をかしげる星野に目もくれず、翠はこの苦境を乗り越える方法を考えて。


「そうだ!」


 思いついた。


「へ?」


「星野っ!」


「ひゃい!?」


 翠はガバッという擬音が付くのではないかと思うほどの速度で星野の両腕を掴む。

 突然の翠の行動に星野が顔を赤くするが、状況の好転しか頭にない翠は気が付くことなく、真剣な表情で星野を見つめて。


「えっ、えっ!?」


 慌てふためく星野に翠は次第に顔を近づかせていき。


「…………」


 星野が目を閉じたところで——


「一緒に衣装を探してくれ!」


「へっ?」


 この状況を好転させる方法を告げたのだった。




 *   *   *




 思えば簡単なことだったのだ。

 先程の下着を見つけてしまった時のようなことは避けたい。そして、初めてここに訪れた自分ではいい衣装を見つけることは難しい。


 ではどうするか——


 そう、知っている人に探してもらえばいいのだ。

 そうすれば自分は恥ずかしい思いはすることは無いし、自分の求めている衣裳を見つけることも出来る。


(うん、我ながらいい考えだった)


 動画に出るのに協力するのだ。これくらいは協力してもらわなければ。


 翠が心の中で頷いていると、衣裳部屋の奥から星野が戻ってきた。

 しかし、少し様子がおかしい。

 彼女は冷たい目を携えながら衣裳を握った右手をつき出すと。


「……はいこれ……」


「あ、ありがとう」


「とりあえず確認してみて……ダメだったらまた探してくるから」


「あ、あの……星野さん? なんでそんなに不機嫌に?」


 あからさまに先程とは態度が違う星野に、翠はおずおずと問いかける。

 そんなに衣裳を探すのが嫌だったのだろうか。そんな見当違いの考えをしている翠に星野は背を向けて。


「……知らない、自分で考えたら」


「で、でも……」


「…………」


「うう……」


 背中越しで向けられた星野の鋭い視線に涙目になる翠。


(ええ……なんでこんな怖いの!? 俺、何かやっちゃった?)


 先程まではニコニコとしていた彼女の豹変ぶりに狼狽えながら視線を右往左往させる。


 そんな翠を見ていた星野が、観念したようにため息を吐いて。


「分かったから早く確認してよ。別に怒ってないから」


「ほんとにぃ……」


「本当だから」


「わかった……」


 呆れながらも告げられた星野の言葉にようやく安心した翠は手にもって衣裳を確認していく。


 星野から渡された衣装は、デニムパンツに白いシャツ二種類だった。

 パンツの方は女性もののサイズではあるものの、男性の中では小柄の翠なら問題なく穿くことが出来る。

 次にシャツを確認すれば、片方は白のYシャツだった。


(これって衣裳って言えるのかな?)


 ただの私服では? 

 そんな疑問が浮かびつつも渡されたもう片方のシャツを広げる。


「…………」


 シャツ自体は前面に文字がプリントされた何でもないTシャツだった。


 星野を見る。

 もうすでに機嫌は治っているようで鋭い目はしていない。


(聞いても大丈夫かな?)


「ねぇ、星野」


「ん? 何?」


「あのさ……」


 首をかしげる星野からシャツへ視線を移して。


「なんで大きくと『ヘタレ』って書いてあるTシャツなの?」


「…………」


「いや、こっち見てよ」


 あからさまにそっぽを向いている星野を、翠は半眼で睨みつける。

 それでも星野はこっちを向こうとはせず。


「いやー、あったのがこれくらいでさぁ……」


「……じゃあ、なんでこっち見ないの?」


「…………」


「いや、今更こっち見ても遅いって……」


 笑いをこらえながら翠を見つめる星野に、今度は翠がため息を吐く。


「まあいいや。じゃあ俺はこっち着るよ」


 そう言ってYシャツを掲げると。


「えー」


「えーじゃない。やだよ……なんだよ『ヘタレ』って」


 残念そうに声を上げる星野を無視して、翠は先程見つけていた試着室と書かれたカーテンの向こうへ。

 そして衣服を脱ぎ、渡された衣装に袖を通していく。


「普通に穿けちゃうんだよなぁ……はぁ……」


 女性ものが問題なく穿けてしまう自分にため息を吐くと、翠は自分の衣服をたたんでから試着室を出ると——


「ほぉう」


 そこには星野の感心したような顔が待っていた。


「な、なんだよ……」


「いやー、似合ってるなって……首元がエロいなぁ(ボソッ)」


 細身の翠にデニムパンツとYシャツが予想以上に似合っていた。

 特に首元から見える素肌がかなりエロい。


 ——髪がボサボサじゃなかったらもっとやばかったかもしれない。


 星野はそんな内心をおくびも出さずに、笑みを浮かべたまま翠に近づいていく。


「え? 何?」


 何か嫌な予感がして後退る翠。

 後退る翠に詰め寄るように下から顔を近づけた星野は——


「よし、じゃあ後はメイクだね♪」


「え“……」


 翠にとって死刑宣告のような言葉を口にした。






 作者の挨拶——


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 又、こうした方が良いなどのアドバイスをいただけると嬉しいです。


 

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