第1話 双女異変!?

「んっ!んーーー」



 今日は月曜日。


 激動と多忙の1週間を終えて暇も与えずにやってきた。

 いつもなら怠惰に駄々を捏ねているだろうが今日は違う。

 一通りデートも終わらせたことや、日曜日にしっかり休息(午前は病院、午後バイト6時間)取る事が出来たので、すこぶる調子が良い。



 だから今日は何ともいい気分。

 思わず登校中に思いっきりだらしない背伸びをしてしまうほどに




 しかし




 少しだけ小骨のように引っかかっている事がある。



 それは今日の運勢がすこぶる悪いことだ。

 朝のニュース番組の占いでは最下位。

 試しにそのニュース番組のジャンケンタイムに三回程挑戦したが全て負けた。



 いや流石にと思って色々なサイトで占った結果

 どれも最悪の結果だった。


 こうなるとバーナム効果関係無しに

 不安がこみ上げてくる。


 お腹いっぱいを通り越して今にも吐きそうなのに、これ以上キャパを増やすのは断じて認めたくない。


(ま、占いは所詮占いだし?別に行動次第では回避できるかもだし?大丈夫だろ......多分)




 っとどうこう考えている内に九条さん宅である豪邸が見えてきた。

 あいもかわらずの別世界のような家に内心『なんでここに建てた?』とツッコミたくなるが寸前でぐっとこらえた。その理由は



「え?九条さん?.......なんで門の前で立ってんの?」



「え、えぇ。まぁそういう気分の日もあるのよ」




 門の前に九条さんが立っていたからだ。

 彼女は門の壁に寄りかかり、しきりに手鏡と腕時計を確認していた。

 まるで恋人との待ち合わせを待つ恋する少女のような行動。


 明らかに不自然すぎたので俺からつい声を掛けてしまった。




 ~~~~



 立ち話もなんだし、一緒に歩き始める。




「「.............」」



「「............」」



「「............」」





 いや気まずいって




 いつもなら九条さんが話を振ってくるだろうに、今日は何も言わない。

 ただ丁寧に手入れされてある金髪をよじりよじり弄っているだけだ。



 ここまで気弱そうに見える九条さんを見るのはデートぶりである。まぁ二日ぶりなんだけど。



 ちなみに俺は九条さんの隣を歩いている。

 いつも通り2メートルくらい距離を取って歩こうと思ったら、彼女から隣で歩くよう指示された。意味が分からない。



「......デートどうだったんだ?」



 この空気を脱する為に俺がそう聞くと彼女はツゥーと顔を赤くした。

 やはり意味が分からない。あのデートでそんな変なことあったっけ?

 んーもしかしてお化け屋敷のやつか?別に恥ずかしい事だとは微塵も思わないけど。



「す、すごく楽しかったわ!!おかげさまで!!」



「いや近い近い!!距離間バグってない?」



「あ、ごめんなさい.......」



 と言って彼女はしゅんとなった



 じゃないってどう見てもおかしいだろ!!!

 いつものあの理不尽はどこへ行った!?


『デートどうだった?貴方が聞いて何になるの?』


 くらい言ってくるだろ普通............普通



 俺の普通の定義がズレてきてねぇか?



「ま、まぁ本当に有意義な時間だったわ」


「役に立てたようで何よりってことで」



 俺がそう言うと九条さんは俺の顔をじっと睨んできた。

 今日は髪も一切セットしてないし、眼鏡だし。

 多分バレることは無いだろうけど、心配にならないということはない。

 杞憂で済んでくれればそれでいい。



「あ、貴方はそれが素なの?」



「ん?素?素も何も偽る必要が無くないか?」



「そう......なのね」



 そういうと彼女は顔を引いて、あらぬ方向へ顔を傾ける。隣に並んで歩いているせいで、彼女の顔が良く見えない。



 俺には理解できなかった。



 なんで横に並んで歩くように言ったのか

 なんで態度がこんな素っ気ないのか

 この質問を俺に投げた意図



 俺にはどうしても理解できなかった。





 ~~~~



「っと見えてきたな」



「そ、そうみたいね」



 素っ気ない彼女を不審に思いつつも会話を続けていたらあっという間に学校へ着いた。勿論まだ隣同士で歩いている。俺はもういいんじゃないか?って言ったからな?保険じゃないぞ、本当だ。



 おかげさまで周囲の視線が痛い。

 これはもう天を見上げるしかないだろう。



「『新藤真昼、関東陸上女子100m優勝!高校生記録更新!』か凄いな」


 丁度見上げたそこには大きな垂れ幕が垂れ下がっていた。


 九条さんによるとこの垂れ幕は昨日行われた陸上大会にて進藤真昼が高校生記録を更新したことで急遽作り出された物らしい。日曜日に内職とは......お疲れ様です。


「生徒会の部活動見回りの際に走っている所を観たわ。彼女の走りはとてもダイナミックで美しいものでした。彼女だけ輝きが違うというか、太陽のような存在感があったわ」


 と、こんなことも言っていたのを覚えている。凄いのは良く理解できたんだけど、最後付け加えのように


「で、でも彼女は相当付き合っていく人を選ぶ人らしいから。話しかけたりするのはやめてほし.......やめた方が良いと思うわ」



 と言っていた。



 そんな事言われなくても絶対話しかけない。俺は廊下での※冷たい反応まだ覚えてるからな?

 ※7話



 まあ、口調に棘が無くなって大変聞こえはいいのだが、なんか九条さんぽくないなぁと思ってしまった。そしてそう考えた二秒後に奴隷組の気持ちを少しでも理解してしまったことを自覚し、憤死した。



「俺は2-Aだからここまでだな」


「私は2-Bなのでこれで」



 そう言って俺たちは教室前で別れた。

 その際の教室の視線はまぁ辛いこと辛いこと。



 ただ目線がいつも通りだったのは



「お前まさか女王様仕留めたのか?何を盛ればそうなる!!?」



 いまだに短髪が慣れないノリィと



「か、加賀美君!!おはよう!!!!」



 謎に髪をシニヨンに結っていつもよりほんの少し色気付いた香水の匂いを漂わせている中瀬さんだけだった。



「お、おはよう。何故に二人が一緒にいるんだ?」



 俺がそう聞くと、待ってましたと言わんばかりに身を乗り出したノリィを、更に横からトラックで跳ね飛ばすように中瀬さんが寄ってきた。


 ノリィを軽々と跳ね飛ばすその姿は女神というかブルドーザー。チョウジの肉弾戦車も真っ青である。



「そ、それはね!これからは私も加賀美君たちの会話に混ざっていきたいなって思って!!一緒に清水君と話しながら加賀美君を待ってたの!!」



 すごく近い。


 何故にそこまで近づく?

 君の上半身が俺の上半身にべったりというか、形が歪むほど当たっていることに気付いているのだろうか?否、ワザとの可能性もあるがそれは考えにくい。


 あとその香水の匂いがやけに色っぽいというか。

 まるでお持ち帰りオーケー的なサインを醸し出す為の香水っていうか。



「あ、そ、そうなんだ。まぁ俺は別に前も言ったけど中瀬さんが加わることには異論とかないから大丈夫」



「本当に?本当に大丈夫?」



「うん、勿論」




「加賀美君ありがとうー!!!」



 そういうと彼女は顔をパッと明るくさせて俺に



「「「「「「なぁぁ!!??」」」」」」」


「え?あ?ちょっ?」



「んー!!!(確かにセイ君の香りだぁボソッ)」



 突然の中瀬さんの凶行。


 教室はその意外過ぎる人物の行動に激震が走る。

 そして、教室内は3つに別れた。


 その行動に、ただ驚くばかりの者達。

 何かを察してニヤニヤとし始める者達。



 そして



「「「「「カガミィィィ!!!!!」」」」




 中瀬さんの熱烈的なファンの人間達だ。




「いや!!ちょっ俺は何もしてねぇって!!!!」


 俺は必死に弁明を計ろうとする。教室での立場がこれじゃあ失っていく一方だ。

 俺は少しでも平穏な日々を取りも出す為にあれやこれやと繰り出した。



 だが



「「「「「そんな言い訳が通用すると思うなぁぁぁ!!!!!」」」」」



 ダメだ。聞き耳も持たねぇ。

 どいつもこいつも目が血走ってて正気じゃない。


 このままじゃ俺が袋叩きにされるのが目に見えている。頼むからその手に持っているシャーペンやらコンパスを離してほしい。危ない。




「皆!!!ダメでしょう!!暴力は良くないですよ!!!」



 そんな俺に神の一声が掛かる。

 それは俺から離れた中瀬さんだ。



 彼女はその透き通る声で彼らにそう訴えた。

 その途端、まるで洗脳が解けたみたいに奴らの顔がふにゃふにゃになった。


 洗脳を解いたというよりかは洗脳を上書きしたような一連の流れ。

 改めてこの人の人望の高さを実感した。



「「「「「はい!もうしません!」」」」」



「よろしい!!皆さんいい子ですね!!!!!」



「「「「「はい!!僕らいい子です!」」」」」


 若干効きすぎて怖くもなるが、救ってくれたのは他でもない彼女だ。感謝はしないと仁義が立たない。



「ありがとう中瀬さん。本当に助かった」



「うん。全然大丈夫。でもそれより中瀬さんって呼ばれるの堅苦しいです」



「え?じゃあ何て呼べば」



「愛梨でお願いします」



「え?いやそれは.......」



「ダメなんですか?私は下の名前で呼び合いたいんですけど」




 厳しい。色々と厳しいんだそれ。


 中瀬さんは普段から人の名前を呼ぶ際はほとんどファーストネームの方で呼ぶことが多い。下の名前で呼ぶのは特段仲が良い友達くらいだろう。


 少なくとも男子が下の名前で呼ばれているのは聞いたことがなかった。

 そんな彼女が下の名前呼びを俺だけに解禁してみろ。



 飛車角落ちで余裕で詰む。





 でもなぁ.......





「お願い!!!お願い加賀美君!!!!」



 これだけ必死に頼みこまれると、中瀬さんの純粋な友達と仲良くなりたいっていう思いを踏みにじるようで嫌だ。彼女の想いを尊重してあげたい。



「分かったよ。これからよろしくね愛梨」



「は、はい!!!!大晴さん!!!!!!」











 こうして中瀬愛梨の策略によって二人は名前で呼び合う関係になったのだが








「チッ!!学校での名前呼びを最初に取られるなんて......女狐が」




 教室の後ろの扉からひっそりと覗いている金髪お嬢様ヘアーの女の子には、一切気付いていなかった。










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