第2話 ダマクラカス!?
「はいはいはい!もう時間だから席ついてー!」
今の一連の流れのせいか多少浮足立っていた俺たちに、冷水を浴びせるような一声。
愛梨の行動で多少殺気立っていた人達もこの状況を純粋に楽しんでいた人達も突然のはしごを外すような声に不満が積もる。
だが、それを口に出すことは無い。
なぜならば、発言した彼女がそれ相当の存在だからだ。
「もうSHRの時間よー!早くしないと全員こわーいお説教が待ってるからねー!」
「「「「「はーい」」」」」」
「うむ!よろしい。流石私の生徒達!」
彼女の鶴の一声は瞬く間に教室中へ拡散され、30秒もたたずに全員が自分の席へ戻った。その際、教室後方の扉から金髪お嬢様ヘアの今朝一緒に登校したような人物がこちらをひっそりと覗いていたのが見えた。
彼女は俺と目が合うと、苦笑いをしながらゆっくりと隣の教室へ戻っていった。
(九条さん何故に覗いてたんだろう。あの人なら堂々と入ってくるのが普通なのに)
考えても今日の九条さんの行動は意味不明なので仕方がないと割り切る。
「23....24......28....29......30!よし全員いるね」
声の主は教壇の腕で手を組んで満足そうに頷いている。
そんな彼女の名前は
この2-Aクラスの担任にして新卒四年目の美人教師だ。
絹のように艶がある長い茶髪をおろし、せり上がった胸部は男の夢が詰まっているのではないかと錯覚するほどに大きい。比べていいのか分からないが、中瀬さんより二回りほど大きい。
人当たりも良く、仕事も速く正確な為に先生、生徒からの信頼も厚く新卒四年目ながら多くの人達に慕われている。生徒達からの愛称はレミ先生、何のひねりもないがそれでいいのだろうか?
「やっぱりレミ先生って良いよな。美人だし胸デカいし、それにエリートって感じで」
「俺はあのデカい胸に挟まって永眠してぇよ」
「潔く自殺しようとするな」
「お姉さんって感じがして良いわあ」
「学校の疲れをその胸で癒してほしい」
「四大アイドルいなかったら間違いなく惚れてた」
「「「「間違いない」」」」
教室中からボソボソと男子生徒を中心に様々な声が聞こえてくる。
美人やら胸やら胸やらの話がほとんどだったが、それら全ては上辺しか見据えておらず仮定でしかないことを俺は知っている。
彼女の正体を知っているのは選ばれし我ら美化委員だけでいい。皆はレミ先生の綺麗な所を観ていればそれでいいんだ。
「「...........ウム」」
先程、俺を睨んでいた相方の美化委員も
これにはしかと頷く。
俺達二人が宿す想いは同じだ。
平穏を保つ為に黙っていよう。
サンタクロースの正体をあえて口に出さないように、夢を守るのも美化委員の仕事だからな。
※絶対違う
「はいそれじゃあSHR始めるよー!」
そして彼女の声をキッカケにSHRが始まる。
~~~~
「ーーこれで連絡事項は終わりです。他にまだ言ってない人がいたら早急に」
SHRの内容は単純に教科係からのお知らせと連絡事項のみだったが最後に彼女が爆弾を用意していた。決して胸の爆弾と掛けて言ったわけじゃない。
「一学期がスタートしてからだいたい三週間程。皆さんは新しいクラスに慣れてきましたでしょうか?環境の変化に慣れていない生徒もまだいると思います。皆と仲良くなりたくても前に出るのが怖いとか恥ずかしいといった生徒もいると思います」
確かに三週間経ったと考えるとこのクラスは少々まとまりが悪い。
その原因はそれぞれの人間性や、仲がいい友達と離れ離れになってしまったことが考えられるが俺はもっと大きい理由があると思っている。
それはこのクラスに中瀬愛梨がいることだ。
元々ファンクラブは、それぞれ四人の生徒が1-A,1-B,1-C,1-Dの四つの教室に別れていたことで始まったものだと俺は聞いている。
それぞれのファンたちが列を作り人を束ね集めることでファンクラブが結成された。
だから愛梨のファンは1-C出身の人が多い。それでいうと1-Bの出身の人は九条さんのファンが多い。あとの二人はノリィから聞いていないのでよく分からない。
進級したことでファンクラブの面々が散り散りになり、それぞれで推しの衝突が起こるようになった。新学期始まって一週間くらいはバチバチにやり合っていたのを遠目に見ていたのを思い出す。
「そこで来月に行われる体育祭でもっとクラスの親睦を深めていきましょう!!!個人ではなく団体で練習をすることで、また新しいコミュニケーションを取ることが出来ると私は考えています!!」
そうか、体育祭......もうそんな季節なのか。
俺は去年全く体育祭に参加しなかったので体育祭が近づいていることさえ眼中になかった。ただでさえバイトで忙しいのに学校の事まで考えてたまるか。
「そこで今から体育祭実行委員を二人選出していきたいと思います!!!いぇぇぇぇい!!!皆拍手ーー!!!!!!」
「「「「..........パチ......パチ」」」」
「あの皆........もうちょっと元気出していこうよ」
皆がこうなるのもおかしい事ではない。
なぜならばこの学校の体育祭は
前年度は生徒会と実行委員が協力して体育祭を運営していたが、部外者の俺から見てもその働きは過労にしか見えなかった。
大会運営にテント、本部設営、各種装飾、練習スケジュール管理、また実行委員のみが行う種目なども存在することから実行委員の負担は絶大なのだ。
「確かに前年度は実行委員の負担が大きくて大変だったかもしれませんが、今年は各委員会、各部活との連携を視野に準備を進める予定なので、そこまで仕事が重なることは無いと思います」
「「「............」」」
クラスに沈黙が訪れる。
先生はこのSHRの間に実行委員を決めようと思ったのだろうが、想像以上にクラス内の実行委員への抵抗が大きかったようだ。
「はい!私が実行委員をやります」
そしてこの不穏な空気を塗り替えるように一人の生徒が天を突くように手を上げた。
堂々たる声でそう言う彼女はさっきまで話題の中心になっていた当事者の
「中瀬さんやってくれるのね!!!本当にありがとう!!」
「私は、去年の体育祭に関わっていなかった身なので......今年はこのクラスを優勝に導いていきたいなって」
「素晴らしい考えだわ!!流石中瀬さんね!!」
そう、まさかの中瀬愛梨の立候補。
この瞬間
クラスの男子に電流が流れた。
それは電気信号となって脳から脊髄、神経を通って腕まで至る。
そしてその命令は彼らにとって最優先事項であり、絶対に引き返してはいけないものであった。中瀬愛梨が立候補するとは即ち
戦争である。
「「「「「「「「俺(僕)がやります!!!」」」」」」」」
「あら?人数が多いわね?」
「これだとちょっと多いですね。一人に絞って貰わないと」
「「「「「「「「...........」」」」」」」」
睨み合う男たちは今にも飛び掛かりそうな覇気を感じさせる。
その目線だけで会話が成立していそうな程に濃密な空間だった。
その口火を切るのは学級代表の鈴森。
「なぁ......ここは学級委員である俺が担当するのがセオリーじゃないか?みんなもそう思うだろう?」
「「「「「「「思わない」」」」」」」」
「あ.......そうかもしれないが。事実、実行委員という仕事は本来ならば学級委員が担当するものだ。それを今回は挙手制に変更しただけであって.......」
「「「「「「「じゃあ最初に手を上げとけよ」」」」」」」
「あ...........うん」
哀れ鈴森。
下心透けすぎ、フォローに入る気も起こらない。
だがこのままだと一向に話が進まないだろう。それぞれが自分こそ相応しいという思いで立候補したんだからな、これしきで退いてたら手上げねぇよ。
そして俺の予想通り議論は白熱する。あれでもこれでもないと意見に意見を重ね、また振出しに戻る。
本来SHRで用意されている時間を目いっぱいに使っているようだ。レミ先生もクラスの女子達と同じように呆れかえっている。
「そんなことせずにじゃんけんとかくじ引きとかでいいと思うんだが」
「じゃあ大晴君が当たったら実行委員やってくれるの?」
「!!!!!!」
耳元で吹きかけられた声。
それはまるで俺を闇に誘うような、魅惑的な声色だった。
「って......愛梨......なんでこっちきた」
「何でって......確認かな?」
「確認?別に俺は実行委員になる気はないけど」
「でもくじ引きで当たったりとかしたらやるんだよね?」
「まぁ.......やるけど」
「ふぅん.........決まりだね」
「え?」
そういうと彼女は教卓に移動し、黒板にチョークで何かを書き始めた。
彼女が書き始めたタイミングで女子生徒の何人かが気付き、波が伝わるようにクラス全体が愛梨の動向に注目を集める。
~~~~
「よし、これくらいで大丈夫かな」
彼女が書いたのは簡易的なあみだくじ。
上には各生徒の名前、下には番号の羅列が書かれている。
見た感じはごく普通の一般的なあみだくじだった。
そして彼女は説明を始める。
「はい、ここに男子一人につき二本線を足していって貰います。そして最終的なあみだくじの番号と私が放課後に引くカードの番号が同じだった人が実行委員ということでいかがでしょうか?」
ランダム制とランダム制を合わせた選出方法。
あみだくじにはイカサマは出来ないし、カードを引くのは愛梨だから男子生徒は全員平等の立場で選出されるってことか。
ちょっとツッコミたい事あるけど、まぁいいか。
「この方法でいいですか?」
「「「「「「「「はい」」」」」」」」
そうして俺たちは線を二本ずつあみだくじへ書き足していき、最終的に30本以上もの線が書き足されることになった。
そしてあみだくじの結果は.......
「俺は........44」
44......なんか幸先よくない。
こんな所にまで不運が来ているなら俺はこの先どうしろと言うんだろうか?
これはもう神社案件だ、近くの神社に今すぐ駆け込みたい。
「大晴君は何番だったの?」
「え?あぁ......44だった」
「へぇー.......私は大晴君とやりたいから44番が出るようにお祈りしないと」
なんだろう。彼女の言葉が嘘っぽく聞こえる。
彼女は笑いながら手を合わせて祈るフリをしているが、さらさら祈る気など無いように見える。多分勘違いだ......そう......だよね?
そして俺は心残りを抱えながらも結果発表を迎えるのだった。
~~~~
「あのさ.......愛梨」
「なあに?大晴君」
「あみだくじは分かるんだよ。ランダム制で平等に確率を変える権利もあるからな、イカサマの可能性は極めて低いと言えるし」
「うん。それで?」
「最終的な決定権はそのカードだ。カードの番号で決められるんだったら事前に決めたい奴の番号だけ把握しておけば充分イカサマができる範囲になる」
「それで?」
「人望の高さなら愛梨が一番だと俺は思っている。だからカードを引く人間が愛梨であっても誰も文句は言わないし、その人望が『イカサマ』という可能性を頭から外す」
「それで?」
「事前にカードが引けることを確信していて、尚且つ目当ての相手のカードも把握している。この状況で考えることは一つだ」
「何が言いたいの?」
「愛梨............お前謀ったな?」
「さぁて何の事でしょうか?」
「というわけで今年の体育祭の実行委員は『加賀美大晴』くんと『中瀬愛梨』さんです。実行委員として素晴らしい体育祭にしてくれることを期待しましょう!!!!」
「「「「「「悔しいが......完敗だな」」」」」」」
放課後の教室に拍手が巻き起こる。
先程までいがみ合っていた彼らも落ち着きを取り戻し、ただ悔しがるだけに留めている。先生はようやく決まったことに安堵し、次の仕事の事を考えているのだろう。
が俺はそれどころじゃなかった。
「じゃあこれからヨロシクね?大晴君♡」
中瀬さんが俺を見つめる顔が、セイを見ている時と瓜二つだったからだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます